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【取材ノート:藤枝】クラブの窮地を救った2年目トリオ。浅倉廉、前田翔茉、永田貫太が積み上げてきたもの

2025年3月6日(木)
「いつか3人一緒に先発したいよねって話してたんですが、このタイミングでそれが来て、みんな活躍して勝てて、本当に良かったです。一緒に日々のトレーニングをしている中でみんなすごく意識高くやっているので、自分で言うのもおかしいですけど、こういう結果が出るのはラッキーじゃないと思います。(前田)翔茉のゴールも取るべくして取ったなと思っています」(浅倉廉)

昨年藤枝MYFCに大卒で加入した浅倉廉、前田翔茉、永田貫太の同期トリオ。チームが集団食中毒に見舞われた先週、3人はほとんど症状が出ず、初めて3人揃って先発で出場した。くしくも選手やスタッフに食中毒の症状が出始めた水曜日に揃ってラジオ番組に出演し、夕食も一緒に食べながら「3人で一緒に出たいよね」と話していたそうだが、3日後にそれが実現した。

その秋田戦では、体調が十分に回復していない選手もいて、セットプレーで先制されてさらに苦しい展開になった。だが、45+2分に浅倉が今季のチーム初ゴール(昨年から持ち越されていたJ2通算100点目)を決めて同点に。後半は押される展開になったが、58分には浅倉が相手シュートを顔でブロックしてピンチを防ぎ、結果的にこれで脳しんとうを起こして交代を余儀なくされたが、同点弾と合わせてチーム全体に火をつけた働きは非常に大きかった。

そして88分、右CKのこぼれ球から前田が鮮やかなボレーシュートを叩き込み、土壇場で大逆転。前田のプロ初ゴールが藤枝の今季初勝利を呼び込んだ。得点には絡めなかった永田も、左サイドでの積極的な突破と献身的な守備で勝利に貢献。ノロウイルスにも負けなかった2年目トリオが、かつてないクラブの窮地を救う大仕事を成し遂げた。


チームに火をつけた浅倉の得点と守備

「自分みたいな選手は身体を張らないみたいなイメージを持たれがちですけど、身体を張るというのは最低限のこととして藤枝MYFCの選手は全員やりますし、そういうところを見せられたと思います」(浅倉)

テクニックは抜群だが線が細いというイメージを持たれがちな浅倉だが、昨年からパーソナルトレーナーにも師事してじっくりと身体作りに取り組んでおり、今季は目に見えて身体の切れや球際の強さが増している。そのうえで自分の身体を犠牲にしてもゴールを守るという気持ちの強さや泥臭さも証明した。

今季初出場の永田は、昨年は第11節まで全試合に出場し、プロ初得点も挙げていたが、4月からケガが重なり、6月に負った左肩の脱臼で長期離脱を強いられた。そのため秋田戦は、10カ月以上ぶりの公式戦だった。
「ブランクがあった分、緊張したり思いがあふれたりするかなと思ったんすけど、それはなかったです。この1試合にかけるために去年はリハビリを頑張ってきたし、今年も心機一転で準備してきたので、意外と落ち着いて入れて、自分の特徴を出すこととチームのコンセプトを発揮することに集中できました」(永田)

相手やミスを全く恐れない果敢な仕掛けを10カ月ぶりに出場した選手が見せたことは、チームを大いに勇気づけ、攻撃にリズムをもたらした。クロスの質や精度は本人も課題にしているが、今後着実に改善されていくだろう。

地道に重ねてきた準備が大殊勲の初ゴールに結実

チームを救う決勝弾を決めた前田も今季初出場だった。「翔茉は非常に調子が良かったけど、ポジションバランスでなかなか出られなかった。悔しい思いをしていたと思います」と須藤大輔監督は気づかったが、本人はまったく不満を見せることなく、自分自身の成長だけを追求し続けてきた。
「いつもドミくん(久富良輔)に本当にいろいろ教えてもらっていますが、自分の中で整理がつくこともありましたし、幅が広がりましたし、成長に繋がっているなと実感できています。(決勝ゴールには)いろいろな思いはありますけど、何もない自分でも淡々と準備して、やることやっていれば、自ずと結果が出てくるというのを証明できたかなと思います」(前田)

同期3人の中でも「自分がいちばん雑草」という自覚と誇りがある前田は、同じく雑草上がりから目覚ましい成長を続けている先輩・久富をリスペクトし、ポジションにも共通点があるため日々彼のアドバイスを胸に刻みながら研鑽を続けている。
それを間近で見ながら一緒に頑張ってきたからこそ「翔茉のゴールは、取るべくして取ったもの」という浅倉の言葉には説得力がある。

もちろん、秋田戦の勝利は2年目トリオの力だけで引き寄せたものではない。回復しきれていない選手をかき集めても18人しか揃わなかった中で、全員が死力を尽くして難敵・秋田のパワフルな攻撃を止め、堅守をこじ開けた。何とか開催までこぎ着けたチーム内外のサポートやサポーターの後押しも大きく、本当にクラブの総力でつかんだ勝利だった。
「これが一過性で終わってはいけないし、次の甲府戦でまた真価が問われる」という須藤監督の想いは、選手も全員で共有できている。秋田戦に出られなかった選手も「今度は自分が」と燃えているだろう。そんな中でも2年目トリオは、より自信と意欲を増した姿を今後も見せ続けてくれるはずだ。

Reported by 前島芳雄