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【取材ノート:藤枝・清水】藤枝vs清水。4回目を迎えた「静岡ダービー(仮)」の意義

2024年9月20日(金)
藤枝との戦いを清水側が「静岡ダービー」として認識しているかどうかという議論はさておき、今回が絶好のタイミングでの対戦であることは間違いない。なぜなら、両チームとも今季取り組み続けてきたテーマが徐々に成果として表われ、結果にも結びついてきた時期という意味で共通点があるからだ。

「J2に上がった年に似ている」

ホームで初の集客1万人超えを目指す藤枝は、前節で4位の仙台を破って今季2度目の3連勝。順位はまだ10位だが、6位・山口との勝点差が2に縮まり、プレーオフ進出にかなり現実味が出てきた。


前半戦ではトップ6のチーム(対戦時点)に一度も勝てなかったが、8/17の山口戦(27節)に3-0で快勝してからは4勝1敗。負けたのは退場者が出て10人で戦った山形戦(0-1)だけで、アウェイの仙台戦という難所でも勝ち切る力を見せた。「自分たちのやりたいこと、今季やり続けてきたことができ始めてきて、選手の中にも自信が表われていて、それが終盤に来てようやく結果にも繋がってきたかなと感じています」と須藤監督は言う。

その「やりたいこと」のひとつには、相手にプレッシャーをかけられても各選手が的確に立ち位置をとって確実にパスをつなぎ、ボールを保持できるようになってきたことが挙げられる。「ボールを受けてもパスコースがなくて困るという場面がすごく減ってきた」と、攻撃のつなぎ役を担う梶川諒太も手応えを口にする。と同時に、ビルドアップの過程でミスによってボールを失う場面も減り、そこからカウンターを食らってピンチや失点につながるシーンも少なくなってきた。
守備面ではラインコントロールの素早さやタイミングが向上してコンパクトさを保てるようになり、相手に自由を与える場面も減ってきた。それも安定した戦いにつながっている。

そして攻撃面では、エースの矢村健が3戦連発で4得点と爆発しつつある。当面の目標である10得点を超えてからは「序盤とは違って力まずしっかり(シュートが)打てている」と矢村本人も語る通り、彼らしいシュート精度の高さを存分に表現できるようになってきた。昨年のホーム対戦(37節)で清水からリーグ戦初勝利を挙げた際の決勝点となった強烈なミドルシュートは記憶に新しいが、その再現も期待できるだろう。


また仙台戦では、DFの裏へのフィードから矢村が2得点を挙げ、相手を押し込んだ中で華麗なコンビネーションから梶川が移籍後初ゴール。この梶川のゴールについては「あれがやりたい形。選手それぞれの特徴がうまくかみ合ったゴールだと思います」と須藤監督は絶賛した。速攻と遅攻の両輪で点を取ることも「やりたいこと」のひとつだ。

前半戦は苦労しながらも終盤戦になって内容と結果が伴ってきた現況について、須藤監督は「J3からJ2に上がったシーズン(2022年)に似ている」と言う。今節で2位の清水にも勝つことができれば、選手たちはさらに自信を増し、プレーオフ進出へのラストスパートを加速させることができる。今季の開幕前に須藤監督は「誰が何と言おうと目標はJ1昇格」と語ったが、その言葉の説得力もより高まってくるだろう。

「大人の戦い方ができるように」

対する清水も、6戦負けなし(5勝1分)と安定した戦いを見せており、とくに直近2試合では勝負強さが目立ってきた。山口戦では65分に1-1に追いつかれた後に3得点して4-1の快勝。台風によって延期された水曜日の徳島戦では、先発を7人入れ替えた中で63分に先制点を奪われたが、そこから2点を奪って開幕戦以来の逆転勝ち。山口戦では矢島慎也が2得点、徳島戦ではドウグラス タンキが2得点と交代選手がチームを救う活躍を見せていることも大きい。



昨年は1つの勝点、1つの得点の差でJ1昇格を逃したという悔しさに泣き、今季に向けて秋葉忠宏監督は「勝負強さを身につける」ことに徹底的にこだわってきた。その働きかけは練習での姿勢やピッチ外での過ごし方にも及び、サブ組やベンチ外の選手にも高い要求を続けてチームの一体感を培ってきた。その成果が、終盤になって確実に表われ始めている。

試合の運び方に関しても、山口戦後に原輝綺は次のように語った。

「距離感良くパスをつなぐというのはチームとして取り組んでることですし、そのテンポとか前向きの作り方というのはまだまだ良くなると思います。ただ(落ち着いてボールを保持しながら試合を進めるという面では)今日は良い兆候が見られた試合だったと思います」(原)

残り時間が少なくなってきた中で同点にされても、先制点を奪われても、まったく慌てることなく、自分たちの力を信じて勝利につなげるという力を、ここ2試合で表現することができた。その点についても原は言葉を重ねた。

「去年は、我慢しなきゃいけない時間帯とか、うまくいかない時期に、我慢しきれなかった面がありました。それが今年は、点を取られたとしても耐えるところは耐えて、仕留め切るところ仕留めるということが、だんだんできるようになってきた。大人の戦い方というか試合運びができつつあると思います。個人個人で言えば、自分を含めてもっと冷静にできる場面もまだありますが、去年の経験を生かせている選手は多いと思います」(原)

何かアクシデントが起こってもバタバタすることなく自分たちのサッカーを続け、勝負どころを逃さずに結果につなげていく。昨年よりも「大人の戦い方」ができるようになってきたことが、勝負強さにもつながっている。

個の力では清水が1枚も2枚も上回っていることは藤枝側も認めるところなので、自分たちの土俵に持ち込んで冷静に戦い続けることができれば、勝利の可能性は自ずと高まってくる。そしてハードな3連戦に全勝し、次の横浜FCとの直接対決(@国立競技場)で首位を奪い返すというのが、清水が描くシナリオだ。

本物の「静岡ダービー」にするために

ただ「自分たちの土俵に持ち込みたい」(須藤監督)というのは藤枝も同じ。昨年ホームで勝った際には守備的で我慢強い戦い方がベースになったが、今なら攻撃的に真っ向勝負しても自分たちの展開に持ち込めるという自信がついてきた。

もちろん、清水も主導権を譲る気は毛頭なく、どちらがボールを支配できるかという部分も大きな見どころとなってくる。その中で結果はどう転ぶかわからないが、お互いの良さをバチバチと出し合ったクオリティの高い好ゲームを見せてくれることは、今の状況であれば大いに期待できる。藤枝vs清水が本物の「静岡ダービー」と認められるようになるためにも、そこは欠かせない見せ場となるはずだ。

Reported by 前島芳雄