スコアは1‐1。明治安田J1リーグ第35節の柏戦は、49分に同点ゴールを奪われ、さらに逆転を狙って勢いを増す相手に流れは傾きかけた。それに対抗すべく長谷部茂利監督は手を打つ。60分にシャハブ ザヘディと共に投入したのはスピードスターの岩崎悠人だった。
狙いは明確。オープンな展開になる中で相手の背後のスペースに飛び出してゴールに向かうこと。シャドーの岩崎は与えられた役割を十分に理解していた。
「イメージ通りだったと思いますし、それで押し込めたので、交代で入る選手がシゲさん(長谷部監督)の指示をしっかりと聞いて役割を果たすことで今日みたいな結果が生まれる」
ここはホーム、ベスト電器スタジアム。時間を追うたびに高まるサポーターの熱い声援に後押しされ、途中交代の選手がチームを引っ張り、ピンチを防ぎながら数少ないチャンスを仕留めた。90+2分、FKのこぼれ球が岩崎の前にやってくる。「抑えて枠内に」。力むことなく右足をシャープに振り抜いた。ボールは相手DF に当たりながらゴールへ。「こうやって終了間際に決めるのがアビスパらしいところで、サポーターの皆さんの力にも助けられたゴール」は福岡を勝利に導く決勝点。彼自身にとって移籍後初ゴールであり、J1では2シーズンぶりのゴールになった。
歓喜に沸く中、一直線に走って向かったのは仲間の待つベンチ。「ずっとゴールをとれていなくて、チームメイトからもすごく励まされて練習も付き合ってくれていたので感謝したい」。手荒い祝福を受ける岩崎。喜びの輪の中には満面の笑みを見せる長谷部監督もいた。「本当にシゲさんに(ゴールを)見せられて良かった」。ほっとした表情で素直な想いを話してくれた。
ここまでの道のりは長く、苦しいものだった。今シーズン福岡にやって来た岩崎はここまでリーグ戦全35試合に出場。走行距離、スプリント数は毎試合のようにチームトップを記録するほど攻守にハードワークを怠らず、チームに貢献していた。だが、期待されていたゴールという結果が出ない。日に日に厳しくなる周りの目。シャドーからWBにポジションが変わった時期も、スタメンから外れた試合もあった。それでもめげずにアタッカーとして数字を求め続けた。
その為に基礎から見つめ直した。「今までボールの当て感がすごい雑な感じになっていてリフティングから見直したというのがあったんですけど、ボールに対してどう自分の足をアプローチをしていくかというようなことを見直して、それを助言してくれた方もいました」。どうやったら正確にボールの芯を捉え、自分が思うようにコントロールできるのか。再現性の高いシュートを打てるのか。日々考え、悩み、試行錯誤を続けた。長谷部監督は「5得点、5アシストぐらいできる選手」と期待を掛けながら彼の努力する姿を見守り、悠人ならきっと壁を乗り越えられると信じ続けた。岩崎もそんな“シゲさん”の想いを強く感じていた。
「(長谷部監督は)本当に選手をリスペクトしてくださるので思い切ってプレーできる環境を作ってもらっているのがすごく大きなことだと思いますし、それがないチームというのも多分あると思うので、自分がやりたいプレーをできるというのはすごい一年間通してお世話になったと思います」
福岡で長谷部監督と共に戦えるラストシーズンも残り3試合。「ゴールをどんどん狙っていきたい」。苦境に立たされながら一回りも二回りも成長を遂げた背番号18は、感謝の想いを胸に自信をもってピッチに立つ。
Reported by 武丸善章