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【取材ノート:名古屋】名古屋グランパス四季折々:光ったチーム随一のハードワーク。森島司の献身を来季は栄冠への原動力に

2024年12月17日(火)


チームのために、勝利のために走りに走った1年が終わった。森島司の今季個人スタッツを調べてみると、名古屋の試合を見ていて誰もが感じるであろう印象と見事に一致するデータがずらりと並ぶ。たとえばリーグ戦の総走行距離は37試合で379.1km。これはリーグ全体で15位の数字でチームでは稲垣祥の402.1kmに次ぐ2番目の数字になる。総スプリント回数は475回でリーグ22位も、チーム内では中山克広と並んで1位タイだ。俊足の中山のスプリント数が多いのはそのスピードゆえと納得だが、森島のこの数値は総走行距離と並べて考えても毎試合をフルパワーで駆け抜けたことが見て取れる。その他の走ることに関する数値も軒並みチームトップランクで、ハードワークを捧げ続けた1年だったことを改めて思い知らされるのだった。

それはおそらく、自覚の表れだったのだと思う。もともとが名古屋U-15の所属選手で、全国高校選手権を目指して地元の三重県立四日市中央工高校に進学。卒業後は広島一筋で闘ってきたが、古巣と言える名古屋からのオファーに「初めて移籍を考えた」と心揺さぶられ、昨夏に帰還を果たした。半年間の復帰初年度は初経験の移籍になかなか自分を馴染ませることができず、本人もチームも納得のいかないパフォーマンスのままにシーズンが終了。この経緯だけでも2024年にかける想いは人一倍強くなっていることは想像に難くないが、さらに今季は副キャプテンの肩書も背負ってのプレーになった。「心境の変化ってほどのことはないですけど、まあまあ頑張らんとなぐらいには」と話す森島だが、真剣な表情をしてこうも言う。

「いろいろなことにチャレンジしたシーズンだったので、自分的にもやることは少しずつ変わったりもして、それはすごくやりがいがありました。それがチームの助けになれたことはすごく良かった。自分は一応、ジュニアユース出身ですし、自分みたいな選手が前に出ていった方がクラブとしては一番いいと思う。自分もそこは頑張りたいと思いますし、年齢的にもチームで上に立っていかないといけない年齢にはなっていると思うので、自分的にも頑張っていかないとな、とは思っています」

「あの人がここまでやっているんだから、やらないわけにはいかない」とはこの世界でよく聞かれる常套句である。たとえば名古屋においても、36歳になる大ベテランの永井謙佑が鬼気迫るチェイシングを見せ、貴重なゴールも奪う活躍を見せていることで、若手たちの尊敬を集めると同時にチームを鼓舞している。その点では森島もそのプレーをもって模範となっている部分は強く、それが今季のチームでフィールドプレーヤー1位の出場試合数と出場時間にも表れる。あの稲垣祥をしのぐ試合数、プレータイムは前述の数値と相まって彼の貢献度を如実に物語り、その男が口にする「犠牲心」という言葉は来季のチームへの提言として重みをもって響く。

「今季は途中から、こういう戦い方が固まってきて、だけどやっぱり11人でシーズンを戦えるわけじゃない。誰かが抜けたところに、チームに良い選手はいるので、そこに上手く入り込めたりできていれば。それぞれのできることは全然違うと思うので、そういった中で勝っていかないとリーグは獲れないと思う。このシーズンは自分も自分のことで精一杯のところがあったので、そこにプラス、味方をシンプルにカバーすることや、犠牲心を持ってシーズン通して戦えたなら、絶対に上にいける。自分を犠牲にして戦うところは、自分も含めてもっとやらないといけない」

あれだけ献身的にやっていても、まだ「自分でいっぱい」だったとは驚きの感覚だった。シャドー、インサイドハーフ、ボランチ、そして2トップのFWとポジションを転々としながら、いつでも長谷川健太監督の要求が得点に絡むことだったにもかかわらず、なおチームのためにプレーしようとしていたことには頭が下がる。「走るところや闘うところはちょっとはやれたなと思うけど、自分の良さを全部出せたかって言ったらそんなことはない」という言葉には、攻撃だ守備だ仲間のフォローだと何かに限定するのではなく、試合を動かす存在、味方を助ける選手が彼の求める理想像なのではとこちらの想像は膨らんでいく。そのキャパシティは間違いなくあると思わせるだけの活動量の多さは、繰り返すが今季強烈に印象付けられたところだった。



しばしのオフを過ごした後の来季については、「戦い方は明確に、“良い守備から良い攻撃”というのは、形はどうであれ、それが大事だ」という認識がベースになると語る。その上で自分が担うべき役割、あるいは表現すべきパフォーマンスは「深さ」がキーワードになると言う。今季以上に、森島はゴールに近いエリアでの仕事を自らに課していくつもりのようだ。

「自分はやっぱり、“深いところ”を取りに行くのがすごく大事なことだと思うんです。パスが回せてるからと言って真ん中から攻めたり、ペナルティエリアの角からクロスを上げるんじゃなくて、ポケットなどの“深さ”を取りに行くのが大事じゃないかと。そこはもっと取りに行かないとなって自分は思っていて、ポケットを取ることによってセンターバックを引き出して、相手のゴール前を守れる選手を少なくすること、それで出てこないならしつこくやり直す。得点だけではなく、その得点を取る前、そのひとつ前がすごく大事だと思っているので、自分はそういう深いところを取りに行くことをもっとやっていきたいと思います」

入るだけなら誰でもできるが、そこで仕事をするのは容易なことではない。敵陣のもっとも深い位置にいるということは、そこまでのランニングの距離も長ければ、攻守の切り替えで戻る距離も当然のごとく伸びていく。森島はそこで立ち止まって歩いているような選手ではなく、むしろギアを上げて走り始める選手ということは、今季の彼の姿を見てきた人ならばわかるはずだ。試合中、ミドルスピードで走っていた背番号14が、一度ヘッドダウンして意を決したようにスプリントを始める姿を、本当に何度見たかわからない。それはどちらかといえば守りの局面であることが多く、多くは味方のためにボールに圧力をかけに行くとき、あるいは守備の枚数が足りないとみて前線から戻ってくるときによく見た彼の印象的な動きだった。

「今年はタイトルを獲れて、来年もやっぱり獲ってと、毎年獲っていけるチームにならないといけない。その中心にまず、自分はならないといけないと思う。年齢的にも、個人的にもここからは本当に良い時期に“なっていかないといけない”と思うので、それにはまず個人でしっかりやることをやって、そのうえでチームを引っ張っていけたら」

例年よりやや短めのオフを経て、名古屋の来季の始動は1月6日となった。約3週間後、彼がどんな顔で新たな1年を踏み出し、どんなリーダーシップを仲間たちに対して発揮していくのか。個人的には来季のキャプテン候補とも思っているが、そのプレッシャーすら自分から引き受けに行きそうな責任感と自覚の強さが今の森島司にはある。その壁を乗り越えたとき、彼のキャリアハイのパフォーマンスはピッチに描かれるはずだ。今季はカップリフトをランゲラックと稲垣祥に譲ったが、来季は森島がシャーレを一番に掲げる光景を見せてほしい。

Reported by 今井雄一朗