ホームでの第1戦は0-1の敗戦となってしまったルヴァンカップの準々決勝だが、名古屋の選手たちの目はすでに次を、かつポジティブに見つめていた。「リーグでの対戦から変えた部分はいくつか、間違いなく表現できていたし、そういう手応えがセカンドレグの僕らの自信になる」とは稲垣祥の言葉で、とにかくインテンシティで負けないことが大前提にある広島との肉弾戦にも同様に手応えを口にする。20人でメンバーを組める今季のリーグカップのレギュレーションを利して新加入のホセ カラバリもデビューさせ、Jリーグの感触を確かめさせることができたのも次への投資としては悪くなかった。試合内容としても課題は残る一方で、指揮官自ら完敗を認めた8月のリーグ戦と比較すれば改善は見られ、キャスパー ユンカーと山岸祐也のコンビがことごとくチャンスを生んでいたのも追い風に感じられるところだった。
その中で最も可能性を感じさせた変化のひとつが、夏に新加入した徳元悠平のプレーだったのは間違いない。リーグ湘南戦で交代出場から25分ほどのプレーで名古屋でのデビュー戦を飾り、「やはり強度が高い」と長谷川健太監督にも高評価を得た中での初のスタメン出場。左右を問わずセットプレーのキッカーを務め、名古屋の可変システムにも左ウイングバックとして及第点以上に対応してみせた。攻撃の組み立てでは低い位置を取ることも多かったが、守りの局面では一気に駆け上がってのプレスを欠かさず、再び攻撃の局面ではクロスでのチャンスメイクも保持からのアクセントづけなど多岐にわたって仕事をこなす。「違うエッセンスが加わった影響は間違いなく出てるし、性格的にもしっかり穴を開けずにチームのためにプレーできる選手なので、これから期待したい」。これも稲垣の言葉だが、ハードワークとゲームメイク、チャンスメイクを同時にこなせるのは徳元の得難い能力だ。
「プレー自体で求められていることは最低限やれた」と徳元も語る。それは初めて経験するウイングバックとしての守備面だけでなく、「右肩上がりの中でもボールを持った時の斜めのパス、そういう味方の動きを見て蹴れるのは自分の良さ」というビルドアップでの貢献についても同様だ。ひとつ後ろで連係も多い河面旺成も、「左のウイングが左利きなので、高い位置で張ってボール受けるよりは低い位置で前を向いて、角度を作りながらの方がチームとしていい形は作れる」とやりやすさを感じていた模様。右のウイングバックが高い位置を取り、疑似4-4-2のような変形フォーメーションにもなることがある中では、徳元からの斜めの縦パスが前線にうまく収まる場面もまずまずの回数が作れていた。「自分のやりたいこと、できることというのは前線の選手には伝えられたと思う」と徳元も手応えを口にしたが、試合の流れを操り、変えられる存在として3日後に迫るセカンドレグでも早くも重宝されそうな予感を抱かせた。
J3から現在のキャリアを積み上げてきた叩き上げの男は、その過程において「感謝することを大事にしてきた」と言う。広島との第1レグの試合後にも、感想の第一声は「悔しいですし、応援してくださった方に対して…申し訳なさがある」だった。その表情は心の底からそう思っていることを感じさせ、「広島で僕らはいい準備して戦うんで、サポーターの方たちも広島に来て一緒にまた戦ってほしい」という言葉で改めてそう思わせてくれた。「ゲームで信頼は作れる」という真摯な姿勢も、「セットプレーのキックに波があって、練習でできていたことを披露できなかった。そこを反省しないといけないし、信じて中に入ってもらえるようにしたい」であるとか、「ひとつクロスが(山岸)祐也くんに合ったので、もう1回そういうチャンスがあれば、もっと質の良いボールを上げたい」という台詞が彼の本気度を補強する。とにかく真面目で、素直に気持ちを表現するのが心地よい。
「やりたいことはやれたと思いますし、それをもっともっと突き詰めればゴールは近づくと思う。『できたね』で終わるんじゃなく、そこの質をより上げるっていうところ。アウェイでも先制できれば、絶対こっちの流れになると思う」
まるで以前から在籍している選手のように、徳元は語った。当然だが名古屋の面々は何も諦めることなく、逆転での準決勝進出を虎視眈々と目論んでいる。第1戦では見せることがなかった徳元のロングスローも含め、チームは2戦合計で勝つためのプランを再構築していることだろう。その想定の中での背番号55の存在感は、第1戦を通じてさらに大きくなったはずだ。
Reported by 今井雄一朗