【取材ノート:名古屋】名古屋グランパス四季折々:名古屋で育まれた熱い友情。盟友・ランゲラックと稲垣祥の絆が吹かせる優勝への追い風
おや? と思ったのだった。2戦合計4-3で逃げきった2024JリーグYBCルヴァンカップ準決勝の横浜FM戦、その第2戦の試合終了後のインタビューの中で、準々決勝の勝ち上がりに触れた際にランゲラックはわざわざひとりの選手の名を挙げたのだ。
「広島戦では中盤のディフェンスの選手が良いパフォーマンスを見せてくれたと思うし、中盤には稲垣祥というすごく良い選手がいて、チームをリードしてくれている。祥がいてくれたから、いいパフォーマンスを見せることができた」
そしてすぐさま思い出した。その1週間前、ルヴァンカップ準決勝に臨む取材の場で稲垣もまた、ランゲラックに対するリスペクトを表明していたのだ。
「間違いなく自分自身はチームの中でミッチへの感謝への想いとか、彼への尊敬は人一倍強いと思っている。そういう意味でも何とかタイトルを獲って、ミッチにカップを掲げてほしい。パーソナリティ、優しさ、思いやりのある心。もちろんプレー面は僕が言うまでもないし、僕はそういったミッチの人間的な部分が特に好きですね」
通じているのだな、この二人は。そう思ったら聞かずにはいられなかった。ランゲラックに、稲垣とはどんな存在なのかを。通訳を聞き、ランゲラックは穏やかに笑って“盟友”あるいは“戦友”への想いを綴る。
「祥がそうやって自分のことを言ってくれてすごく嬉しく感じる。本当に稲垣祥という選手はJリーグでも見本となるような選手なんです。今年でおそらく自分たちは5年目のプレーだと思うけれども、練習をしている姿、練習に臨む姿、準備をしている姿、試合でプレーをしている姿、彼のそのメンタリティ。それら全てをひっくるめて、トッププロになるために必要な選手のあり方を示す素晴らしいお手本だよ。だから自分は彼について最高だということしか言えないし、自分も本当に大好きな選手で、これからもリスペクトしあう仲でいたいなと思う」
18年加入のランゲラックと、20年加入の稲垣は、まさしく苦楽を共にしてきた間柄だ。毎年が順風満帆ではなかった5つのシーズンの中で、21年にはルヴァンカップを制し、鉄壁の守備陣を築いてリーグの無失点記録も樹立した。ランゲラックは数々のビッグセーブで、稲垣は守りだけでなく貴重なゴールでもチームを救い、今季はキャプテンの座も稲垣からランゲラックの手に手渡されている。しかしランゲラックはそのポジションの特性上、一般的なキャプテンのような振る舞いを試合中に見せることは難しく、永井謙佑や稲垣がしばしばそういった場に立ち会って“折衝”にあたることも。稲垣は「自分に役職がないぶん、役職を持っている人がいるってこと。そういう選手を支えようとは意識している。自分にできることはなるべくやって、サポートしているつもり」と言い、なるほどこれもまた「稲垣祥というすごく良い選手がいて、チームをリードしてくれている」という言葉の意味なのだと理解した。
9月に入りひとつの戦い方を確立した感のある名古屋は、アグレッシブさを前面に押し出した戦い方で難敵を次々と蹴散らしてきた。とりわけ特徴的なのが新潟や川崎、横浜FMのようなポゼッションスタイルを持つ相手とのマッチアップの仕方で、ほぼマンツーマンのようにマーカーを定めて強度高く守備をする。その中での稲垣の役割はエースキラーのようなところがあり、三國ケネディエブスとふたりで相手のストライカー、トップ下などの攻撃のキーマンを抑えるのがその仕事。つまり、守備の局面ではこれまでよりも、よりランゲラックの近くで守りの要衝を任されているわけだ。これもまた彼らの“共闘感”を高めているのかもしれないし、そこから得点まで奪って戻ってくる稲垣に対し、「特に祥はとても強く、素晴らしい形でチームを引っ張っている」と表現するのも納得できる。
こうしてひとたび彼らの絆を認識してしまうと、広島との準々決勝でもつれこんだPK戦の、1本目のキッカーが稲垣で2本目がランゲラックだったことにも偶然以上のものを感じてしまう。長谷川健太監督はランゲラックを2人目にした経緯について「ミッチがPKがうまいことはわかっていたが、でも1本目というのも…」として2人目にしたと話していた。ランゲラックも自信満々で蹴ったと言っていたが、1本目に稲垣がきっちり決めていてくれた恩恵には授かっているわけで、ここにも彼らの信頼関係や互いに応え合う想いが感じられて仕方ない。
“ミッチにカップリフトをしてもらいたい”。7月30日にランゲラックが今季限りでの退団を発表して以降、名古屋にはこうした願いにも似た目標が強く設定されたところもある。それを一番強く想っているのはくどいようだが稲垣であり、ここ1ヵ月の鬼気迫るパフォーマンスには友への想いもひときわ強く感じるところ。もちろん彼らだけが名古屋ではなく、全員で勝ち進み、全員で勝ち獲ろうとしているのがファイナル進出が決まった今季のルヴァンカップだ。ただその中に、「自分たちはお互いのことを本当によく知っているんだ」という強いつながりを感じながら闘っているふたりがいることも間違いなく、彼らが表現する“連係”は、彼らにとっても二度目の戴冠に、強い追い風を吹かせる気がしてならないのである。
Reported by 今井雄一朗
「広島戦では中盤のディフェンスの選手が良いパフォーマンスを見せてくれたと思うし、中盤には稲垣祥というすごく良い選手がいて、チームをリードしてくれている。祥がいてくれたから、いいパフォーマンスを見せることができた」
そしてすぐさま思い出した。その1週間前、ルヴァンカップ準決勝に臨む取材の場で稲垣もまた、ランゲラックに対するリスペクトを表明していたのだ。
「間違いなく自分自身はチームの中でミッチへの感謝への想いとか、彼への尊敬は人一倍強いと思っている。そういう意味でも何とかタイトルを獲って、ミッチにカップを掲げてほしい。パーソナリティ、優しさ、思いやりのある心。もちろんプレー面は僕が言うまでもないし、僕はそういったミッチの人間的な部分が特に好きですね」
通じているのだな、この二人は。そう思ったら聞かずにはいられなかった。ランゲラックに、稲垣とはどんな存在なのかを。通訳を聞き、ランゲラックは穏やかに笑って“盟友”あるいは“戦友”への想いを綴る。
「祥がそうやって自分のことを言ってくれてすごく嬉しく感じる。本当に稲垣祥という選手はJリーグでも見本となるような選手なんです。今年でおそらく自分たちは5年目のプレーだと思うけれども、練習をしている姿、練習に臨む姿、準備をしている姿、試合でプレーをしている姿、彼のそのメンタリティ。それら全てをひっくるめて、トッププロになるために必要な選手のあり方を示す素晴らしいお手本だよ。だから自分は彼について最高だということしか言えないし、自分も本当に大好きな選手で、これからもリスペクトしあう仲でいたいなと思う」
18年加入のランゲラックと、20年加入の稲垣は、まさしく苦楽を共にしてきた間柄だ。毎年が順風満帆ではなかった5つのシーズンの中で、21年にはルヴァンカップを制し、鉄壁の守備陣を築いてリーグの無失点記録も樹立した。ランゲラックは数々のビッグセーブで、稲垣は守りだけでなく貴重なゴールでもチームを救い、今季はキャプテンの座も稲垣からランゲラックの手に手渡されている。しかしランゲラックはそのポジションの特性上、一般的なキャプテンのような振る舞いを試合中に見せることは難しく、永井謙佑や稲垣がしばしばそういった場に立ち会って“折衝”にあたることも。稲垣は「自分に役職がないぶん、役職を持っている人がいるってこと。そういう選手を支えようとは意識している。自分にできることはなるべくやって、サポートしているつもり」と言い、なるほどこれもまた「稲垣祥というすごく良い選手がいて、チームをリードしてくれている」という言葉の意味なのだと理解した。
9月に入りひとつの戦い方を確立した感のある名古屋は、アグレッシブさを前面に押し出した戦い方で難敵を次々と蹴散らしてきた。とりわけ特徴的なのが新潟や川崎、横浜FMのようなポゼッションスタイルを持つ相手とのマッチアップの仕方で、ほぼマンツーマンのようにマーカーを定めて強度高く守備をする。その中での稲垣の役割はエースキラーのようなところがあり、三國ケネディエブスとふたりで相手のストライカー、トップ下などの攻撃のキーマンを抑えるのがその仕事。つまり、守備の局面ではこれまでよりも、よりランゲラックの近くで守りの要衝を任されているわけだ。これもまた彼らの“共闘感”を高めているのかもしれないし、そこから得点まで奪って戻ってくる稲垣に対し、「特に祥はとても強く、素晴らしい形でチームを引っ張っている」と表現するのも納得できる。
こうしてひとたび彼らの絆を認識してしまうと、広島との準々決勝でもつれこんだPK戦の、1本目のキッカーが稲垣で2本目がランゲラックだったことにも偶然以上のものを感じてしまう。長谷川健太監督はランゲラックを2人目にした経緯について「ミッチがPKがうまいことはわかっていたが、でも1本目というのも…」として2人目にしたと話していた。ランゲラックも自信満々で蹴ったと言っていたが、1本目に稲垣がきっちり決めていてくれた恩恵には授かっているわけで、ここにも彼らの信頼関係や互いに応え合う想いが感じられて仕方ない。
“ミッチにカップリフトをしてもらいたい”。7月30日にランゲラックが今季限りでの退団を発表して以降、名古屋にはこうした願いにも似た目標が強く設定されたところもある。それを一番強く想っているのはくどいようだが稲垣であり、ここ1ヵ月の鬼気迫るパフォーマンスには友への想いもひときわ強く感じるところ。もちろん彼らだけが名古屋ではなく、全員で勝ち進み、全員で勝ち獲ろうとしているのがファイナル進出が決まった今季のルヴァンカップだ。ただその中に、「自分たちはお互いのことを本当によく知っているんだ」という強いつながりを感じながら闘っているふたりがいることも間違いなく、彼らが表現する“連係”は、彼らにとっても二度目の戴冠に、強い追い風を吹かせる気がしてならないのである。
Reported by 今井雄一朗