今シーズンでの契約満了が発表されたのが、最終節翌日の11月25日のことだ。最古参で、チーム在籍は8年。クラブの歴史を最もピッチで知る男が去るときが来た。
契約満了にあたり、クラブを通して発表した「チームの為に自分の全てを注いできました。できたこと出来なかったことなどたくさんありますが、何一つ後悔はありません」というコメントは、まさしく本心だろう。労を惜しまず戦うボランチとして、苦しいときも仲間を鼓舞し続けるキャプテンとして、長きに渡ってFC今治でプレーしてきた。8年の間にチームはJFLからJ3に戦いの舞台を格上げし、ありがとうサービス.夢スタジアム、アシックス里山スタジアムと、サッカー専用スタジアムをホームとして戦うまでに成長。そして今シーズン、ついにJ2昇格を成し遂げた。
昇格を決めたアウェイの第36節・ガイナーレ鳥取戦(〇5-0)は、83分に途中出場。試合終了を告げるホイッスルが吹かれ、歓喜の瞬間をピッチ上で迎えた。胸いっぱいの思いが、自然に涙となって流れた。
「今年はなかなかピッチに立てず、本当に苦しかった。でも自分にはここまでやってきたことがあるし、まずはそれを自分が認めてあげて、今、やれることをしっかりやろうと切り替えられました。タカさん(渡辺隆正コーチ)と抱き合ったら、余計(涙が)あふれてしまって。本当にうれしかったですね」
自身より1年早くスタッフとして今治に加わり、良いときも悪いときもともに戦ってきた渡辺コーチとの、万感の抱擁。彼らは、これまで何度も挑戦しながら跳ね返されてきたJ2昇格の壁を、なぜ今回、乗り越えられたのか、その理由を知っている。
「苦しいときに、みんなが今治のために手を取り合いながらできました。今までできていなかったというわけではなく、今年はより、それができた。(第11節・大宮アルディージャ戦から)4連敗したり苦しい時期もありましたが、チームの中で変わるべきところを変え、みんなでトレーニングから必死にやり続けられて、それが昇格の一番の理由だと思います。
4連敗していた時期は、攻撃も守備もチームに迷いが出てしまいました。そこでハットさん(服部年宏監督)はじめ、スタッフがやるべきことをしっかり示してくれて、あとは僕たち選手はそこに向かってやっていくだけだったし、チームとして一段とまとまりました。あの時期があったから、こうして昇格できました。決して無駄な時期ではなかったです」
今シーズン、自身が残した足跡はリーグ戦12試合出場、天皇杯1試合出場(いずれも無得点)。試合でプレーする時間は、過去7シーズンより短くなったが、今治のためにすべてを注いできたことに変わりはない。だからこそ、チームの成長をはっきり実感する。
「最後、苦しくても体を投げ出したり、必死に戻ってきたり。サッカーで当たり前のところを、きっちりやれるようになりました。これまで、あと一歩足りなかったのが、今年はみんなゴール前ではね返せるようになった。あとは点を取るべき選手が、しっかり取ってくれて(マルクス ヴィニシウスがリーグ最多タイの19得点をマーク)、それらが強さとなって表れ、結果に直結しました」
本当に幸せな8年間だった。今治という街、出会ったすべての人々への感謝の気持ちとともに、最大級の功労者が去っていく。
Reported by 大中祐二