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【取材ノート:琉球】庵原篤人の念願ゴールの裏に隠されたキャプテンの声

2024年9月5日(木)

大卒ルーキーのFW庵原篤人にとって、忘れられない一日となった。
8月31日の明治安田J3リーグ第26節・鳥取戦。この日1ゴールの重松健太郎に代わって後半12分から途中出場した庵原はすぐさま脚力を生かして前線からプレッシャーをかけ続ける「らしさ」を見せた。


ただその「らしさ」は本人にとって、「持ち味ではあるけど、それじゃ相手に怖さを与えることはできない」という思いで苦悩していたという。前節の金沢戦まで先発3試合を含む20試合に出場していた庵原。そのほとんどが途中出場だが、ファーストディフェンダーとしての存在価値を発揮し信頼を得ている。しかし最前線に立つがゆえシュートチャンスは訪れるもGKの正面をついたり、力んで枠を大きく外れるシーンもあり、最も重要なゴールまで中々手が届かない状況であった。

「外してばかりでチームのみんなに負担かけてたし、これだけ出場しているのにゴールもないままいつもロッカールームに戻る自分自身が情けなかった」と吐露した庵原は、8月のリーグ中断明け直後から全体練習が終わったあと、埴田健コーチとマンツーマンで自主的にシュート練習する姿が見られるようになった。ただ打つのではなくコースのギリギリを狙い厳しい角度からの配球、クロスボールに対してしっかりミートさせることを意識。黙々と約30分蹴り込んでいる。

その練習の成果を見せようとしたのが鳥取戦である。琉球リードも2−1と緊迫した展開。庵原はゴール前まで駆け上がると、遠目からでも積極果敢に右足を振り抜く姿を見せる。しかし上手くミートせず、やはり力んでいるように見えた。それは今まで中々成功体験を得ることができていない状況がゆえの焦りの色だったのかもしれない。

最終盤へと差し掛かり1点を追う相手の圧力が強まる中、後半38分。キャプテンのFW野田隆之介が投入。瞬間、庵原は思い出す。
「もちろん点を取ることも大事だけど、点が取れなくても出来ることがある。勝利のために頑張れ」

試合前、その言葉を野田からもらい、彼の背中を見て集中力を高めた庵原。そして迎えた後半45分。

「リュウさん(野田)から『後ろに入ってこい』という言葉が響いた」と、庵原はその言葉の通りに野田の背後に立つと、武沢一翔の右クロスに対して野田がボックス内で潰れ、ファーで構える庵原の足元へボールが渡る。「トラップからシュートまで落ち着いてできました」と、ゴールエルアでGKと一対一の場面を制し、貴重な3点目。チームの勝利に大きく貢献した。

「だいぶ(初ゴールが)遅くなった分、みんな喜んでくれた。その光景を見てこれがJリーグなんだなと実感しました」。

あらためてプロとして新たな一歩を踏み出した8月31日。仲間の支えも実感した庵原にとって忘れられない日となった。

Reported by 仲本兼進