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【取材ノート:名古屋】名古屋グランパス四季折々:「チームを勝たせるGKでありたい」。シュミット ダニエルにも息づく“名古屋の守護神”の合言葉

2025年1月7日(火)


驚きとともに、感動が込み上げてきた。1月6日のチーム始動日に名古屋への移籍が発表され、さっそくその場に姿を見せたシュミット ダニエルに、「キーパーとして重視していることは何か」と訊ねたその返答に、名古屋の守護神たちの系譜を感じたからだった。

「一番良いのはやっぱり“チームを勝たせられるキーパー”で、特徴がなんであろうと最終的にそこが達成できてないと意味がない」

チームを勝たせられるキーパーとは、まさしく楢﨑正剛の口癖だった。自ら得点をとることは稀で、失点という敗因の大きな位置を占める事象に深く関わるポジションは、見た目には「チームを勝たせる」直接的な働きはできないように見える。だが、実際には“やられた!”と思ったシュートをかき出し、決定的なピンチを独力で跳ね返し、時に交錯もいとわずゴール前のボールをつかみに行くその姿、そのプレーが勝利を手繰り寄せることはしばしばある。今季から名古屋のメインGKコーチとなった楢﨑は現役を退く際(ちなみに楢﨑は「引退」という言葉は好きではない)、この過酷である意味孤独なポジションを「美しい」と表現した。それだけの働きと貢献度を見せて、勝負に直接影響力を及ぼせる高潔な職業だと、心から信じているからだ。

その楢﨑から背番号1を受け継ぎ、7年間で多くの記録的な活躍を見せたランゲラックもまた、そうした考えの持ち主だった。彼は自分が最後尾にいることでチームに安心感を与えたい、「ミッチがいるから大丈夫」と思わせたいと常に言っていた。それはチームメイトの力を引き出し、その力が及ぼせない範囲は自分が責任を負うと言わんばかりの強烈なパーソナリティがゆえだった。彼の加入直後はそれでも失点が絶えず、最初の2シーズンは「チームを勝たせる」ことはなかなかできなかったかもしれないが、以降のキャリアは知る人ぞ知るところ。Jリーグの無失点にかかわる記録を次々と更新する守備陣の長として絶大なる存在感を発揮し、所属期間で2度のタイトルを獲得した数少ない選手のひとりとなった。名古屋の背番号1は、チームを勝たせるGKの代名詞だった。

もちろん、現時点でシュミットの背番号はわかっておらず、“背番号1の系譜”に連なるかどうかは不明だ。だが、間違いなく楢﨑、ランゲラックと続いた最高峰のGKを擁するチームの後継者としての期待はかけられており、シュミットもそれを強く自覚し、己の望みに連なる道を切り開くための試練と位置づけ帰国した。ゆったりとした話し方だが紡がれる言葉は強く、彼の決断の大きさを感じるようでもあった。



「まだヨーロッパでの夢もあったので、そこはちょっと志半ばで、ちょっと残念な気持ちも正直あるんです。ただ一番の目標はワールドカップなので、そこに食い込むためにはいま試合に出られるところ、もちろん競争を勝ち抜いて試合に出て、いいパフォーマンスを出せば、いま選ばれているキーパーは3人中2人がJリーガー。そこに食い込んでいける自信もあるし、そういうパフォーマンスを出せればいい。ランゲラック選手がこのチームに残した功績は間違いなく大きいし、彼がどれだけ大きな存在だったかっていうのは本当にいろいろなところから伝わってくる。そこを埋めるだけじゃなく、追い越すような活躍をするためには、やっぱりリーグ優勝。個人的にはこのチームをリーグ優勝に導ければ、自分がこのチームに来た意味がある」

現在32歳で、開幕直前に33歳の誕生日を迎える。ベテランと呼んで差し支えない年齢だが、GKというのは年々熟成されていく特殊なポジションだ。身体能力や技術も重要だが、あらゆる場面に対応するための経験値とのバランスがどこで取れるか、そのタイミングは人それぞれ。楢﨑GKコーチは38歳前後でもいくつかのうちのひとつのピークを迎えており、シュミットにもまだまだ伸びしろや状態がフィットする機会は残されていると言えるだろう。「自分に足りないところを本当に補ってくれると思う。プレーだけじゃなく、このチームを背負うことの意味とかも積極的に話して自分に染み込ませていきたい。そういう意味ではこれ以上ない環境で、成長できる環境は整っている」と、シュミットは新天地でのシーズンに期待を寄せた。

「僕は今まで、日本でここまでのビッグクラブに所属した経験もないし、かなり大きなチャレンジ」。日本代表クラスの選手だが、驚くほど謙虚だ。「足元でビルドアップに関わりながらというのも自分の特徴だけど、チームのスタイルも関係してくるので様子を見る。セービングも“それなり”にできると思うので、もっと伸ばせるように」。これも控えめな発言である。だが能ある鷹は爪を隠すではないが、自信には満ち溢れている。というより、今は一番、チャレンジャー精神が高まっている状況だからこそ、姿勢はあくまで一歩引いたところに置いているのかもしれない。ワールドカップへの想いを今一度紐解けば、その意志の強さは読み取れる。



「前回のワールドカップは経験していますが、試合には出ていない。ワールドカップ経験者としてキーパー3人のうちの1人には入りたいし、シンプルに試合に出たい。前回の大会は試合に出られなかった分、すごく悔しかったんですよ。結局、ワールドカップに行っても、あの試合に出ないと何も意味ないなって前回すごく思った。前回のワールドカップ後からそこが僕の目標になっていて、試合に出ることは傍から見たら難しいって思うかもしれないけど、サッカーは何が起こるか全然わからないし、短期間で状況は大きくガラっと変わる。そこに向かっていくだけです」

心境はつまり、“人事を尽くして天命を待つ”なのだろう。そのためのJリーグ復帰であり、自分を追い込むための「ナラさん、ランゲラック選手の後釜」という立場だった。日本代表や海外組といった肩書でも勝負できない、オリジナル10に脈々と伝わる守護神の系譜。そのリスペクトを受けるに値する選手かどうかという目にもさらされながら、シュミットは自己研鑽の先に夢の舞台を見据える。

「“そこ”にふさわしい選手であることを証明できるように頑張りたい」

昨年7月から名古屋の課題となっていた、「ネクスト・ミッチ」に答えは出た。あとはシュミットがその答えを、正解に変えていくだけだ。

Reported by 今井雄一朗