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【取材ノート:福岡】取り戻した福岡の“アイデンティティ”。可変式4-4-2システムが生んだ収穫と課題

2024年8月27日(火)


試合終了のホイッスルが鳴った瞬間、多くの選手がピッチに倒れ込み、膝に手をついた。

明治安田J1リーグ第28節のガンバ大阪戦。ナイターとはいえ、パナソニックスタジアム吹田の気温は31.8度。場内は風をあまり感じず蒸し暑く、記者席で見ているだけでも汗が滴り落ちるほどだった。そんな中、ピッチ上の選手たちは3万人を超える青黒のサポーターの大声援にもひるむことなく、懸命にハードワークし続けた。


「自分たちの力は出し切ったというか、やり切ったような、そんな印象を受けています。この暑さの中でよくやってくれたと選手を称えたいと思います」(長谷部茂利監督)

攻守に精彩を欠いた前節の新潟戦から一転、見る側にもひしひしと伝わってきた100%ではなく、120%の力を出すという気持ち。これをやらなきゃ勝てない。チームの為に誰よりも走り、体を張る。球際のバトルから逃げずにがむしゃらに全員で戦う。「うまくいかなくても泥だらけになりながら粘り強く勝点を獲っていく試合も僕は美しいと思う」と以前キャプテンの奈良竜樹が言ったように決して派手さはないが、一体感を持って泥臭く戦い続ける福岡の“アイデンティティ”が戻ってきたように感じて思わず胸が熱くなった。

そんな福岡らしさを表現できた要因の一つとしてシステム変更が挙げられる。「自分たちが守りやすいように、相手が攻めにくいように考えたつもりです。1トップではなくて2トップで守備をした方が相手が困ると思った」と長谷部監督が明かすように前節顕著に出たプレスの連動性の低さという課題を改善するために長く採用していた3-4-2-1から4-4-2へと布陣に変化を加えた。普段、SBやWBでプレーする前嶋洋太を左SHに初期配置しながらディフェンシブサードに押し込まれた時には最終ラインの一番左へ縦スライドさせて5バック気味に可変。これまで多く左WBを務めていた岩崎悠人を2トップの一角に据え、守備時はプレスのスイッチ役というタスクを与えた。

「シゲさん(長谷部監督)が僕を2トップ(の一角)で使ったのはそういうことなんじゃないかなとみんな分かっていると思うので、今日はそういう意識でできてよかったなと思います。(相手が)2センターバックで(パスを)回しているときは結構(プレスの)スイッチを入れるタイミングだなと思っていたんですけど、そこに鈴木徳真選手だったり、一森選手だったりが関わってきた時はちょっとセットを組んだポジションを取るような感じを意識していました。1番前(のポジション)なので1個(プレスを)外されても2度追い、3度追いすればカバーできるのでそこは勢いをもってできるなと思います」(岩崎)

岩崎の躍動に導かれるようにチーム全体で前線から相手のビルドアップを制限できたことで前向きなボール奪取は前節に比べて増加。この試合の1点目のPKにつながったシーンが象徴するように高い位置でボールを奪い、縦に鋭くゴールに向かうことができた。「良い守備からの良い攻撃」を目指す福岡にとって連動したプレスが必要不可欠な中で、システム変更が一定の効果を示したと言っていい。そして、このシステムの変化によって改めて自分たちが勝つ為に何をしなければならないのか整理され、チーム全体で意志を統一して最大出力を出し切れたことが何よりの収穫だ。

だが、結果は2-2のドロー。2度先行しながら2つのゴールを許して追いつかれただけに当然課題もある。

「守備が前からハマるところは、多分、良くなったと思いますけど、ちょっと4バックにすることで失点も増えてしまっているので、そこのバランスをどうするかというところは、最終的にシゲさん(長谷部監督)が決めるので、シゲさんが決めたことを選手はやるだけです。ただ、今日のクロスの失点とかは3バックだったらあんなにスカスカじゃなかったとか思ったりとかするので、ちょっと難しいところではあるのかなと思います。(G大阪戦は)ディフェンシブサードとかは5バックで行こう、やろうと一応なっていたんですけど、なかなか可変してすぐ戻したりというのが難しいタイミングがあるので、そこはまだやり始めたばっかりなので、精度が高くないというのがあると思うんですけど、一つのオプションとしてしっかりできるようにやらないといけないと思います」(紺野和也)

戦術的な幅を広げながら取り戻した自分たちらしさ。「本来のベースがこれです。この基準をもっともっと上げていって今後戦っていきたいと思います」(宮大樹)。これから神戸、町田と続く上位チームとのホームでの連戦。この日、手にした勝点1以上の自信を胸に福岡は上を目指し続ける。

Reported by 武丸善章