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【取材ノート:藤枝】清水から藤枝へ。隣町のクラブで急成長中のストライカー、千葉寛汰の現在地

2024年10月4日(金)
「うちに来てから短期間ですごく成長しています」

須藤大輔監督がそう語るのは、清水エスパルスから藤枝MYFCに期限付き移籍中のFW千葉寛汰のこと。7月頭に合流して直後の水戸戦から途中出場し、3試合目からは先発に定着。契約条項により出場できなかった清水戦以外は、全10試合に出場している。数字的にはここまで2得点で、5試合ゴールから遠ざかっているが、内容的には充実した働きでチームに欠かせない存在となっている。

「それも藤枝を選んだ理由なので」

そんな千葉の具体的な成長点について、須藤監督は次のように語る。

「最初はプレー中に消えることがあったけど、消えずに連続してプレーできるようになってきました。それはオン(ザ・ボール)からオフもそうだし、オフからオンもそうだし、ここまででいいやじゃなくて最後までやり切れるようになってきた。そのうえで出ていくからフリーになれるということが彼の中でもわかってきたと思います」

「もうひとつは力強さ。ボールを失わなくなってきた。しかもゴール前の混戦とか一番プレスがキツいところで身体張ってプロテクトして、仙台戦でもカジ(梶川諒太)のゴールをアシストした。大分戦でもプロテクトして(矢村)健のチャンスを作った。すごく力強さが出てきたなと感じます」(須藤監督)

千葉は、清水ユース時代から世代屈指の得点力やゴールセンスを発揮してきた天性のストライカー。2022年にトップ昇格したが、清水ではなかなか出番を得られず、22年は今治、23年は徳島と今治、そして今年は藤枝と3年連続で期限付き移籍している。そんな中でJ3の今治では38試合で19得点とハイペースでゴールを重ねていたが、J1では得点がなく、J2でも藤枝に来て3試合目の鹿児島戦で決めたのが初ゴールだった。


だが、そうした武者修行の中で着実に地力をつけてきたことが、今のプレーに表われている。とくに点を取るプレー以外のところでの総合的な進化が著しく、そこは本人もつねに意識している。

「運動量とかハードワークという部分を伸ばしたいというのは、藤枝を(移籍先として)選んだ理由のひとつですし、今は最前線でゴールだけを狙う、エゴを出すストライカーというより、チームをうまく回すというか、周りを見て生かしながらチームが勝つためにプレーするというところを意識してやっています。矢村(健)選手もいて、今自分に求められてるのはそこなので。もちろん、ずっとストライカーとしてやってきた部分をもっと出したいという気持ちはありますけど、今は守備で走ったり、戻ったり、相手の嫌な位置に立ってチャンスメイクしたり、そういう部分をすごく学べていますし、伸びてるところかなと思います」(千葉)

須藤監督が指摘したように相手を背負いながらボールをキープしたり、背中で相手を抑えながらターンして前を向いたりというプレーも、藤枝に来て非常に目立っているところ。下半身の強さは「元々自信を持っている」ところで、その生かし方もうまくなってきた。

プロになってから、点を取るだけでは試合に出られないということを自覚しており、守備でもビルドアップやチャンスメイクでも貢献できるストライカーを目指してきた。それが藤枝に来て花開きつつあるという状況だろう。

エゴと客観性を両立させて

そんな千葉には、もうひとつの特質がある。

「自分自身を客観的に見たり、分析したりというのは、子どもの頃から得意なんですよ。それがあるから、ここまでやれてるなと自分では思ってます。今は試合に出続けられているので、自分で得た感覚とか、終わった後の分析とか、仲間との意見のすり合わせをしながら、修正して次につなげていくという作業を毎週繰り返すことができていて、そういう意味でも成長につなげられていると思います」(千葉)

自分や周りの状況を俯瞰的に見ることができるからこそ、ゴール前で相手の隙を突く的確なポジションをとり、最適なタイミングで動き出してゴールを奪うことができる。ゴールハンターとしても重要な資質と言えるだろう。

それに加えて、周囲の意見も聞きながら、自分に足りないところ、必要なことを客観的に分析し、練習に生かしていく。「そういう選手は伸びますよ」と須藤監督も太鼓判を押す。

献身的にハードワークしながらゴールも決めきれるストライカーという意味では、相棒の矢村も同じ。藤枝の2トップは相手にとって脅威となりつつあり、プレーオフ進出を目指すうえでも大きな原動力となっている。

千葉本人は残り5試合での個人的な目標を「あと3得点以上」としており、しばらくゴールが止まっていることについては「焦りは……なくはないですけど、プレー自体は良い感触があるし、自信を持ってやれているので、1点取れれば続けて取れるという感覚はあります」と言う。

そして取材の最後には「オレがあと何点取るか、見といてください」と言い残していった千葉。その笑顔や語気は、やはり彼が生粋の点取り屋であるということを、あらためて思い出させてくれた。

Reported by 前島芳雄