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【取材ノート:名古屋】名古屋グランパス四季折々:異文化に触れて増した“シャープネス”。重廣卓也はよりシンプルに、チームの潤滑油であり続ける

2024年8月18日(日)


チームのみんなでサッカーがしたいと、重廣卓也は言う。運動量とテクニックでチームの潤滑油となるプレースタイルは、その表れとして確かに特徴的だ。一昨季の加入当初は前線のプレッシングの強度も高く評価され、その点でも確かに彼の想いはプレーに強く表れている。今季は開幕直後に韓国KリーグのFCソウルに期限付き移籍し、異文化のフットボールを感じて心機一転。残念ながらKリーグのスタイルは彼との相性がそれほど良くなかったようだが、それでも収穫はあった。ソウルではチームのトレーニングとして筋トレが組み込まれており、それまではあまりやってこなかったというマシントレーニングもこの半年間はこなさねばならなかった。その影響もあってかシャープになった身体つきと、韓国で強く求められる人への強さの意識が相まって、名古屋の背番号19のプレーは激しさを増したように感じられるのだ。

そう感じられたのは、復帰後の出場機会となった神戸戦、京都戦、東京V戦の3試合で、とりわけ直近の2試合についてはゲーム内容の難しさとも重なって、より力強くも感じられた。鋭かった、と言い換えてもいいそのキレのあるランニングは「痩せましたから」と笑顔でかわされたが、「“人”に行くっていうことはあっち行って意識するようになったんで」と考察も付け加えてくれた。曰く、動き自体が鋭くなったのではなく、「シンプルに人に直線的に行くようになって、そこの迷いが減った」というのが、復帰後の動きの質に表れているとのこと。Kリーグは「常にピッチの中に1対1が10個あるみたいな」ところがあり、ピッチの中には常に選ぶ時間がある分だけ、「あっちでそれを食らっていたこともあるし、逆に行く感覚も身についた」のだと自己分析を進める。もともと持っていた献身性に、人へ強く当たりに行く意識が上乗せされて、今の姿があるというわけである。



彼のプレースタイルがよく表れた試合として、ホームの東京V戦があった。1点リードで迎えた後半立ち上がり、菊地泰智が足の異常を訴え急きょ重廣が出場することに。そこで重廣が見せたのはチームを攻守で助けて回ることで、攻撃では時間とパスコースを、守備では前述のようなプレッシャーの強さを誇示してチームのテンションを上げ続けた。運動量については「途中交代の鉄則はそこなんで。まず誰よりも運動量出さないと話になんない」と意にも介さなかったが、攻撃面で時間をうまくつくって試合をコントロールした部分については、意図が出せたと胸を張る。

「グランパスってけっこう後半に、ちょっと間延びする展開っていうのがどちらかと言ったら多いと思うので。攻撃に関してはボールを取った後、1本、2本とつなぐ意識だったり、ボールを保持するって意識をみんなに伝えたかったっていうのもありました。だからピッチに入ってからはあえて近い距離でパス交換したりとか、そういう意識は持って入りましたね。守備に関しても、もうひとつエンジンをかけるためにも、(稲垣)祥くんや椎(椎橋慧也)を中心にボランチへのサポートをしながら、前へのアプローチもちょっと構えてからかけるっていう意識はあった。これは展開が違っていれば、また少し僕の動きの質はたぶん変わっていた。今回は1-0。じゃあ、取った後にすぐ相手にボールが渡ると厳しい。ロングボールを背後にばっかりじゃ厳しい。というところもあって、やっぱり中盤で誰かが、ホッと一息つかせるってことはしようかなと思って」

東京Ⅴ戦で重廣にとって追い風だったのは、そうした彼の意図にチームがうまく乗ってきたことだった。上記のような意図を仲間が読み取り、いわゆる遊びのパスも入れつつリズムが刻めるかどうかは肝とも言える。「その間に誰かが動いてくれればいいから。僕で全てをやろうとは思ってないので、みんなが連動してくれればもっといい形になって、追加点も狙えたと思う」とは、“みんなでサッカーがしたい”男の面目躍如であり、我が意を得たりとも言うべきところだった。



もっとも、大逆転負けだった京都戦の反省や残像もプレーの判断基準にはこびりついていたようで、ややディフェンシブな意識が垣間見えた部分については「前回の“あれ”があるんでね。自分が入って失点という形は、僕自身のイメージにも正直あったので。そういう意識があったので、セーフティに守りながらボールを保持しつつ、チャンスを伺えたらなと考えていました」と振り返る。その次節、厳しい敗戦となった広島戦では出番がなかったが、重廣は東京Ⅴ戦後にこうも言っていた。「今日に関しては泰智の負傷交代だったし、前回はウッチー(内田宅哉)の退場もあった。イレギュラーの中でも使ってもらってる以上、やっぱり結果を出さないといけない」。サッカーを楽しむタイプだが、同時にプロのシビアさもよく知っている。長谷川健太監督はそうした重廣のプレーの質に、「向こうで苦労したという話を聞いて、『自分自身も甘かったです』と言っていた。帰ってきてからは本当に意欲的」と一定の評価を与えていた。

「まだ、ところどころに軽いプレーも出ていたので、もっともっと確実にやる。ベンチ以上のものを掴むなら、僕自身でこだわってやっていきたいなとは思う」。チームで戦い、チームで勝つために、自分はその間を取り持つ潤滑油でありたい。心身ともにシャープになった重廣卓也はよりシンプルに、より効果的に、仲間との勝利を目指して走り続ける。

Reported by 今井雄一朗