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【取材ノート:藤枝】岡西宏祐と菅原大道。出場がなかった2人のGKが培ってきたもの

2024年11月28日(木)
このオフで藤枝MYFCから2人のゴールキーパーがチームを去ることになった。2年間在籍した34歳の岡西宏祐と、3年間在籍した29歳の菅原大道。GKというのはチャンスをつかむのが他より難しいポジションということもあって、2人とも藤枝では公式戦の出場が一度もなかった。
だが、彼らは日頃の練習でもチームの雰囲気に悪影響を与えるような言動は一切見せることなく、つねに前向きに取り組み、ポジティブな声かけや後輩へのアドバイスも目立っていた。
「いつ自分にチャンスが来るかわからないので、それを信じて自分を向上させていく。言葉にすれば簡単ですし、そんなの当たり前だろうと思うかもしれないけど、それをブレなくやり続けるというのは、口で言うよりもずっと難しいことなんですよ。僕自身も現役の頃はうまくいかないときに感情が出まくりの人間でしたから。そう思うと彼らは本当に大変だったと思いますけど、本当によくやってくれたと思います」と阿部謙作GKコーチは彼らの姿勢を称賛する。

「人の想いに気付けるような人間に」

とくに岡西は、昨年甲府から移籍して「自分が思い描いていた姿とはだいぶ違ったと思うんですけど…」(阿部コーチ)という苦境を味わってきた。中央大学を卒業して2013年に甲府に加入し、長い下積みを重ねたうえで2020年にようやく定位置をつかんで36試合に出場。その後はまた出番が減少してきた中で、再起をかけて藤枝への移籍を決断した。
足下の技術やビルドアップという自分の持ち味を生かせるチームという移籍理由もあり、初めからスタメンを張ることを思い描いていたはずだが、大きく異なる状況になってしまった。
だが、それでも彼は気持ちを切らすことはなかった。

「若い頃はこのまま契約解除になるんじゃないかとか焦りや不安がありましたけど、ここ数年は焦りよりも自分ができることって何なのかなと考えるようになりましたね。それはプロらしくないのかもしれないけど、自分が今こういう行動することがクラブのためになっていると信じながら、それが自分の成長にもつながると信じながら。そこが気持ちを保てた理由かもしれないですし、チームメイトも(自分への)感謝を伝えてくれていたから、やってきて良かったなと思うし、少しは力になれたのかなと思います」(岡西)

もちろん、試合に出るために自分のプレーに磨きをかけることを第一に考え、全力を注いだうえで、チームに少しでも貢献する道を模索してきた。そんな中で、体力的な限界というよりも、次へのステップを考えて引退を決意するに至った。

「この苦しみを自分の中でしっかりと受け止めることができたら、次のキャリアでも絶対に活きてくるし、差をつけられると考えてました。たとえば指導者になったときにも、試合に出られない選手の気持ちを理解してあげられないと良いチームは作れないと思うので。サッカーやGKに限らず、裏方で頑張ってる人や、なかなか評価されない人の想いに気付けるような人間になりたいです」(岡西)

次のステップについては「まだ何も決まってはいないですが、スポーツ関係とか今までの経験を活かせる仕事、自分だからこそできるという仕事をやりたいと考えてます。サッカー選手のセカンドキャリアという意味でも、自分と同じような経験をした選手たちの見本になれるようになりたいです」と言う。
そして「僕は本当にギリギリでプロになれた立場だったので、ここまで長くサッカー選手を続けさせてもらった藤枝と甲府、そしてサポーターも含めて自分を支え続けてくれた周りの人たちには本当に感謝しかないです」とつけ加えた。
「自分だからできること」で今後どんな活躍を見せてくれるのか。藤枝から旅立つ彼の名前を、ぜひ覚えておいてほしい。

「目の前のことをやってないとチャンスはつかめないので」

菅原大道は、2022年に藤枝に加入するまではアマチュア選手だった。2018年に仙台大学を卒業して北海道十勝スカイアースに加入し、2020年からは栃木シティFCで力をつけて、26歳でようやくプロ契約をつかんだ。
そうした背景もあり、「成長率という意味では、一番成長したと思います」と阿部コーチも言うように、3年間でGKとしての総合力と自信を着実に積み上げてきた。

「藤枝のキーパーは、攻撃への貢献も含めてどのチームよりも難しいことを要求されていると思うので、自分の中でもすごく成長できたという感触はあります。結局最後まで試合に出られなかったのは悔しいですけど、どこ行ってもやれるという自信はつきました。だからこそ、プロとして試合に出ないままでは終われないです」(菅原)と、新天地で挑戦を続けることを目指している。

試合に出られなかった日々も、つねに「自分のために」と誰よりもポジティブさやバイタリティを発揮し、チームに活気や刺激を与え続けてきた。

「GKって特殊なポジションですけど、3番手4番手でも1人ケガしたらベンチ入りして、その試合で出てる人がプレーできなくなったら急きょ出場することもあります。だから序列が一番低くても急に出番が来るかも知れないと思って、つねに準備してきました。須藤さん(須藤大輔監督)も、このチームが全てじゃない、サッカー人生はまだまだ続くと言ってますし、次のチームで試合に出て活躍するためには、結局目の前のことをやってないとチャンスはつかめないですよね。それもあって最後までできたかなと思います」(菅原)

現代サッカーでは、ビルドアップへの積極的な関与などGKであっても攻撃に貢献することがより求められるようになってきた。その意味では、藤枝で力をつけてきたことは、移籍先を探すうえでも大きなアピール要素となる。
菅原と同じく契約満了が発表されたMF小関陽星も「藤枝から他のクラブに行った先輩方が各々活躍してくれているので、そのおかげで藤枝出身の選手の印象は良いと思いますし、僕自身もそれを証明していきたいです」と言う。
菅原も「もうプロは厳しいのかなと思ったときもあった中で、Jリーガーにならせてくれたクラブと須藤さんには本当に感謝しています。だからこそ次のチームで活躍して、藤枝で成長したところを見せていきたいです」と彼らしい雑草魂を見せる。

岡西も菅原も、苦労や我慢を重ねてきたからこそ、人の痛みや気持ちをわかったうえで円滑にコミュニケーションをとれる力をつけてきた。“人間力”という面でも、どんな舞台に行っても自分らしさを出せる下地は、間違いなく備えているはずだ。

Reported by 前島芳雄