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全てはスピード感溢れる岩崎悠人のアクションから始まっていた。
明治安田J1リーグ第2節・ガンバ大阪戦で託されたポジションは、昨シーズンまでプレーしたシャドーやウイングバックではなく、前節プレーしたサイドハーフでもない1トップ。一番に意識したのは守備だった。
「前線からアグレッシブにプレッシャーをかけていくというところでチームに勢いを与えられたらと思って入りました」
不本意な結果と内容に終わった開幕戦から一転、立ち上がりから積極的な姿勢を見せる福岡。その先頭にいたのが背番号18である。プレスのスイッチ役として高い位置から懸命にボールを追う彼の動きによって相手のパスコースは制限され、中盤で前向きにカットし、セカンドボールを回収する数は前節に比べて増加。それは狙いとする攻撃にもつながった。
「僕は(相手の最終)ラインを押し下げて、上手い選手たちが自由に、流動的にやってくれていた」と言うように相手の背後へ何度もスプリントを繰り返し、ゴールを狙いながら中盤の選手が特徴を出しやすいようにスペースを作り出した。ボールを多く保持し、トップ下の名古新太郎と左サイドハーフの藤本一輝、ボランチの見木友哉を中心にキャンプから取り組んできた人もボールも流動的に動くサッカーを展開する中で、岩崎もそこに大きく関与。「自分たちがやってきたことを出せた」と手応えを感じている。
ただ、「ビックチャンスはなかった」と岩崎が口にするように彼が交代する60分まで展開された人もボールも流動的に動くサッカーで相手の守備ブロックを効果的に動かし、崩し切るまでには至らなかったのもまた事実。いくら自分たちのやりたいサッカーをしても先にゴールを奪えなければ相手に流れが渡るのは常であり、必然的に勝利は遠のいていく。
そんな状況に陥っている要因の一つとして1トップの人選で苦慮していることが挙げられる。今シーズン、得点力不足解消が最大のテーマである福岡。シャハブ ザヘディ、ウェリントン、ナッシム ベン カリファと助っ人の外国人FWが真っ先にストライカー候補として名が挙がるが、先発としてのゲーム体力、攻撃と守備のバランス等を考えるとそれぞれに一長一短があり、まだチームとして“最適解”が見つかっていない。そこで白羽の矢が立ったのが豊富な運動量と機動力のある岩崎。「アグレッシブな走力とプレッシングに関しては、相手も長いボールをチョイスするぐらい圧力がかかったと思いますし、しっかりと準備してきたものを体現してくれましたので守備の面では及第点を与えたいなと思っています。攻撃に関しては、ロストも少し多かったり、彼はもともとサイドに張ってのプレーが得意な選手なので、そういったところでは少し彼自身も難しさを感じたと思いますが、もっともっとできる選手だと思っていますので期待しています」と金明輝監督が評価するように志向するサッカーに近づける上で大きな役割を期待されている。そんな指揮官の想いを一身に受ける岩崎自身、新たなポジションでの挑戦を楽しみつつ、しっかりと課題に向き合っている。
「(G大阪戦は)ペナルティエリアには入れていましたけど、そこのクオリティがまだまだ合っていないかなと思いますが、そこさえ合ってくればチャンスも増えると思うので、そういう量を増やせるように、どんどん仕掛けていくとかをやっていきたいと思います。やっぱりペナルティエリア内に入る人数をもっともっと増やしていかなければいけないし、今、作りの部分で人数をかけている分、ゴール前が少ないと思うので、そこに勢いを持って入れるようにやっていきたいと思います」
G大阪に敗れ、開幕2連敗。チームの空気が重たくなっていないか心配になって岩崎に尋ねると、試合後のロッカールームの様子を教えてくれた。
「ウェリントンとか年齢の高い選手が今日(G大阪戦後)もミーティングが終わって『良いサッカーができていたし、(これからも続けて)やっていこう』というような感じでチームを鼓舞してくれていたので、そこは上の選手が引っ張ってくれていますし、下の中堅、若手もそこに付いていけるようにやっていけたらと思います」
前向きな姿勢で課題解決に取り組むチームの中で、これから岩崎がどのように存在感を示していくのか注目していきたい。
Reported by 武丸善章