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【取材ノート:名古屋】名古屋グランパス四季折々:よりスマートに進化を続ける名古屋のDFリーダー。三國ケネディエブス、そのポテンシャルは無限大だ

2024年10月3日(木)


物事は、極めていけばいくほど単純に、シンプルになっていく。身体能力の高さが武器という選手はその特徴ゆえに派手に見えることも多いが、その武器を使いこなせるようになっていくにつれ、動きはスマートになっていくものだ。つまり無駄がなくなる。三國ケネディエブスを見ているといつも、そういうことを考える。80の力でいいところに100の力を出してしまい、焦りも手伝って致命的なミスをしていたのが今季序盤の三國なら、現在の三國は50なら50で、100なら100で対応するクレバーなDFだ。まだまだミスは多いが、それを補って余りある能力をもって、名古屋のディフェンスリーダーの座をしっかりと射止めている。

現在3連勝中のチームは、3試合連続で無失点に抑えている点でも内容面に充実感がある。前線からの強度の高い守備システムは、だからこそ後方の跳ね返しや回収が重要で、相手がプレス回避にと大きく蹴り出した時、センターバックがしっかり跳ね返していけるかは仕上げの作業として欠かせない。リーグ前節の磐田戦での三國はその点でほぼ完勝し、苦しい時間帯も優位性を保った時間帯も、すべてにおいてチームを底上げできていた。それでも三國は「勝率は高かったと思うけど、それをもっと仲間につなげる意識だったり、それが無理でも仲間が反応しやすいようなクリアボールをもっと心がけてやっていければ」と反省が先に出るのだから大したものだ。



実は今季、名古屋の練習には1ヵ月に1回程度の頻度で武田修宏さんと中澤佑二さんが“スキルコーチ”のような形で定期的に選手の指導に訪れている。沖縄でのプレシーズンキャンプでのトライアルを機に定例化したこの試みは効果も着実に表れており、攻撃陣はリーグ最低のシュート総数ながら決定率はトップを争う。そして守備陣はなかなか陣容を固定できなかった時期を潜り抜け、三國と河面旺成、内田宅哉で構成される現在の3バックは対人能力、展開力、機動力を結果に結び付け始めてきた。三國はといえば昨季までの出場機会の少なさが嘘のような急成長ぶりで、沖縄ではヘディングの技術から一つずつ“中澤スキル”を学んでいった愛弟子でもあった。師匠の影響でつけ始めたサッカーノートには試合の反省点を書き連ね、「書き出してから、そのプレーの時間を見直して、こうすべきだったなって反省する」とリマインドに活用している。日本代表レジェンドの薫陶を受けた男は今季すでに30試合に出場し、名古屋のフィールドプレーヤーでは最多のプレータイムを誇るまでになった。

「昔に比べると練習の時からもちょっと余裕が出てきたかなっていう風なことは思いますね」と三國は言う。開幕戦で悪夢のようなミスを連発していた若者の表情は、多くの経験を刻み込んで精悍になったように見える。ゴールデンウィークの連戦で初めて中2日でのプレーを経験し、「試合途中で頭がぼーっとして、考えられなくなりましたよ」といたずらっぽく笑っていた選手である。試合に慣れ始めてきた頃は3バックの右でオーバーラップも頻繁に、高校時代に好きだったポール・ポグバのようなドリブルでの持ち上がりも披露していたが、今は3バック中央で広範囲をカバーするスイーパー的な役割に汗を流す。もちろんポジション的には守備の統率者としての期待も背負うが、「声を出して、僕が中心となってやらなきゃいけない」と自覚もたっぷり。さらには「ここ3試合はほんとに良い関係性、良い距離感で連動した守備ができている。変わらず継続していければ、後ろはゼロでいける」と、いい意味での自信もその言動からにじみ出る。



最近では取材の際に「日本代表への思い」を聞かれる機会が増えた。前線2列目と同様に超激戦区となっている森保ジャパンのセンターバックに食い込むのは難易度も高いが、三國にそのポテンシャルはあることは間違いない。名古屋での3シーズンだけでも相馬勇紀や森下龍矢、藤井陽也などのA代表戦士を育ててきた長谷川健太監督も、日本代表でやっていくなら、という言葉で三國を評することがあった。「(記者に)聞かれるまで意識してなかった」と語る三國も、言われることで意識は生まれ、「チームで結果出してないと意味がないと思うので」と日常のその先を見るようになっている。視座が上がればクオリティも上がる。三國のレベルアップは名古屋のレベルアップと同義だけに、彼が何を意識してプレーするようになるかは今後も見ものだ。

「30試合に出場して、いろいろな選手と対峙していく中で、自分なりのディフェンスのやり方がけっこう明確に、それも良いイメージで持てている」。まだカップ戦タイトルの可能性を残すチームにとって、守備の安定は何よりの追い風だ。その中心に立つ男がまだまだ絶賛進化中というのは頼もしい限りで、ここからの終盤戦における名古屋の背番号20のパフォーマンスには、ぜひとも注目しておいて損はない。

Reported by 今井雄一朗