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【取材ノート:福岡】九州ダービーを熱くさせた永石拓海。福岡のゴールに鍵をかける男の強い想い

2024年10月1日(火)


明治安田J1リーグ第32節・鳥栖戦後のミックスゾーン。沈痛な表情を見せる永石拓海の声は震えていた。

「こんなに無失点で悔しい試合はないというか、サポーターの想いも分かりますし、自分としても聞いていて悔しい、苦しいブーイングでした」

例え、どんな状況であろうとも互いの意地とプライドをかけ、勝利だけを求めて戦うのが九州ダービー。だからこそ、スコアレスドローに終わった瞬間、ゴール裏の多くのサポーターからブーイングが飛んだ。

ただ、長谷部茂利監督が「選手たちはよくやったので、選手たちを非難しないでもらいたい。非難するなら私を非難すればいい、1点も取れなかったというところを。ただ裏返して1点も取られなかったという選手たちの守備のところ、ゴール前で身体を張ったところは素晴らしかった」と言うように粘り強い守備で勝点1を手にしたこともまた事実。その中心にGKの永石はいた。

前半から福岡の最後の砦としてゴールに鍵をかけ続けた背番号1の最大の見せ場は、68分のFK。ゴール前に入ってきたクロスを永石はペナルティエリア外へ弾く。ボールはキックの名手、清武弘嗣の足元へ。危ない。だが、今シーズンここまでペナルティエリア外のシュートセーブ率100%の男は冷静だった。「ファーストタッチの置き所がすごく良かったので、(シュートを)打ってくるだろうなというタイミングだったので、とりあえずまず下がって、本当にシュートが上手い選手なので、嫌なところに蹴ってくるというのも頭にありましたし、それに対する準備というのはどの選手に対しても変わらないんですけど、より意識してできていたと思います」。ミドルレンジから的確なコースを突いてくるシュートに対し、191㎝の長身GKは右手を懸命に伸ばして止め、直後の久保藤次郎の鋭いシュートもストップ。すぐさま紺色に染まったゴール裏に向かって魂をぶつけた。


「僕らと一緒に戦ってほしいという思いは常にあるし、僕らのきつい時間帯だったのでここを一緒に乗り越えようという意味でも僕はいつもサポーターを煽るし、サポーターにもそれに乗ってきてほしいし、自分一人で戦っているんじゃないと思っています。ああいうシーンはサポーターの力を借りないと戦いが苦しくなるとすごく思っているので、いつも本当に助けてもらっているなと思います」

福岡にやってきて4年目。昨シーズン、ルヴァンカップ優勝時にゴールマウスを守った永石。今シーズンは、村上昌謙、坂田大樹、菅沼一晃との激しい競争の中で開幕スタメンの座を勝ち取り、カップ戦のみならず、リーグ戦でも順調に出場試合数を伸ばしていた。しかし、5月中旬の練習中に左側下顎骨骨折を負い、戦線離脱。それでも決して下を向くことなく、復帰当初は患部を保護するためにヘッドギアをつけながら懸命にトレーニングに励んだ。練習場に響き渡るチームメイトを鼓舞する大きな声。試合のピッチに立てなくても福岡の為に戦うんだ。福岡を強くしたいんだ。そんな強い想いがあるからこそ、完敗を喫した前々節の町田戦後には人目を憚らず、サポーターの前で涙を見せた。そして、強い覚悟を持って前節の磐田戦で約4ヵ月ぶりに先発復帰。2試合連続で好セーブを連発し、チームの無失点継続に大きく貢献している。

「純粋に良い準備ができていたというか、アクションをしていたというところで迷いなくできているところ。それが良いセーブにつながっていると思いますし、『絶対にやらせないぞ』という想いがあります。今の自分の立ち位置を守るという意味ではやられてしまったら代えられてしまう可能性もある中で、『負けない』というところを誰よりも意識しているので、それを結果に、勝点1ですけど、なって良かったと思います」

もちろん誰もこの結果に満足はしていない。ダービーの悔しさはダービーでしか晴らせないもの。すぐに気持ちを切り替えることは簡単ではないが、永石を中心に全員の力で積み上げたこの勝点1を無駄にしないためにも間近に迫る次なる戦いにフォーカスする必要がある。

「名古屋が相手なので嫌な相手ではないというか、僕は対戦相手として結構良い思い出があるチームで、すごく調子が良くなるイメージがあるので、名古屋に対して悪いイメージはありません。良いモチベーションで(試合に)入れればと思います」

真っ先に思い起こされるのは、昨シーズンのルヴァンカップ準決勝。2試合ともゴールマウスを守った永石は、無失点に抑える活躍を見せ、福岡を勝利へと導いた。それから約1年。同じ相手に今度はリーグ戦12試合ぶりの勝点3を目指してゴールに鍵をかける。全ては笑顔でサポーターと喜びを分かち合うために。

Reported by 武丸善章