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【取材ノート:神戸】「いや全く練習してないですよ」。山内翔、名古屋戦の一発を語る。

2024年7月25日(木)


明治安田J1・24節の名古屋戦は、あえて使い古された表現を使うと“ジェットコースター”のような試合だった。

22分にパトリックのゴールで名古屋が先制した試合は、33分に佐々木大樹のゴールで神戸が同点に追いつく展開。1-1で迎えた後半54分には稲垣祥の見事なボレーシュートで再び名古屋がリードする。追いつきたい神戸は67分にエアバトルに強い菊池流帆をセットプレーのターゲットマンを見越して投入。77分にはスピードのある飯野七聖を入れてゴールをこじ開けにかかる。だが、名古屋の守備は堅く、同点ゴールが生まれないまま試合は終盤へと差し掛かった。そして神戸・吉田監督は最後のカードとして89分に秘蔵っ子の山内翔をピッチへ送り込んだ…。

采配は的中。90分に山内が期待に応えて同点ゴールを決めると、ホーム・ノエビアスタジアム神戸には強烈な追い風が吹く。流れに乗った神戸は90'+3分に菊池のヘディングシュートで逆転に成功する。最終的に90'+10分にPKで失点した神戸は3-3のドロー決着となったが、最後まで何があるかわからないサッカーの楽しさが詰まった好ゲームとなった。

“ジェットコースター”と表現したのは終盤3ゴールのシーンである。山あり谷ありのドラマチックな展開の引き金となったのが山内のゴールだ。
 
左サイドでパスを受けた山内はドリブルでエリア内へ侵入。そして相手DFの逆をとってカットインから右足を気持ちよく振り抜き、名手ランゲラックの脇下を抜いてゴールネットを揺らした。


細かいステップを入れながらのキレのあるドリブル、そして思い切りのいいシュート…。山内には申し訳ないが、私はてっきり武藤嘉紀がゴールを決めたのだと思った。一応、言い訳しておくとメガネを家に忘れたのだ。アナウンスが山内翔の名を轟かせ、今の、武藤じゃなかったのかと理解した。失礼を承知で言うなら、昨シーズンまで大学No.1ボランチと呼ばれていた山内からは想像しにくい、見事なゴールだった。

試合後、ミックスゾーンで山内に尋ねた。あのカットインシュートは誰かを参考にしたのかと…。武藤さんです、という答えを半ば期待していたが「誰かを参考にしたわけではないです」という返事が返ってきた。
「あの場面は何も考えていなかったんですけど、デビューした札幌戦も同じような場面があって、あの時は縦に突破しました。でも、今回は相手が疲れていたのか、(縦突破が嫌だったのか)僕が縦に行く方に体を傾いているように思えました。それで逆(内側)を選びました。結果的にそれでシュートコースが開いた感じです」

念を押して、日頃からああいう練習をしているかと尋ねた。期待したのは、武藤さんと一緒に…。
「いや、全然してないです。練習で同じようなゴールをした覚えもないですし、ほんと咄嗟に出た感じです」

山内はルーキーイヤーながら、すでに2ゴールを挙げている。プロ初ゴールは首位・町田から勝点3を奪ったあの国立の一戦。そして次が今回の名古屋戦。どちらも印象に残るゴールで、しかもチームに勝点をもたらす貴重なゴールだ。今回のパリ五輪の代表には選ばれなかったが、彼もまた個性的なタレントがそろうU-23日本代表と同世代。ポテンシャルを感じさせる、名古屋戦の一発だった。

Reported by 白井邦彦