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【取材ノート:今治】経験豊富なストライカー、阪野豊史のJ2昇格への関わり方

2024年11月15日(金)


ついにJ2昇格を決めたアウェイの第36節・ガイナーレ鳥取戦で、ピッチに入ったのは86分のこと。2分前にハットトリックを達成したマルクス ヴィニシウスと交代しての出場だった。その時点で4-0とリードし、アディショナルタイムに高卒ルーキーの梅木怜がさらにゴールを決めて勝利する10分足らずの間、34歳のFWは前からプレッシャーを掛けようと懸命に走り続けた。


「試合が終わったとき、特別、感情が高ぶることはなかったです。ただピッチに入るとき、自分は去年の夏、昇格するために(東京)ヴェルディからFC今治に来て、その目標達成が目前になって、改めてもう一度そのことを思い出してプレーに出そうと意識しました」

去年、J2に昇格した鹿児島ユナイテッドFCに勝点3及ばなかったチームの中で、8月に加入すると16試合に出場し、5得点。今季は第36節・鳥取戦までに27試合に出場して3得点を挙げているが、シーズン後半は途中出場、それも試合最後の数分間プレーすることが続いていた。FWとしてはもっと長くピッチに立ち、点を取るために時間を使いたい気持ちもあっただろう。だが、経験豊富なベテランが見据えるのは、そこではなかった。

「(シーズン)途中から交代出場が多くなって、自分のプレーというより、試合展開に応じてプレーすることが増えました。そこはもう、そういう役目なので。割り切って、しっかり果たせたと思います」

ここまでの3ゴールのうち、特に3点目が重要な意味を持つ。第20節、アウェイの福島ユナイテッド戦で先発したが、前半で2点を奪われ、試合は追いかける展開となった。チームは開幕4連勝と好スタートを切ったものの、11節から4連敗と失速。その後も連勝がなく、波に乗り切れていなかった時期だ。

何より福島にはホームで対戦した際、ただ逆転負けを喫したのではなく、退場者を出した相手のパスワークに翻弄されて追いつかれ、試合を引っ繰り返された苦い経験がある(第14節●1-2)。それがリーグの4連敗目であり、2カ月足らず前の苦杯だった。


悪夢がよみがえり、ネガティブな空気に押しつぶされかねない。そんな後半、ボランチのトーマス モスキオンが右から上げたクロスを相手選手2人に挟まれながら体をねじり、頭で合わせてファーに持っていったゴールは、ストライカーの矜持そのものだった。

これが反撃ののろしとなり、チームは3-2と逆転勝利。その後も勝ちを重ね、リーグの連勝を5に伸ばす。合わせて12戦無敗と、一気に加速した。

もし、あのまま福島に敗れていたら――。昇格争いは、また違った軌跡を描いていただろう。

「福島戦の得点は逆転につながるゴールだったので、もちろん良かったです。ただ、ここまでの試合どれ一つを取っても、それがなければ昇格はできなかったと思います。開幕からの4連勝に始まり、今日の鳥取戦の勝ちもそう。みんなが毎試合、90分間常にがんばった結果です」

全員の力でつかんだ昇格。そこに、チームの成長を見る。

「試合に出ている選手、サブやメンバー外になった選手、関係なくみんな練習から100パーセントでやってこれました。だからけが人が出たり、チームが悪い状態になりかけたときも、しっかり戦うことができた。試合だけを見ていると分かりにくいでしょうが、全員で努力を重ねてきたからこそ、こうして結果に結びつくのだと、この昇格で実感しました。

去年、自分は今治に加入する前にヴェルディでも試合に出ていました(20試合出場3得点)。最終的にヴェルディはJ1に昇格しましたが、昇格をつかむチームは練習から厳しさを持ってやっているというのを感じていて。今治に来たとき、強度が少し足りないと思いました。今年はそこの厳しさが出て、強度が上がったのがとても良かった」

東京Vは今シーズン、J1上位で堂々の戦いを繰り広げている。百戦錬磨のベテランFWは、そのベースとなるものが何かを知っている。来シーズン、FC今治がさらに躍進を続けるために、チームの基準を率先して高めていくことは、果たすべきとても重要な役割だ。

Reported by 大中祐二