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【取材ノート:名古屋】名古屋グランパス四季折々:点を線に変えていく難しさ。稲垣祥が貫き信ずる名古屋の“頑固”

2025年3月18日(火)


厳しく苦しい状況はいまだ続いている。開幕6試合未勝利はオリジナル10としての歴史の中でも数えるほどで、開幕3連敗&無得点だった昨季とどちらが悪いかと言っても、その比較自体が意味のないほど芳しくない成績だ。2分4敗の要因を探せばあらゆるところにありそうで、しかし6得点14失点という数字がすべてを表している気もする。守備だけが問題ではなく、攻撃が守備に影響するのが現代のサッカーであり名古屋のフットボールだ。すべては表裏一体ながら、どこに解決の糸口を探せばいいのか、そこに答えが見つからない。

前半はほぼ完璧に試合を支配した東京V戦は、この45分間だけを見れば今季の初勝利をようやくつかめるのだと思えるものだった。結果は後半に10分間で2失点を喫して追いつくことができず、敗戦。長谷川健太監督は努めて冷静に試合後の会見で受け答えをし、「チームとしてしっかり戦うことができれば、必ず活路を見出すことができる」と継続してきたトレーニングと選手たちの頑張りに信を置いた。失点の多さについて触れた際には「今がなかなか難しい戦いになっている一番の要因」と認めたうえで、「ただ守ればいいっていうわけにはこれはいかない。サッカーなので、やっぱり攻めがあって守りがあってという形」と、現状打破のためだけの戦いには打って出ないことを改めて表明している。


これに奇しくも共鳴したのが稲垣祥だった。試合後の取材ゾーンで極めて冷静に、かつ前向きにチームビルディングを意識した試合分析ができる男はこの現状に一言「結果が欲しいですね」とつぶやき、「60分、70分からのゲーム運びと、チームとしてそこからどうパワーアップしていけるかというところは、間違いなく課題」とまずは東京Vの敗因とこれまでの悪循環をリンクさせた。失点が多いのは単純な守備力の低さではなく、アグレッシブな攻守を展開する中でのリスクマネジメントが崩れているのも一因とも言え、それが顕著な場面としてカウンター対応の悪さがこの日も失点につながった。FC東京戦でも露呈したこの面について問うと、稲垣はそこにこそ真っ向勝負を逃げないと言い切るのである。

「いや。じゃあそれで『相手のカウンターが怖いから下がって守ろう』って言って守れるもんじゃないし、自分たちの攻撃の良さもそれでは半減していく。それこそ悪い流れだと思う。去年だってハイプレスでどんどん行って、それでボールを取って、いい攻撃で勝った試合なんていくらでもあるし、そういった自分たちが見失ってはいけないものはしっかり持ちながらやっていきたいです。今日の前半もやっぱりプレッシャーがかけ続けられているからこそ、後ろは競りやすくてしっかり競ることができる。ボランチも予測できるからセカンドボールを拾える。コンパクトにできる。やっぱりいい循環はそれで生まれるので、そこは続けていかなきゃいけないし、そこをもっと、あるいは何分のあいだチームとして出していけるのか。後半になってから入った選手がどれくらいそれを加速させられるのか。そうできない時に、じゃあチームとしてどう振る舞えるのか。そのあたりですかね」



三國ケネディエブスに代わって3バックの中央を任されている佐藤瑶大も「チームの戦術としては前から守備に行くことは大前提」と語っており、それは長谷川体制になってからずっと取り組んできた守備の改革の根幹にある部分だった。引いて固めて守るのではなく、そのラインを上げて奪いに行く。それが指揮官の口癖である「熱い試合」につながっていくという根本があるから、彼らはこの苦境においても守りに入らない。これが昨年のように得点すら奪えていない状況であればもっと割り切った戦いに踏み切るしかないが、現状でいえば失点の“安さ”がゲームプランやゲームマネジメントを崩している割合も多い。C大阪戦では嫌な時間帯に失点をし、後半も猛攻を浴びたにもかかわらず、粘ってしのいで同点ゴールの礎を築いた。東京V戦では勝ちに値する流れをつくった前半から後半をマネジメントしきれなかった。そのほかの試合を見ても、今は良い面を悪い面が上回ってしまっている。ここ6試合で彼らが表現した良い面を、その“点”を“線”にできた時、勝利の試合は生まれる。

「試合の中で押し込まれる時はあると思うんですよ。やっぱり相手も圧をかけてくるから。そこをどうかいくぐって、いなして、自分たちの時間帯に持ってこられるか。カウンターを何発か決められるか。そういったところのしぶとさとか、これはもうチームの力なんですけど、そこは足りないと思います。でもやっぱり、さっきも言ったようなところで、自分たちが曲げちゃいけないところは曲げちゃいけないし、頑固になり続けなきゃいけないところは頑固になり続けなきゃいけない。ただ、反省して改善しなきゃいけないところがあるのは間違いないんで、そこのバランスですね。全否定しちゃったら今日の前半のゲーム展開もできなくなるんで、そこはチームとして崩れずにやる。これは必ず、やり続けないといけない。チームとして設計していくところはしっかり設計していかないといけないけど、そこに個人の研ぎ澄ましとか、意識ひとつで変えられるところはしっかりと僕含め、それぞれ自分に矢印向けて詰めきっていかないといけない。この流れをひっくり返して、そこから盛り返していくのは簡単なことじゃないんで、そこは全員が自覚を持ってやっていかないと」

変えるのはやり方ではなく、意識。あるいはこれでもまだ甘さが残る勝利への執念の刷り直し。リーグ戦はいったん中断し、日本代表の試合がある裏側でルヴァンカップの初戦を彼らは迎える。相手はJ3の宮崎だが、長谷川監督は「1勝がチームに自信を与えてくれる」とここにしっかりとした戦力を注ぎ込むことを示唆。負傷離脱中だったシュミット ダニエルの復帰戦となる可能性もあり、格下相手という余裕はまったくない戦いになることも。稲垣もまた、「『ここでルヴァンで弾みつけて』とかそんな悠長なことじゃなく」と気を引き締め、しかしこの悪循環を断ち切るひとつのきっかけにしたいという想いを明らかにする。

「もう次だって全然やられる可能性もあるし、しっかり危機感持って、もう死に物狂いで1勝をつかみにいく意識で戦わないと。ここでどこか緩く試合に入って、ここでなんとなく『弾みつけてリーグ戦に行こう』っていう感じでやると、足をすくわれると思う。そんなプライドも何もなく、死に物狂いでまず“1つ”をつかみに行く、掴み取るっていう姿を見せていかないといけない」

補足すれば「それを全員で一丸となって」ということだろう。90分間隙を見せず、個のクオリティが一つの方向性に沿って連なっていかなければ、死に物狂いも空回る。今の名古屋に足りないのは点を線にする意志だ。その中心軸にいる稲垣が、統括する監督が少しもぶれていないのだから、あとはやり切れるか否かで結果は決まる。

Reported by 今井雄一朗