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【取材ノート:名古屋】名古屋グランパス四季折々:勝利への道筋をまずシンプルに。「まずは背後」の教えを徹底したい、名古屋の次戦

2025年3月4日(火)


2回連続でチームの苦境について書くことになろうとは思ってもみなかったが、現実から目を背けることはできない。1分3敗の得失点差マイナス7で最下位。その原因は様々あれど、一番にフォーカスすべきは“何が名古屋の強みなのか”をチームが見失っていることだ。誰が何と言おうと、このチームの強みは縦への速さとダイナミックさ、勢いをもって攻め込んでいく迫力である。その構成要素としてハイプレスなど強度の高い守備があり、昨季から少しずつ、そして今季のプレシーズンでかなり取り組んできたのが保持の仕方とそこからの攻撃だったが、それらはあくまでもオプション的なもので、それはたとえポゼッション型のチーム作りをしようとも、DFの背後をとる動きがなくては怖さが出ないことは、無敵を誇った川崎の戦いを見ていてもよくわかる。

正直に言って、町田戦のメンバーを見た時に思ったのは、ハイプレスと縦への速さを前面に押し出して、強引にでも勝点3を奪いに行くのだという決意だった。だが、現実にはそこまでのものは感じられず、どこか迷いの中で敗戦に落ち着いていった感覚もある。試合後に長谷川健太監督にそのことを問うと、守備では「もっと行きたかった」と言い、背後への動きについても「ハーフタイムに、永井がいいタイミングで走っていて、それを使えなかったシーンがいくつかあったので、そこはうまく使っていこうよと、映像でもそれは見せた」と答えた。この点については永井謙佑も「もっと背後を見ないと。その数を増やしてほしいし、俺らも言っていかないといけないけど、そこの優先順位がね。背後あっての足元だから」と相手が嫌がることの徹底をさらに求めていくと振り返っている。

優先順位というのは実に納得のいく表現だった。そもそも今季に向けた沖縄でのキャンプでも、彼らは背後をとるためのポゼッション、ボール保持をトレーニングしてきたからだ。それは昨季のプレシーズンにもやっていたことで、やはり自分たちの強みが強力なアタッカーを揃える前線の能力を活かしきることにあると認識している何よりの証拠だ。ユンカーは負傷離脱中だが、永井、マテウス カストロ、浅野雄也と快足系のFWは揃っており、和泉竜司や森島司ら2列目の選手も抜け出して起点になれる個の力を兼ね備えている。しかしこの開幕4試合で見られているのはそうした設計の攻撃ではなく、じっくり回して相手の守備の隙を伺うような攻撃ばかり。それ自体が悪いのではなく、目の前で何かをしてこようとしている相手に対して、守備というのはやりやすいものだということ。よほどの強力な崩しや連係、ダイレクトプレーの連続でも成功しない限り、その成功率はあまり高いとは言えない。偶然のスーパープレーに頼るわけにもいかず、再現性はあっても狙いがはっきりしすぎていて、結局は攻めあぐねる。現在の名古屋はそれでもセットプレーから得点ができているが、セットプレーだけが得点源ではなかなかに難しい。

「背後に合わなくても、1回出すことで相手のラインが下がるし、相手の目もこっちに向く。そうするとボランチも自分が持てる時間がちょっと作れるかもしれない。自分たちが楽になるために、まず俺を走らせていった方がもっと優位にできて、司と竜司も活かせたのかなとは思う。真ん中のところでね。反省点としては俺もうまく呼び込まないといけない。けっこうギリギリで狙ったところもあったから、何回かはね。でも、そこでオフサイドになってもいいから出すことで違う選択肢も増えてくるから、そこは要求していきたい。次節に向けては。そこで1本入れば変わるんだけど、やっぱり失点の部分が安かったり、チームとして勢いが出そうになったタイミングで簡単なミスをしたりしてるから、そこはみんなでやっていかないといけないし」



永井の訴えは切実だ。皮肉なことに、町田戦では永井が交代して劣勢の時間が終盤に差し掛かって、やや無理にでもスペースに蹴るようになった。彼の心中を思えば、“前半からそれで良かったんだよ”ということだと思う。ハーフタイムにわざわざ編集した映像を見せたということは、長谷川監督としても「そこはうまく使っていこうよ」というソフトな言い方ではなく、強い口調で「ここは出せ!」と言いたかったところなのかもしれない。見せているのに、言っているのに出てこない一番シンプルにして強力な攻撃手段。まずはそのプレーを選択することから、名古屋の逆襲は始まるのだと思う。あとはその勇気を持てるかどうかだ。責任の有無ではなく、ただ最後の砦として4試合11失点の悔しさに耐え続ける武田洋平は、極めて冷静に次への準備についてこう語った。

「次の節で、全員が自信満々にやれてっていうことには絶対ならない。それは急にそんなことは無理やから。ホンマに苦労して、苦労して、じゃないと勝てへん。もちろん自分の中でプレッシャー、不安とかもある中で、それに打ち勝ってじゃないけど、そうじゃないと次に進まれへんから。そこを個人では、俺も含めて個人個人ではその状態をどうやってプラスに持っていけるか、そういうところやと思う。技術、戦術とかは今やっていることを続けてやればいい。後ろはもう、我慢してやるしかない。もちろん物足らへんとこもあるけど、別に誰も手を抜いているわけじゃない」

悲壮な覚悟の表れだった。やるべきことはわかっている。あとはそこをどれだけ粘り強く勝利につながるものへと変えていけるか。監督がこのところ連呼する「ディテール」とはそういうことで、奇しくも町田との対戦はまさにそのディテールで相手が上回ったゲームだった。ともにチームとしてのシュート数は4本ずつと少なく、町田の黒田剛監督はシュートの少なさより、生まれたチャンスに対する集中力の方を重視していると試合後に語っている。とはいえ「集中しろ」「決定機を仕留めろ」と言って事態が改善するなら世話はなく、ならばやるべきことをできるだけシンプルにしつつ、肉付けをしていくようにオプションの部分を考えていくべきではないか。名古屋が今すべきことは、もっとフットボールを単純に、まっすぐにゴールをめがけて戦うことではないかと思うのである。


Reported by 今井雄一朗