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【取材ノート:東京V】一(いち)サッカー選手として、“ヴェルディ”でプレーする悦びを胸に。長沢祐弥が虎視眈々と機をうかがう

2025年3月27日(木)


『努力は必ず報われる』

その言葉の正しさを、また、長沢祐弥も教えてくれた。

3月20日、JリーグYBCルヴァンカップ 1stラウンド 第1回戦 - AC長野パルセイロ vs 東京ヴェルディ。先発メンバーにはリーグ戦とほぼ同じ顔ぶれが並んだ中で、ゴールキーパーには正GKのマテウスではなく、長沢が選ばれた。


終始試合の主導権を握りながらも、“1”点がなかなか決まらない。「ああいう試合というのは、1本で変なシーンで失点してしまうことがあるので、そこだけは細心の注意を払っていました」(長沢)。延長戦も含め、120分間通して高い集中力が途切れることはなかった。

そして、PK戦へと突入すると、2本のシュートを阻止し、この試合のヒーローに輝いた。「毎週、試合前にPK練習はしていますが、長沢はそういうトレーニングにおいて1本、2本を一生懸命集中して取り組んでくれている。その成果が出た」と、城福浩監督も日頃の鍛錬の結実だと讃えた。

それでも、長沢本人に喜びの笑顔はない。

「公式戦に出られたことは嬉しかったですが、まだたかが1試合。それに、相手はJ3で僕らはJ1だというカテゴリーの差を考えれば、勝って当たり前でなければならない。もちろん、無失点で、PK戦で2本止められて、その結果勝てたことで少しはアピールにはなったと思いますが、自信とか手応えとはまたちょっと違うのかなと思います。もっとアピールしなきゃです」

2021年に東京Vに加入して以来、常に正GKにはマテウスの存在がある。「マテウスの座」が、今季も一番の目標だ。

日々成長を目指している中で、昨年、舞台がJ1に上がったことで強く感じさせられたことがあった。

「ベンチからJ1チームのGKを見ていて、試合の中でチームを救ったり、流れを変えるようなスーパーセーブがすごい多いなと。“ここぞ”という時の力の出し方が自分に足りないものだなと思いました。やはり、サッカーは点を取るスポーツですし、J1となるとフィールドプレーヤーにも良い選手が揃っていて、どんな試合でも1回は絶対にピンチある。その中で、その決定機で止めたり、PKを止めるのが普通みたいなGKもいる。『マジかよ?』と、相手を落胆させるようなセーブで、勝点を持ってこられるようなGKが多いなと思いました」

まさに、マテウスもビッグセーブの多いGKだ。「今はマテの方が勝ってる部分が多いから、マテが試合に出ている。シンプルに、僕の実力不足だなと思います」と、現状の自分の立ち位置を真摯に受け止めている。一方で、「かといって、実質、マテに勝てないとも思っていない」との思いも当然持っている。

ただ、よくGKから聞こえてくる、「自分の状態がどんなに良くてもなかなかチャンスが巡ってこない」「自分のミスではなくてもチームが負けると代えられてしまう」といった、“理不尽さ”を感じることはないという。

「仮にそういう状況になっても、『そういうもんだろ』くらいな感じ。僕は、本当に評価されさえすれば、負けても使われ続けるだろうと思っているので」

長沢は、自身のスタイルを「ちょっとマラソンに近い感覚がある」と表現する。

「FWは、いくら自分のパフォーマンスが悪くても、点を取ればヒーローになる。でも、GKはミスなくやっていくというか。これは僕の中での考えですが、90分ミスなく、淡々とというのが一番いいのかなと。だからこそ、ビッグセーブ一発で流れを変えちゃえるGKとか、すっごい憧れますけどね。僕が違うタイプなので、そういうタイプがめっちゃかっこいいなと思います」

自身の最大の長所である“安定感”はさらに磨き、憧れる「一本のセーブで試合の流れを変える力」を今後身につけていくことこそ、ポジション奪取の鍵となるに違いない。

長沢は、決して口数が多いわけではない。だが、「ヴェルディが好き」とはっきりと口にするほど、このクラブでプレーすることへの想いは非常に強い。

「沼津からこっち(東京)に来る時から、僕の中では“ヴェルディ”って特別感があるんですよね。実際に入ってみて、歴史も含めて、さらに好きになりました。だからこそ、J1にいて、いい結果を残していかなければダメなんだろうなと、強く思いますね。でも、試合に出ていないので、今の僕はそんなに偉そうはことは言えない。なので、とにかく成長して、試合に出て、まずはヴェルディのために貢献したいなと思っています」

いつでも試合に出る準備はできている。今日もまた、ひたすら最善の努力を積み上げ、“チャンス”の瞬間に向けて爪を研ぎ続ける。

Reported by 上岡真里江