18年におよぶ現役生活に別れを告げた。今シーズン、公式戦のピッチに立ち、FC今治のゴールを守ることはなかったが、存在感は揺るぎなかった。日々のトレーニングから大きな指示の声を欠かさず、試合でベンチに入ればタイミングを見てピッチ内の仲間とコミュニケーションを取る。立ち位置に関わらず、共に戦い続けた。
「もちろん試合に出るつもりで準備しつつ、出られないなら自分が今やるべきことは何かを考えながら、日々、過ごしてきたつもりです。チームのために、昇格のために。持てる力を注いできたつもりです」
第6節・ギラヴァンツ北九州戦から、最終節のテゲバジャーロ宮崎戦まで、試合メンバーに入り続けた。6月に40歳となったGKに対する、絶大な信頼感が伝わってくる。「僕はそれに応えたいと思いながら、毎日、やってきた」結果、J2昇格を果たした。
昇格を決めたのがアウェイのガイナーレ鳥取戦(第36節〇5-0)で、17年前にキャリアをスタートさせたチームだったのも、一つのめぐり合わせだろう。鳥取を皮切りにFC町田ゼルビア、大分トリニータを経て、2019年に当時、JFLだった今治へ加入。この年にJ3参入、そしてJ2への扉を開いた今年と、自身のキャリアで昇格は5回を数える。そのうち、2回を今治で経験している。
「今治は、早く上のカテゴリー(J2)に行かなければならないクラブだと思っていましたが、5年かかってやっとたどり着きました。自分は5回も昇格できて、それぞれすばらしい思い出だし、本当に幸せです。今回、初めて昇格を経験する選手たちもいたので、僕よりも彼らにとって、いい経験になればと思っています」
最終節の宮崎戦前日、つまり現役最後の全体練習が終わった後、高卒ルーキーで躍進した横山夢樹、梅木怜と3人で和やかにピッチの周りを走る光景が印象的だった。横山、梅ともリーグの月間ヤングプレーヤー賞を受賞するなど、すばらしいパフォーマンスを見せた今季。だからこそ、壁に突き当たることもあった彼らに、要所でアドバイスを送り続けた。フィールドプレーヤーとの違いはあれど、日々、取り組む姿勢でも伝えたことがたくさんあるだろう。
「本当に地味なこと、当たり前のことをやるのが、一番の準備になります。試合だから何か特別なことをしようとするのではなく、練習から当たり前にやる。僕にとっては毎日が勝負だったので、練習に向けてやることは試合に対しても変わりません。最終戦だろうと同じで、ずっとやり続けるだけです」
宮崎戦前日。現役最後の練習を終えると、水谷雄一GKコーチとしばらく話し込んでいた。
「普段からのコミュニケーションの延長です。ミズさんの練習はバリエーション豊かで、自分の体を呼び起こしてくれました。おかげで無理が利くようになったし、衰えていくのを抑えてくれたというか、むしろ動けるようになって、伸ばしてくれた感覚もあります。それからGKとしてアグレッシブに、強気に行くことは常に言われてきました。そういうものを吸収しながら、いい練習ができたのは間違いないです」
JFL、J3と、今治の歴史を築いてきたレジャンドが去る。引退を伝えるクラブからのリリースで、「いなくなって気づくこともあると思いますが、必ず何かがのこっているはず」というコメントの通り、受け継がれたものが、2025年、J2の舞台でさらに発展していく。
あの、熱いコーチングは、ピッチに響き続ける。
Reported by 大中祐二