
J1第6節名古屋グランパス戦で、東京ヴェルディは今季2勝目を飾った。ホームでの勝利はこれがシーズン初。勝った試合のあとの恒例となっているチームとファン・サポーターによるゴール裏での『ラインダンス』も、今年も無事にスタートした。
その際、この試合のヒーローの一人・山見大登がお立ち台に立ち、トランジスターメガホン(トラメガ)で声援への感謝を伝えた。胸には大きく『13』の背番号。山田剛綺のユニフォームを前後反対に着ていたのだ。山見にとって山田は関西学院大学の1学年後輩で、最も気を許せる存在だと言っても過言ではない。その山田が3月2日J1第4節G大阪戦で左ひざの複合靱帯損傷および半月板損傷の大怪我を負い、全治8ヶ月と診断を受けた。ファン・サポーターへの謝意とともに、山見は長期離脱を余儀なくされた山田へのエールも添えた。
「後輩が帰ってくる場所は僕が守るんで、これからも熱い声援をよろしくお願いします」
実はこの日の試合前、試合会場である味の素スタジアムのコンコースには山田へ送る応援メッセージフラッグが用意され、大勢のヴェルディサポーターがそれぞれ熱い想いを書き込んでいたのである。
山見の挨拶が終わると、松葉杖をついた山田がゴール前に登場し、メッセージフラッグが送られた。そして、ファン・サポーターが掲げた
『ALWAY WITH YOU』
の横断幕とゴール裏を背にチーム全員で記念撮影。山田剛綺を中心に、一体感に包まれた瞬間だった。
復帰までかなりの困難な道が待っていることへの励ましであることは間違いない。だが、誰しもがこうした場を設けてもらえるわけでは決してない。山田がいかにチームメイトから、ファン・サポーターから愛されているか。この1シーンだけでも十分伝わってきた。

この光景を見て、城福浩監督も「感動した」と目を細める。そして、山田がもたらしたものの大きさを、改めて次のように讃えた。
「彼の1年目はJ2で、2年目が昨年、J1の1年目でした。それまで決して順風満帆ではなくて、彼なりに苦しんだ。特に2024年に関しては、起爆剤としてチームのためにはなってくれていましたが、なかなか継続して試合に出るという機会がなくて、本当に彼は苦しみながら、悔しい思いをしながら過ごしたんです。そういう彼の姿をチームのみんなが見ていたと思いますし、今シーズンに入ってもその立ち位置が劇的に変わることなく、彼はただ歯を食いしばってやり続けるという状況の中で、本当に難しい開幕を迎えたと思うんですよね。
「たかだか開幕戦1試合じゃないか」と言われるかもしれませんが、僕は、あの開幕戦の内容を本当に重く、重く受け止めているんです。このチームが一番大事にしなければいけない“ハングリーさ”を、相手(清水エスパルス)に上回られていた。そのハングリーさが少しでも削られたらどんなチームになっていくのか、というものすごい危機感があったからです。もちろんスコア的に見れば、第2節の鹿島アントラーズ戦の方が4−0という大敗になったのですが、開幕戦でのあの90分は、僕は心の底から危機感を感じましたし、「これをどう変えていかなければいけないのか」と思いました。それを軌道修正した、あるいは「このチームらしく」というのを戻してくれたのが山田だと思っています。
で、それを僕が感じてるだけではなくて、おそらくファン・サポーターも感じたのではないでしょうか。このチームがとんでもない泥沼に入り込んでいくJ1での2シーズン目になるんじゃないか?というような状況の中で、彼の身を粉にしてチームに貢献しようとする姿であったり、最後まで諦めない姿に救われたという思いが、僕もありましたし、チームメイトもあったでしょう。そして、ファン・サポーター同じだと思います。
彼が単なる起爆剤ではなく、このチームの救世主として1つ定位置を取りかけた矢先のあの怪我だったので、ファン・サポーターからああいうものを用意してもらえたんだと思います」
「今シーズン中に戻ってこられるか、戻ってこられないか、ギリギリの部分だと思うので、彼にとっても来年が勝負の年になると思う。そこでJ2ではなくJ1で戦わせてあげたい。そのためにはチームが勝ち続けないと、彼もJ1で戦えなくなってしまう。勝ち続けてその場を作ってあげればいいかなと思います」
沈みかけた船を救ってくれた救世主へ、今度はチーム全員がシーズンをかけて恩返ししていく。
Reported by 上岡真里江