開幕から2試合は無得点で、昨年(開幕から4試合無得点)の二の舞になることが心配された藤枝MYFCだったが、明治安田J2第3節秋田戦以降は3試合で7得点。須藤大輔監督が宣言する「超・超・超攻撃的エンターテイメントサッカー」の片鱗を見せつつある。
中でも一際光る得点感覚を見せているのが、今週(3/19)で34歳になった右センターバックの久富良輔だ。DFながら甲府戦、いわき戦と2試合連続でゴールを決め、今のところチーム内の得点王となっている。
実際、ゴールシーンを振り返る久富自身の言葉も興味深い。まず甲府戦の得点に関しては次のように語る。
「狙いとしては、最初のカネ(金子翔太)からのボールがすごく良かったので、自分がニアでフリックして点を取るというのが一つやりたかった形ですが、その後ボールが高く上がったときに、たぶんここに来るなという感覚があったんですよ。セコウ(ディアマンカ センゴール)が相手ともつれて、大きく弾かれるというより近くにこぼれてくるんじゃないかなと。それで周りを見たときに味方も相手も足が止まっている感じがして、ボールが高かったので速く走りすぎると逆に詰まっちゃうなと思って、走りながらシュートが打てるようにタイミングを計りながら動きました。そこに本当に(ボールが)転がってきてくれたという感じでした」(久富)
その言葉通り、あの一瞬の間に久富だけがボールのこぼれる位置を正確に予想していち早く動いていた。まるで予知能力があるかのような動き方が「古橋っぽい」と言われる由縁だが、わずかな時間でこれだけの分析と判断を行なっていたことにも驚かされる。
いわき戦のゴールに関しても、同様に予測の的確さが光った。
「(FKからの千葉)寛汰のシュートがバーに当たって跳ね返ったとき、エド(川上エドオジョン智慧)がワンタッチでキーパーとの間にフワッと落としてくれるかなと思ったんですが、自分は(川上の)真正面だったので直接は難しいかなと思いました。それでファー側にボールが上がった後に当たった人からこぼれてきそうだなと感じたのでポジションをとって、それが本当にうまく流れてきて……痛い思いをしながらボールをくれた(森)侑里に感謝ですね」(久富)
いわゆる“ゴールへの嗅覚”と呼ばれるものを体現したような2得点。本職のストライカーにも学ぶべきことが多いゴールシーンだった。またそれは、彼が日頃の練習から磨き続けていることの賜物でもある。
「攻撃でも守備でも、相手や味方が何を考えているのか、自分で予測を持って動くというのは、すごく大事なことだなと年々感じています。そこは長くやって経験を重ねている分、こういうときはこうなるシーンが多いなとか予測が磨かれてるんじゃないかなと思います」
昨年のコラムでも、久富が今も成長過程にあることをお伝えしたが、それが得点力としても表われてきたことは筆者の想像を上回ってくれた。
またゴール直前にさまざまな状況判断を繰り返している際には、時間がゆっくり流れるような感覚が「何となくあります」と彼は言う。それは極度に集中力が高まったときにたびたび表われる現象で、スポーツの世界では「ゾーンに入った」とも言われる。久富のサッカーに対する真摯さが、その境地に近づく後押しになっているのかもしれない。
「常にゴールを向いた姿勢で、足を止めないでゴールへ向かって行くと必ずボールは落ちてくるよという話はいつもしています。僕自身(元FW)現役時代にそういうゴールが多かったので。でも藤枝には、それが足りなかった。何かきれいに崩そうとか、あやふやなボールを入れるのは悪みたいな感じになっていた部分はあると思います。でも、シュートを打つ選手の状況を見て、ファーに流れてくるだろうなと予測して動いていれば楽に点を取れるんですよ。今季もそれで2点ぐらい取れてるはずなのに、見逃している。選手には年間5ゴールはこぼれ球で取れると言ってます。そういう要求をドミ(久富)がしっかりと実践して、結果を出してくれているので、他の選手も真似してほしいです」(須藤監督)
久富自身も「予測と足を止めないということは、チームとしてすごく意識づけてしてくれてますし、もしボールが来なかったとしても、それをやり続けるということを大事にしています」と言う。
集団食中毒という非常事態の渦中(秋田戦)で今季のチーム初ゴールを決め、攻撃に火をつけた浅倉廉も、久富の得点に強い刺激を受けている。
「点を取るために一番大事なことをドミくんがやってくれていると感じます。そこは自分に足りないもので、予測力と信じて走ることと両方があると思うんすけど、そこを自分も盗んで身につけていきたいなと、あらためて思いました」(浅倉)
出場試合数がクラブ史上2位の22番が背中で伝えているメッセージは、単なる2得点に留まらない非常に大きな価値のあるものだった。
Reported by 前島芳雄
中でも一際光る得点感覚を見せているのが、今週(3/19)で34歳になった右センターバックの久富良輔だ。DFながら甲府戦、いわき戦と2試合連続でゴールを決め、今のところチーム内の得点王となっている。
予知能力があるかのように
2点ともセットプレーの2次攻撃からのこぼれ球を押し込んだゴールなので、高さやフィジカルで奪ったものではない。それよりも、こぼれ球への予測や反応、ポジショニングの良さが表われた得点であり、周囲からは「古橋亨梧みたい」ともささやかれている。実際、ゴールシーンを振り返る久富自身の言葉も興味深い。まず甲府戦の得点に関しては次のように語る。
「狙いとしては、最初のカネ(金子翔太)からのボールがすごく良かったので、自分がニアでフリックして点を取るというのが一つやりたかった形ですが、その後ボールが高く上がったときに、たぶんここに来るなという感覚があったんですよ。セコウ(ディアマンカ センゴール)が相手ともつれて、大きく弾かれるというより近くにこぼれてくるんじゃないかなと。それで周りを見たときに味方も相手も足が止まっている感じがして、ボールが高かったので速く走りすぎると逆に詰まっちゃうなと思って、走りながらシュートが打てるようにタイミングを計りながら動きました。そこに本当に(ボールが)転がってきてくれたという感じでした」(久富)
その言葉通り、あの一瞬の間に久富だけがボールのこぼれる位置を正確に予想していち早く動いていた。まるで予知能力があるかのような動き方が「古橋っぽい」と言われる由縁だが、わずかな時間でこれだけの分析と判断を行なっていたことにも驚かされる。
いわき戦のゴールに関しても、同様に予測の的確さが光った。
「(FKからの千葉)寛汰のシュートがバーに当たって跳ね返ったとき、エド(川上エドオジョン智慧)がワンタッチでキーパーとの間にフワッと落としてくれるかなと思ったんですが、自分は(川上の)真正面だったので直接は難しいかなと思いました。それでファー側にボールが上がった後に当たった人からこぼれてきそうだなと感じたのでポジションをとって、それが本当にうまく流れてきて……痛い思いをしながらボールをくれた(森)侑里に感謝ですね」(久富)
いわゆる“ゴールへの嗅覚”と呼ばれるものを体現したような2得点。本職のストライカーにも学ぶべきことが多いゴールシーンだった。またそれは、彼が日頃の練習から磨き続けていることの賜物でもある。
「攻撃でも守備でも、相手や味方が何を考えているのか、自分で予測を持って動くというのは、すごく大事なことだなと年々感じています。そこは長くやって経験を重ねている分、こういうときはこうなるシーンが多いなとか予測が磨かれてるんじゃないかなと思います」
昨年のコラムでも、久富が今も成長過程にあることをお伝えしたが、それが得点力としても表われてきたことは筆者の想像を上回ってくれた。
またゴール直前にさまざまな状況判断を繰り返している際には、時間がゆっくり流れるような感覚が「何となくあります」と彼は言う。それは極度に集中力が高まったときにたびたび表われる現象で、スポーツの世界では「ゾーンに入った」とも言われる。久富のサッカーに対する真摯さが、その境地に近づく後押しになっているのかもしれない。
「点を取るために一番大事なことを教えてくれている」
もうひとつ、久富の2ゴールは須藤監督が求めていることの体現でもある。「常にゴールを向いた姿勢で、足を止めないでゴールへ向かって行くと必ずボールは落ちてくるよという話はいつもしています。僕自身(元FW)現役時代にそういうゴールが多かったので。でも藤枝には、それが足りなかった。何かきれいに崩そうとか、あやふやなボールを入れるのは悪みたいな感じになっていた部分はあると思います。でも、シュートを打つ選手の状況を見て、ファーに流れてくるだろうなと予測して動いていれば楽に点を取れるんですよ。今季もそれで2点ぐらい取れてるはずなのに、見逃している。選手には年間5ゴールはこぼれ球で取れると言ってます。そういう要求をドミ(久富)がしっかりと実践して、結果を出してくれているので、他の選手も真似してほしいです」(須藤監督)
久富自身も「予測と足を止めないということは、チームとしてすごく意識づけてしてくれてますし、もしボールが来なかったとしても、それをやり続けるということを大事にしています」と言う。
集団食中毒という非常事態の渦中(秋田戦)で今季のチーム初ゴールを決め、攻撃に火をつけた浅倉廉も、久富の得点に強い刺激を受けている。
「点を取るために一番大事なことをドミくんがやってくれていると感じます。そこは自分に足りないもので、予測力と信じて走ることと両方があると思うんすけど、そこを自分も盗んで身につけていきたいなと、あらためて思いました」(浅倉)
出場試合数がクラブ史上2位の22番が背中で伝えているメッセージは、単なる2得点に留まらない非常に大きな価値のあるものだった。
Reported by 前島芳雄