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【取材ノート:東京V】すべては「チームのために」。綱島悠斗が試行錯誤の末にたどり着いたレギュラー奪取の鍵

2025年4月8日(火)
4月2日(水)にFC東京との『東京ダービー』、中2日後の5日(土)に横浜F・マリノスとの『クラシコ』と、東京ヴェルディにとって先週はサッカーファンからの注目度が非常に高い試合の連続だった。結果は、2−2、0−0といずれもドロー。FC東京戦は二度もリードを奪いながらも後半44分に追いつかれ勝点2を失う形となり、横浜FM戦は相手にほとんどビッグチャンスを作らせなかったものの、自分たちも決定機を決めきれずスコアレスドローと、それぞれ笑顔なき勝点1だった。



この結果を、綱島悠斗は人一倍悔しがった。ジュニア時代からユースまで東京ヴェルディのアカデミーで育った生え抜きっ子にとって、『東京ダービー』は小学生の時から「絶対に負けるな」と言われ続けてきた“特別な一戦”。また、1993年のJリーグ開幕カードであるヴェルディ川崎(現東京ヴェルディの前身)vs横浜マリノス戦が『クラシコ』と称され、クラブ、さらには日本サッカー界の歴史にとっていかに重要な対戦カードであるか。そのどちらの意義も、綱島はヴェルディ戦士として重く、真摯に受け止めているからである。

「すごく悔しいですね。ダービーもですし、今回の横浜FMさんも、絶対に勝たなきゃいけない相手だったと思います。何より、勝てるチャンスがあったからこそ、なおさら悔しい思いでいっぱいです」

ユースからトップ昇格を果たせず国士舘大学に進学。4年越しの念願を果たし、2023年に東京Vトップチームの一員となりプロ生活をスタートさせた。今季で3年目を迎えているが、その悔しさ、勝てなかったことへの責任感は一昨年、去年よりもはるかに強いに違いない。なぜなら、チームにおける立場が大きく変わっているからである。

J2で過ごした1年目は、34試合に出場するもベンチスタートが多く、出場時間は1338分(フルタイム=42試合、3780分)だった。初のJ1となった2年目は30試合、1801分(同38試合、3420分)と出場時間は増えたが、スタメン起用されるようになったのは第13節鹿島アントラーズ戦と、監督・コーチからの信頼を得るのに時間がかかった。また、大学時代に本職としていたボランチで勝負したいと望んでいたが、過去2シーズンではセンターバック(CB)、サイドバック(SB)、フォワード(FW)など、チーム事情や試合展開によって複数ポジションで起用されていた。
しかし、今季はここまで3バックの右センターバックとしてリーグ戦全9試合に出場。プレータイムも773分(全810分中)とフィールドプレーヤーの中では最長を誇っている。当然、レギュラーの一人としてチームの勝敗の責任感、より強いチームになっていくための向上心はチーム屈指だ。

いま、先発メンバーとして試合に出続けられているからこそ、綱島にはあらためて感じていることがある。

「今まで、CB、ボランチ、時にはFWだったりで起用されるなど、自分が望んだような出場の仕方はできていなかった。それでも、どんなポジションで使われても、このチームのために何が大切なのかというのは、この3年ですごく学ぶことができました。それに、いろんなポジション、ベンチスタートの立場を経験したからこそ、それぞれのポジションの選手や途中から入ってくる選手の難しさなども理解できるのかなと思います。今思えば、逆に、一昨年、去年がなかったら、今、自分は(悪い意味で)違う景色を見てたのかなと思うので、城福監督、コーチの方々に選手としての幅を広げていただいたことに、ものすごく感謝しています」

綱島が学んだという「このチームのために何が大切か」とは。

「どのポジションでも共通するのは、『チームのために自分を犠牲にできるか』。このチームは、そこを大切にしていると思っています。チームのためにキツいけど走ったり、ハイボールに対して、相手が足で来るような危険なところも頭で行ったり、チームを少しでもプラスにするために自分の犠牲を払うっていう姿勢というのはすごく学びました。
たとえそれがミスになっても、ミスに関しては一切城福さんは指摘しませんし、その姿勢ややり方は、自分の意識ひとつで変わります。『技術を上げろ』と言われてもすぐには上がらないですが、『チームのためにやれ』と言われたら、その瞬間からできると、僕は思っています。自分自身、そこが成長できた要因だと思っているので、もちろん自分にも周りにも、これからも要求していきたいなと思っています」

だからこそ、言わずにはいられなかった。

「その1つとして、横浜FMとの試合が終わった直後に、白井亮丞にはすごく強く言ったんです」
と、綱島は明かす。

「僕が言うなんて、『どの目線で言ってんだ?』と思われるかもしれませんが、彼(白井)のポテンシャルを考えたら、横浜FM戦のピッチで見せたパフォーマンスでは物足りないと思いますし、あいつは今、FWに怪我人が出てしまったりというチーム状況のおかげでチャンスが廻ってきてるけど、そのチャンスをモノにしないと、これから先、チャンスが毎回巡ってくるわけではないので。特にFWというポジションは、海外から外国籍選手を獲ってきたりする可能性もありますから。もちろん、彼だって必死にやっていないわけではないと思います。でも、僕から見たら、あいつはもっとできると思うんですよ。僕だけじゃなくて、もしかしたら他の選手からも、その他の周りの人からもいろいろ言われていると思うので、悔しさはあると思います。なので、そういうギラギラしたところをもっと見せてくれないと。『もっと来いよ!』『遠慮してんじゃねぇぞ!!』という気持ちで、僕はあいつにはっきりと伝えました」

アカデミーの後輩であり、才能豊かな19歳FWへの期待値、思い入れが強いからこそ、“必死さ”をプレーで表現することで、見られる景色が変わることを是が非でも伝えたいのである。

「もちろん、試合中のミスに関しては僕は一切言っていません。その中で、(横浜FM戦で)自分が気になった点が2つあって。
誰のボールでもない時にスタートが遅かったり、相手が後ろ向きの時のボールへの寄せだったり、1回はたかれた後のリカバリーなど、このチームは途中から出た選手が2度追い以上するのが当たり前なんですよね。そこを、彼にはそういうつもりはなかったかもしれませんが、僕が後ろから見てて感じたのは、後ろの目を気にして『なんで来ないんだ?』というようなジェスチャーで守備をしていて。僕はそこを一番『おまえがもっとやれよ』と伝えたかった。
なおかつ、パスを出した選手の意図と自分の動きが合わなかった時に、『いや、俺は今こっちだよ』というような仕草をしたんですよね。『そんな仕草はないぞ』と思いました。それは終わってから言えばいいわけで、試合中は少しでも早く切り替えをすることが大事だということは、あの試合が終わってから彼には強めに言いました」

もちろん、人に言う以上は、それ以上に自分自身がしっかりと足元を見つめて成長を続けなければいけないことは重々理解している。

「今試合に出ているからといって指定席はないですし、今までやってきたこと以上に自分がやらないと、このポジションを確立するのは難しいと思っています」
 
チーム現在3試合連続ドローと、なかなか勝ちきれていない。その一番の課題として、城福監督は「ゴール前のクオリティというのをどう上げていくか」を挙げた。綱島はDFだが、攻撃参加も大きな武器として持つだけに、“得点”を生むことへの意識は非常に強い。

「もちろんDFなので一番はディフェンスがタスクですが、怖いエリアにボールを入れていかなければいけません。そこの判断というのは慎重になる必要がありますよね。むやみに入れていくのもカウンターのリスクには繋がりますし、でも入れなさすぎると何も起きない。僕は、アタッキングサードは50%の確率があるのであれば入れた方がいいと思っていて、僕自身は、そこに入れるボールの質、種類という部分をすごく意識しています。そこを、森下仁志コーチからも言われているのですが、ボールの種類で味方の優位性、50%を55%だったり60%に増やせるようなボールを自分が配球する。その判断の質というところを追求して、ゴールに貢献したいなと思っています」

攻守において、味方にとってより頼れる選手に。相手にとってより怖い選手に。圧倒的な存在となるべく、いかなる困難も学びとし、血肉にして成長し続けていく。

Reported by 上岡真里江