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【取材ノート:名古屋】名古屋グランパス四季折々:闘う漢、克つ男。ファイター・内田宅哉の前進の日々

2024年9月19日(木)


爽やか、あるいは穏やか。まだ26歳と若さの方が優るその表情の裏には、たぎるような闘争心が渦巻いている。器用さを超えて巧みとも言える細かなテクニックを持ち、コンタクトプレーに強くボールを運ぶ推進力も出せる。上背がある、というほどのサイズではないが空中戦にも強く、今季はその攻撃的、身体的な特徴を買われて3バック右のポジションが定位置となってきた。名古屋に来てからだけでもサイドバック、ウイングバック、インサイドハーフ、ボランチと職を転々としてきたオールマイティはしかし、不慣れでいて責任の重いポジションでのシーズンに多くの“負荷”を感じながらプレーしているのは誰の目にも明らかだ。

そもそも内田がこの位置で使われる理由は攻撃面にその比重が偏る。「攻撃のビルドアップで、こちらが居てほしいポジションを取れるのは内田が一番」。長谷川健太監督はそう語り、明治安田J1リーグ第30節のFC東京戦でのPK献上のシーンについても「あれで内田を責めるのはかわいそう」と同情を寄せる。河面旺成のクリアミス、もっと言えば高めのライン設定の中で嫌な位置にフィードを放り込まれたところから、名古屋のピンチは始まっていた。そこに何とか失点回避の余地を残した内田のプレーはむしろ対応としては良い方で、あとはその対応の質ひとつで「あれが間に合ってたら、もうスーパーなセーブだった」(長谷川監督)と称賛されていてもおかしくないとまで言う。当の内田本人に聞けば、あくまで謙虚に、しかし貪欲さも匂わせながらこう答える。


「あの場面はミス絡みでもあるけど、どうにかしてシュートに合わせてスライディングするなり、もっと平行に走って相手にプレッシャーかけたり、という違う選択肢もあったんじゃないかなとは思います。やってみないと正解はわからないですけど、そういった選択肢のある中で、ああいう形でPKになってしまった。そこは見直す部分でもありながら、自分はそれを繰り返さないようにしないといけないなっていう気持ちではいました」



だから自分が失点に絡んでの1-4という悔しい敗戦から4日後の明治安田J1リーグ第31節・新潟戦。内田は「今日はしっかりカードをもらわずに守備ではシュートブロックができましたし、無失点で終われたというのは自分の中でも大きい」と胸を張った。試合は3-0というスコア以上に名古屋が新潟を封じ込めた展開となり、マンツーマン的にはめこんだチームディフェンスの中で内田も躍動。後半開始直後には相手ゴール前左のニアサイドのクロスに突っ込むアグレッシブさを見せ、「自分が3バックをやっている意味は、攻撃に積極的に参加すること」と彼らしさを見せた。以前の対戦では相手のフリックやワンツーなどパスワークに苦しめられてきたが、「自分のポジションを守らないといけないという頭が働いて、相手のワンツーなどにはがされる部分が多かった」ことから、マンツーマンで人に対してタイトに守った部分も奏功したと語る。


こうした試行錯誤を、内田は人一倍、繰り返してきた。サイドバックの経験があっても、ファイター型のボランチに手応えをつかんでいても、センターバックは様々な意味で違うポジションである。その最たる部分はリスクの負い方で、明治安田J1リーグ第25節・京都戦での退場劇などはDFとしての判断基準があればと思わせる部分もあった。特徴として十分に資質はあり、攻撃面だけでなく一定のクオリティが期待できるからスタッフ陣も内田をDFで起用するわけだが、結果は残酷で、しかしそれゆえに我々は内田という男の凄みも感じることになる。彼は逃げないのだ。悔しいミスの後、厳しい敗戦の後、それでも何ら臆することなく挑んでいける姿は、感動的でもある。



「自分にはできないことが正直言って多い中で、イエローカードをもらったりとか、クロス対応が悪かったりとか、それがディフェンスラインなので失点に直結するという部分はあります。でも一つひとつそれをクリアしないといけないと思うので、たとえば今日はいくつかクリアできた部分もありますし、まだまだできる部分もある。少しずつ積み上げていければいいかなと。自分のミスにはそれもけっこう危ないというか、足を上げてレッドカードになってしまったり、一発で抜かれるとか悪い部分もありますけど、そこで逃げたら成長はないし、このポジションを任されてる中ではしっかりやらないといけない部分。今日ミスしたものは次はミスしないようにって日々やっていますし、そういうことでも少しずつ、成長できればいいかなと思います」

余談だが昨シーズン、実は序盤戦と終盤戦の二度、肋骨を折りながら平然とプレーしていた。コンタクトプレーがひとつ好不調のバロメータである選手だけに、それは少なくない驚きの事実でもあったが、「休む方がストレス」と言ってのけた姿に彼は生粋のファイターなのだと確信もした。戦士は逃げず、立ち向かう。DFという責任を背負う覚悟が不可欠なポジションを任されるに、彼ほどふさわしいキャラクターもいない。今季はコンバート1年目であり、不慣れは当然のことながら、勝敗にかかわる部分に情状酌量の余地はない。それでも起用する指揮官の期待に応えるべく、チームの勝利に寄与すべく、自身初のチャントを歌ってくれるサポーターのためにも、内田は真摯に今の自分の役割に対して向上を求めるだけである。「この試合に一喜一憂せずに、次もクリーンシートで勝利できればいい」。背番号34の奮闘はもっと認められてもいい気がするが、そこにも飽き足らず研鑽を重ねていそうな男だけに、前進の日々はまだまだ今後も続きそうである。

Reported by 今井雄一朗