
カップ戦と言えば、切っても切れないものにペナルティキック(PK)戦がある。緊迫感の中、GKとキッカーの1対1を繰り返し、勝敗を決する。一蹴り一蹴りに明と暗が訪れ、できればやりたくないものだが、次のラウンドに進むチームを決めなければいけないカップ戦ならではのもの。それは同時に、GKがヒーローになれる数少ない機会でもある。
JリーグYBCルヴァンカップ 1stラウンド 第1回戦に臨んだRB大宮アルディージャは、ホーム・NACK5スタジアム大宮にいわきFCを迎えた。16分にいわきに先制を許し、さらに32分には一発レッドで1人少なくなるアクシデント。それでも粘り強く、追いつ追われつのシーソーゲーム120分間を3-3のタイスコアで戦い抜いた。
残るはPK戦。大宮はJリーグカップでPK戦を戦ったことはないが、同じくカップ戦である天皇杯では過去4戦して1勝3敗。2011年には福岡大学にジャイアントキリングを喫するなど、あまりいいイメージがないのが正直なところだ。
だが、この日はどことなく違った。ゴールに立つのは、今季公式戦初出場の加藤有輝。その堂々とした出で立ちからは、何かを起こしてくれそうな、そんな雰囲気が漂っていた。

「前日からすごくいい状態というか、いい準備ができたんですよね」
いわき2人目のキックは中央を突かれたが、残した左手で見事に弾く。大宮も富山貴光が止められ、両チーム規定の5人目を終えても4-4とイーブンのまま。さらに続いた8人目、先攻のいわきのキッカーのキックを横っ飛びで止めると、その裏、大宮8人目の安光将作が思い切りよく蹴り込み、約3時間の激闘に終止符が打たれた。
8人のキッカーと対峙した加藤だったが、完全に逆を突かれたのは2人だけ。ボールには触れたが惜しくも止められなかったキックも2本あった。
「前日だけじゃなくて、サガン鳥栖に負けた後の週明けから、自分の中でも感覚がすごく良かった。自分が思う方向に飛べば結果はついてくるのかなと思ってました」
研ぎ澄まされた感覚が、チームに次のラウンドで戦う権利をもたらした。間違いなく立役者であるが、加藤は謙遜してこう話した。
「ヒーローになったって感覚は全然なくて、3点も取ってくれてる中で3失点してしまったのは自分の中ではけっこう悔しいところ。もうまた次へ準備していきたいと思います」
カップ戦要員ではなく、現在の正守護神である笠原昂史と渡り合えるところまで。加藤の精進はまだまだ続く。
Reported by 土地将靖