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【取材ノート:福岡】待望の福岡デビュー戦。ナッシム ベン カリファが示した確かな存在感

2024年12月3日(火)


明治安田J1リーグ第37節・浦和戦。1点リードした後半の立ち上がり、福岡が目指す「複数得点、無失点」での勝利に向け、さらにギアを上げるために長谷部茂利監督は3枚替えを決断する。そのうちの一人として選ばれたのがナッシム ベン カリファ。指揮官自らピッチに立つ準備を進める彼のもとに歩み寄り、入念に指示を送った。

「自分の日本でのキャリアの中ではウイングでプレーすることが多かったんですけど、今回アビスパでこういったポジション(シャドー)でプレーするにあたって、守備の部分で(前嶋)洋太と連携して動く部分というところで、すごく詳しくそこの説明をいただきました」

56分、交代が行われる瞬間、長谷部監督は紺色に染まったゴール裏のサポーターを煽る。それは、この時間まで頑張った先発の選手への労いと代わって入る選手を鼓舞するために大きな声援を求めるもの、そして、アビスパ福岡の一員として初めて公式戦の舞台に立つナッシム ベン カリファへ最大のエールを送ってほしいという監督なりの強いメッセージが込められたもののように筆者の目には映った。

「シゲさん(長谷部監督)という良い監督であり、人間としても素晴らしい方と一緒に働くことができてすごくうれしいですし、将来、もしもう一度(一緒に)仕事ができることがあれば、それは非常にうれしいことです。アビスパに対するシゲさんの貢献というのは非常に称賛に値すると思いますし、とても良い試合でした。本当にそういったことをしていただいて嬉しいです」

今シーズン限りで福岡を離れる「シゲさん」への強い想いも背負って右シャドーのポジションに入った背番号13は、落ち着き払ったプレーで存在感を示す。攻守で際立つ的確なポジショニング。非保持の局面では周囲の状況を正確に把握しながら相手のビルドアップを制限するプレスを仕掛け、保持の局面では確かな技術を駆使して攻撃のリズムを作り出す。相手にとっては嫌らしい選手であり、味方にとっては頼もしい選手であることをしっかりと証明。「深いところまでランニングをよくかけてくれるので、自分としてもプレーしているとき彼がどこにいるのかというのがすごく探しやすくてやりやすい」と言うトップのシャハブ ザヘディを中心に周りの選手を活かし、周りの選手に活かされながら何度もゴールに迫った。

最大のチャンスは81分、カウンターからシャハブ ザヘディのパスを受けるとペナルティエリア内に侵入し、右足を振り抜いた。「彼の特徴は攻撃力です。右45度からの得点。それは本当に期待していました。実際シュートを打ちましたね。あそこで左隅に入れる。どんなキーパーであっても取れないようなシュートを持っているので、それを期待したんですけども、惜しかったですね」(長谷部監督)。相手GKのセーブに阻まれ、ゴールを奪うことはできなかったが、ベスト電器スタジアムを大きく沸かせた。

「個人のパフォーマンスとしても満足している部分はありますし、交代で一緒に入った他の2人も含めて攻撃の部分では浦和に対して圧を掛けられたんじゃないかと思います」


今シーズン、名古屋へ移籍したエース山岸祐也に代わり、チームの課題である得点力アップを担う攻撃の軸として期待されて加入したナッシム ベン カリファ。だが、この1年で待ち受けていたのはケガとの闘いだった。2月の開幕直前に負傷すると、その後は全体練習への合流と離脱を繰り返す。試合のピッチに立てる状態に近づいたかと思えば状態は悪化。周りの期待に応えたくても応えられない。もどかしさばかりが募る日々。そんな塞ぎ込みそうになる状況でも笑顔を絶やすことはなかった。明るく前向きに不断の努力を続け、11月17日、遂にU-18との練習試合で約9カ月ぶりに実戦復帰。その日、彼は冗談も交えながらここまでのことを話してくれた。

「自分の中ではとにかく早く復帰しなければという気持ちでした。ただ、そんな中でも、街の中でサポーターの方が私の家族も含めて声をかけてくださるようなこともあり、そういった方たちのサポートに応えるためにも、たとえ10年かかったとしても、とにかくピッチの上で試合をしたいという気持ちでした。もう9カ月経っているんで子供がいてもおかしくないですね(笑)。試合に出ることだけじゃなくて、チームの全体トレーニングでチームメイトと一緒にプレーできるというのがとても嬉しいですし、リハビリの期間はそれこそボールに触れない時期とか、チームと違う時間帯に練習したりということもあったので、そういった部分でも喜びを大きく感じています。過去にケガをした時も、ここまで長引いたことはなかったので、そういった部分も含めて非常にうれしいです」

もっと早く見たかった。実戦復帰を目にして約2週間後の11月30日、ほぼ満員の博多の森のピッチで初めて紺色のユニフォームを身に纏ったナッシム ベン カリファが躍動する姿を見て、筆者が改めて抱いた正直な気持ちである。だが、過去のことを嘆いても何も変わらない。時は止まってくれないし、戻ってくることもない。変えることができるのは未来だけだ。今シーズンは残り1試合。90分の中で少しでも長く彼の輝く姿が見られることに期待しながら最終戦の地、等々力へと向かいたいと思う。

Reported by 武丸善章