
シャハブ ザヘディに今シーズン初ゴールが来た、と一瞬思った。
「自分も同じことを思っていました(笑)。あれがアシストとして自分のものになればいいなと思っています」
1点を追う明治安田J1リーグ第7節・町田戦の22分、CKの流れから北島祐二のクロスが中央に入ってくる。ニアサイドに構えるザヘディが頭で合わせたかに思われた。しかし、ヒットはせず、その後ろにいた安藤智哉が足で合わせてゴールが生まれた。
「コンディションとしても気持ち的にも非常に良くなっていると思います」
28分には志知孝明のパスを受け、相手DFと上手く入れ替わり、得意の左足で強烈なシュートを放つなど、ここまで自身のゴールはないが、チームの攻撃を活性化させ、決定的なシーンに数多く絡むストライカーのコンディションは試合を重ねるたびに確実に上向いている。
振り返れば約1年前、福岡にやってきたJリーグ初のイラン人プレイヤーは、強烈なインパクトを残した。加入直後から8戦6発。ザヘディにボールを預ければ何かやってくれる。ワクワク感を与えるプレーで見る者を魅了し、シーズントータルではチーム最多となる9ゴールを挙げてリーグ最小得点の福岡を救う貴重な存在となった。だが、夏場以降は日本独特の高温多湿の暑さや相手の研究によって、彼本来の力を発揮できない日々が続いた。
そんな悔しさを晴らすべく、今シーズンは前向きな状態になれば相手も簡単に止められないスピードと力強さを支えるフィジカル面に磨きを掛けるだけでなく、昨シーズンは2度の退場処分を受けるなどピッチ上での感情のコントロールに苦慮したメンタル面の改善も見られる。
「チームのトレーニングが非常に質の高いものですし、チームのトレーニングとは別に自分で追加で取り組んでいることもありますし、それは自分のパフォーマンスをより良くするためにやっているので」
さらに見木友哉が「シャハブはスピードもありますし、シャドーに相手のセンターバックが喰いついてきたら簡単に(トップの)シャハブを使ったりすると結構マイボールにしてくれるので、そこはチームとして共通理解があるのかなと思います」と言うように今のチームの中でザヘディを活かす術も定まりつつある。
点取り屋のザヘディが求め、周囲から求められているのは、もちろんゴール。その最終目的地にどのような過程を経て辿り着くのかに今シーズンは変化がある。チーム戦術の中でどのように自身の特長を発揮するのか、ゴールを奪いやすい状況をチームメイトとどのように構築するのかがより洗練され、昨シーズンまで以上に“フィニッシャー”の役割に専念できている。
「チームとしてそこら辺はすごく計画が練られているものではありますし、チームが、各個人が自分の責任というのを理解していると思いますし、ピッチ上でも前の試合に比べてちょっとずつ良くなっているというのは皆さんに見てもらえるんじゃないかと思います。
(金)明輝監督は去年とはかなり異なったやり方をしていますが、選手の配置や戦術というものは自分はすごく好んでいますし、その中で自分としても毎日成長できるように努力しています。攻撃の部分に関しては、自分以外の選手も、自分に対してよりいいパフォーマンスを期待しているというふうに思っています」
攻撃だけではない。現代サッカーにおいてFWにも必ずと言っていいほど求められる献身的な守備。ザヘディもそれをきちんと理解し、ピッチで体現しようと懸命に励んでいる。
「(守備のタスクは昨シーズンとは)かなり違うというふうに思います。去年よりもスプリントの数はかなり求められていますが、明輝監督のチームでプレーしたいのであれば、毎日のトレーニングにハードワークで取り組まないとダメだというふうに思っています。特に自分のポジションに関しては、競っている選手にはかなり優秀な選手が多いので、自分はピッチ上でさらにいいパフォーマンスを出さないといけないというふうに思っています。今は一番前の選手からプレスをかけないといけないので、自分はすごく責任を感じているところです」
新指揮官が掲げるサッカーに適応しようと精力的に取り組むザヘディについて金監督はこう話す。
「本当に細かいぐらいにアプローチしています。映像も見せて、スタッフもよくやってくれています。シャハブもやはりゲームに出るのであればというところで言えば、得意な攻撃ばかりだと難しい。それに攻撃にしても、タスクもしっかりと分けながらという形ですね。以前はあっちに行ったり、こっちに行ったりということでしたが、今はやれる選手たちが多いんで、真ん中で待ってたらいいボールがくるからというのは伝えているし、前向きの状態を作れば彼の良さが出るので。それにいい守備をすれば自分にまたチャンスが恩恵として返ってくる確率が高いし、自分が前線でいい規制をすれば、後ろで奪ってくれて自分がまたチャンスをもらえるので、点を取るための守備だというポジティブな表現も彼にもしながらアプローチしています。求められているものは昨年とは全然変わっていますが、あっちこっちに振られるよりは、しっかりと相手を規制するということの整理はできているかなと思いますね」
ここまでFWのゴールは第3節にナッシム ベン カリファが挙げた1点のみ。だからこそ、ストライカーの代名詞である9番を背負う男に掛かる期待は大きい。「次(の試合でゴールが決められるように)祈ってください」。そう言ってニヤリと笑いながらザヘディはミックスゾーンを後にした。
Reported by 武丸善章