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【取材ノート:清水】運命の開幕戦。因縁の舞台での勝利がエスパルスの未来も切り拓く

2025年2月12日(水)
「Jリーグが素晴らしい舞台を整えてくれた」(秋葉忠宏監督)

清水エスパルスが3年ぶりにJ1へ復帰する開幕戦が、国立競技場での東京ヴェルディとの対戦。やりすぎじゃないかと言いたくなるほど、因縁と期待感に満ちたマッチメイクとなった。

東京Vに雪辱すべき舞台として

因縁としてもっとも記憶に新しいのは、2023年のJ1昇格プレーオフ決勝戦だ。同じ国立競技場で清水と東京ⅤがJ1昇格をかけた一発勝負に臨み、63分にチアゴ サンタナのPKで清水が先制し、そのまま1-0で終わればJ1昇格という状況で後半アディショナルタイムに突入。だが、最後に大きな落とし穴が待っていた。

90+4分に裏へのパスで染野唯月が抜け出し、ペナルティエリア右端あたりで高橋祐治がスライディングでボールを奪ったが、これがよもやのPK判定。これを染野が落ち着いて決めて1-1のドローに終わり、最終順位が上の東京Ⅴが16年ぶりのJ1復帰を決めた。

この瞬間ピッチに立っていた北爪健吾は「悔しい……悔しいだけじゃ表現できないようなものすごく複雑な思いをしました」と当時の気持ちを振り返る。そのうえで「勝つだけじゃなくて、次につながるような、今シーズンを楽しみにしてもらえるようなゲームをしたいですし、個人個人の本当にいろいろな思いがあるので、それをしっかりまとめてチームとして体現したいと思います」とつけ加えた。

個人個人の思いという部分では、高橋をはじめ15カ月前の喪失感を鮮明に残している選手は多い。それらをチームとしてどうまとめて、爆発的なエネルギーに変換できるかというところが、清水サポーターにとっては最大の注目点となるだろう。

また、昇格プレーオフで最後のPKにつながるパスを出した中原輝が、今は清水の一員となっている。彼が今節で出場する可能性は高く、今度は清水を勝たせる仕事ができるかという点も楽しみだ。

Jリーグ黎明期も国立で火花を

さらに歴史を掘り下げれば、清水と東京Ⅴは旧国立競技場を含めた日本サッカーの聖地で何度もしのぎを削る戦いをしてきた。

最初の国立対決は、1992年の第1回ナビスコカップ決勝戦。Jリーグが開幕する前の初タイトルをかけた一戦だったが、ここは三浦知良のゴールを守り切って東京Ⅴ(当時はヴェルディ川崎)が1-0で勝利。

翌年の第2回ナビスコカップ決勝も同カードとなり、今度は13分に大榎克己の得点で清水が先行したが、73分にビスマルク、85分に北澤豪に決められて逆転負け。

Jリーグ黎明期の清水は、スター揃いの東京Ⅴのライバル的な存在になっていたが、リーグ戦でも2位に終わることが多く“シルバーコレクター”と言われることもあった。

その後、94年の第3回はベスト8に終わったが、96年の第5回ナビスコカップ(95年は非開催)で3度目の決勝進出を果たし、東京Ⅴとの3度目の頂上決戦に挑んだ。

もちろん舞台は国立競技場だ。

ここでは長谷川健太とオリバのゴールで2点リードしたが、終盤に追いつかれ2-2で延長戦に。延長でも先にサントスが点を取ったが延長後半に追いつかれ、3-3でPK戦に突入。だが、最後は全員が勝負強さを発揮して決めきり、5-4でPK戦を制して悲願のクラブ初タイトルをつかみ取った。
オリジナル10のクラブとして何度も好勝負を繰り広げてきた両チームが、17年ぶりにJ1の舞台で激突する。それだけで胸が熱くなるオールドファンは多いはずだ。


新国立競技場での初勝利をつかむために

国立競技場が今の形に建て直されて以降は、清水は2022年から年に一度ホームゲームを国立で開催するようになったが、22年は横浜FMに3-5で敗れ、23年は千葉と2-2、24年は横浜FCと1-1。東京Ⅴとのプレーオフも含めると3分1敗と、新しい国立競技場ではまだ勝ったことがない。

美しく生まれ変わった聖地で歓喜を味わうことも、清水サポーターの悲願となっており、今回は5万人以上の来場が期待される中、スタンドがオレンジに染まるエリアもかなり大きくなるはずだ。

準備期間が短かった中での開幕戦なので、両チームとも攻撃の連携等はまだ100%とは言えないだろう。緊張感が高く、負けたくないという気持ちも強いため、堅い試合になる可能性もあるが、勝ちたいという気持ちで清水が負けることはないだろう。

「(選手たちは)ドキドキよりもワクワク、ギラギラのほうが強いと思います。やってやるという気持ちがすごく強いと思うので、僕も非常に楽しみですし、その熱さを生かしつつ開幕戦の独特の緊張感に早く馴染めるようにするのが僕の仕事だと思います。あと開幕戦やビッグマッチではセットプレーで決着がつくことも多いので、そこも大事なると思います。今年我々には左右とも良いキッカーが揃っているので、セットプレーも含めて最高の準備したいなと思います」と秋葉監督は言う。

甲府時代から国立競技場では負けたことがないという蓮川壮大は「チームとしても去年以上にプレーの強度は上がっていると思うので、全体のコンパクトさとか切り換えの速さ、個人で負けないというところはとくにこだわって、ボールを失ってもゲーゲンプレスですぐに奪い返すようにしたいです」と語る。

どれだけ堅い試合になったとしても、自分たちが理想とするサッカーにならなかったとしても、気持ちと強度、セットプレーでは負けない。そこを存分に有言実行できれば、自ずとサポーターのボルテージも上がり、勝利の女神も引き寄せやすくなるはずだ。

Reported by 前島芳雄