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【取材ノート:大宮】下口稚葉の生き様。華やかな舞台の、その影での誓い

2024年11月14日(木)


気温31.2度。さいたま市から来た身にしてみれば、とても11月の気候とは思えない。明治安田J3リーグ第36節、FC琉球のホームに乗り込んだ大宮アルディージャは、暑さに苦しめられた。

シュート数13対2と一方的に攻め立てられた前半を笠原昂史の好守で何とかしのぐと、後半は少しずつ選手を入れ替えながら攻勢に出ることを試みる。75分にサイドからのボールに反応しきれず、先制を許したのは反省点だが、そこからは途中出場のメンバーを中心に奮起した。87分、大澤朋也と中野克哉が連係しながら右サイドをえぐり、中野が決定的なシュート。そして90分、下口稚葉が左サイドに深く入り込んでクロスを送り、コーナーキックを得た。

ここでアドリブが奏功する。

「本来は相手GK前に入る役割だったんですけど、トミくん(富山貴光)と直前で変わったんです」

ファーサイドで戦況を見つめ、こぼれてきたボールに即座に反応すると、ゴール前でフリーになっていた大澤へクロスを送る。下口は「本当に朋也が上手でした」と2試合連続得点のストライカーを称えたが、絶妙なボールの質が呼び込んだ土壇場での同点劇であった。


下口にとっては、第26節Y.S.C.C.横浜戦で右ふくらはぎを痛め、その負傷離脱から約2か月ぶりの公式戦だった。その間にチームはJ2昇格を、そしてJ3優勝を果たしていた…下口不在の中で。

「(優勝セレモニーで)シャーレを掲げた時はメンバー18人しか壇上に上がれなかったので、外から見てました。今までも1年間満足したシーズンはなかったので、やっぱりこれが僕の人生かなって」

離脱まではリーグ全試合に出場し、チームの首位独走に大きく貢献した一人である。そのYS横浜戦でも、ケガを押してフル出場している。それなのに、いわば寸前で一番美味しいところを取り上げられたようなものだ。

「もし怪我をした瞬間にやめていれば昇格の瞬間に立ち会えたかなとか、いろいろ考えました。でも、勝利の責任を背負ってピッチに立っている中で、僕にはあの場面でやめるという選択肢はなかった。これからも、どれだけ痛みがあってもピッチでプレーをやめることは絶対しないと思う。正解か不正解か、自分の生き様として貫いたことがこうなっちゃって、悔しいというか、(表彰の壇上に)立ちたかったなとは思いますけど、頼もしい仲間たちがクライマックスまでしっかり引き継いでくれました」

自身の無念さは、また次にぶつけていく。



「ここからまた這い上がるのが自分だと思っています。その第1歩として、チームに1つ結果をもたらすことができたのはすごく自信になったし、勝ち切れなかったけど、いい1歩目だったのかな」

今シーズンもラスト2試合。下口稚葉はピッチで生き様を見せていく。

Reported by 土地将靖