「今日はなにも緊張してなかったので、次は結果だけだと思います。目指してるのが海外でプレーすることなので、ここで早く結果を残さないと。サッカー人生も短いんで、もっともっと本当に貪欲にやっていかないといけないですね」
これは、加入3カ月でプロ初出場した高卒ルーキーの試合後の言葉だ。創設15年目の藤枝では、日本人で初めて高卒加入した芹生海翔(鹿児島城西高)。4月7日の仙台戦(9節)で89分から初舞台を踏んだことは、筆者的には「早いな。たいしたものだ」という感覚だったが、本人は「遅すぎた」と言う。
1トップの下に入る2シャドーのポジションには強力な先輩ライバルがひしめくが、激しい競争の中でも自分の立場を確立しつつある。ただ、初ゴールに対する彼のコメントは、初々しさを期待するメディアの予想をまたしても良い意味で裏切ってくれた。
「(決まった直後は)一瞬喜んだんですけど、なんかこれじゃないなと、そんなに喜ぶほどでもないのかなと思いました。1点で何か変わるような世界じゃないし、もっと結果を出していかないといけないなと改めて思いました」
こうして文字だけでコメントを並べると、“ビッグマウス”という印象を受けるかもしれないが、本人から直接話を聞いていると、天狗になっているとか、注目を集めることを狙っているといった印象はまったく受けない。
むしろ自分が思ったことをフィルターをかけずに素直に口に出しているだけのように見える。フィルターをかけないという意味では、老婆心ながら失言のリスクも心配になってしまうが、“天然ビッグマウス”と解釈すれば、取材していてとても楽しい選手でもある。
その資質は、ボールの受け方、キープ力、ドリブル、ラストパス、シュートなどアタッキングサードのさまざまな局面で発揮され、他の選手が見ていないところを見ていたり、他がやらないプレーを選択したり、いわゆるファンタジスタ要素をかなり持っている。日本代表でいえば鎌田大地に少し似ているという声も多い。
だから、観る者を楽しませるだけでなく、守りを固めた相手を攻め崩す意味でも貢献することができ、藤枝が志す「超攻撃的エンターテイメントサッカー」を体現する意味でも、大きな役割を果たせる可能性を備えている。
ただ、高校時代は王様のような立場だっただけに、プロの世界ではまだ足りない要素が多く、そこは本人もよく理解している。
「とくに守備は自分の課題だと思いますし、相手との距離(間合い)をもっと詰めて、ボールを取り切るようにならないといけないと思っています。今は抜かれたくないというのがあって(間合いが)遠くなりがちですけど、近づいたらスコッと抜かれちゃったりするので。そこは難しいですけど、もっとレベル高いところや海外に行ったら今のままだと話にならないので、もっと意識を高めてやっていかなきゃいけないと思っています」(芹生)
先発で出場できるようになったのも、その守備力が基準に達してきたからであり、本人も前からプレッシャーをかける仕事を懸命にやり続けている。45分間の走行距離も6kmを大きく超え、チーム内でもトップクラスのハードワークを見せている。
それによって早くへばってしまう試合もあったが、体力面でも徐々に慣れて攻撃で持ち味をより発揮できるようになってきた水戸戦では、技ありの縦パスで先制点をお膳立てし、さらに後半にはクロスに合わせて初ゴールも決めた。
点の取り方に関しても「クロスが入ってきて外したときがあったので、試合や映像を見てクロスへの入り方とか、どこに打てば入るかというのを分析していました」と、自ら研究してきた成果を証明した。
「(合流当初とは)全然違いますよ。良いものを持っていることはわかっていましたが、ボールを失うところとか、量の部分、守備のところとか、しっかり取り組んできて確実に上がっていると思います。それで結果もついてきて、もっともっと羽ばたけるような時期に入っているのかなと。ただ、これで天狗になってはいけないし、今の練習を見てもしっかりやれているのは良いことだと思います。持っているものはすごいと思うので、代表にも入ってほしいですね」(須藤監督)
着実に成長を続けていることは間違いないが、まだ高卒1年目だからゆっくり成長していけばいいという感覚は、彼自身には一切ない。
「近い歳の人たちでもっともっと試合に出て、結果を出している選手もいますし、世代別の代表もあるので、まずそこがライバル。その選手たちよりどう結果を残していくかというのを今の課題にしています。だから数字、目に見える結果というのは全然足りてないと感じています」(芹生)
オリンピックでいえば、パリの次のロサンゼルス五輪(2028年)世代。その頃にはJ1というより海外でプレーしていることを目指す大器。つねに高い基準を自分に求める貪欲さと良い意味の図太さもあり、単なるビッグマウスではなく有言実行になる可能性も大いに秘めている。
原石の発掘・育成に定評のある藤枝MYFCに、また1人楽しみな成長株が表われたことは、サポーターにとっても大きな喜びとなるだろう。今から青田買いして、成長過程を追いかけていくことを強くお勧めしたい18歳だ。
Reported by 前島芳雄
これは、加入3カ月でプロ初出場した高卒ルーキーの試合後の言葉だ。創設15年目の藤枝では、日本人で初めて高卒加入した芹生海翔(鹿児島城西高)。4月7日の仙台戦(9節)で89分から初舞台を踏んだことは、筆者的には「早いな。たいしたものだ」という感覚だったが、本人は「遅すぎた」と言う。
「一瞬喜んだんですけど、なんかこれじゃないなと…」
次の横浜FC戦でも75分から出場したが、その後は出番が遠ざかり、3試合目は18節・甲府戦(6/1)。これが初先発だった。そこから2試合は出場がなかったが、21節・長崎戦から4試合連続で先発出場し、23節・水戸戦では本人も欲し続けていたプロ初ゴールをゲット。クラブ史上最年少ゴールの記録も更新した。1トップの下に入る2シャドーのポジションには強力な先輩ライバルがひしめくが、激しい競争の中でも自分の立場を確立しつつある。ただ、初ゴールに対する彼のコメントは、初々しさを期待するメディアの予想をまたしても良い意味で裏切ってくれた。
「(決まった直後は)一瞬喜んだんですけど、なんかこれじゃないなと、そんなに喜ぶほどでもないのかなと思いました。1点で何か変わるような世界じゃないし、もっと結果を出していかないといけないなと改めて思いました」
こうして文字だけでコメントを並べると、“ビッグマウス”という印象を受けるかもしれないが、本人から直接話を聞いていると、天狗になっているとか、注目を集めることを狙っているといった印象はまったく受けない。
むしろ自分が思ったことをフィルターをかけずに素直に口に出しているだけのように見える。フィルターをかけないという意味では、老婆心ながら失言のリスクも心配になってしまうが、“天然ビッグマウス”と解釈すれば、取材していてとても楽しい選手でもある。
ハードワークを尽くしたうえで
そんな大物感漂うルーキーのプレー面での魅力は、何と言っても天性の攻撃センスにある。須藤大輔監督も「本能的なプレーだったり感覚的なプレーというのは、誰もが持てるものではないセンスを持っている」と高く評価する。その資質は、ボールの受け方、キープ力、ドリブル、ラストパス、シュートなどアタッキングサードのさまざまな局面で発揮され、他の選手が見ていないところを見ていたり、他がやらないプレーを選択したり、いわゆるファンタジスタ要素をかなり持っている。日本代表でいえば鎌田大地に少し似ているという声も多い。
だから、観る者を楽しませるだけでなく、守りを固めた相手を攻め崩す意味でも貢献することができ、藤枝が志す「超攻撃的エンターテイメントサッカー」を体現する意味でも、大きな役割を果たせる可能性を備えている。
ただ、高校時代は王様のような立場だっただけに、プロの世界ではまだ足りない要素が多く、そこは本人もよく理解している。
「とくに守備は自分の課題だと思いますし、相手との距離(間合い)をもっと詰めて、ボールを取り切るようにならないといけないと思っています。今は抜かれたくないというのがあって(間合いが)遠くなりがちですけど、近づいたらスコッと抜かれちゃったりするので。そこは難しいですけど、もっとレベル高いところや海外に行ったら今のままだと話にならないので、もっと意識を高めてやっていかなきゃいけないと思っています」(芹生)
先発で出場できるようになったのも、その守備力が基準に達してきたからであり、本人も前からプレッシャーをかける仕事を懸命にやり続けている。45分間の走行距離も6kmを大きく超え、チーム内でもトップクラスのハードワークを見せている。
それによって早くへばってしまう試合もあったが、体力面でも徐々に慣れて攻撃で持ち味をより発揮できるようになってきた水戸戦では、技ありの縦パスで先制点をお膳立てし、さらに後半にはクロスに合わせて初ゴールも決めた。
点の取り方に関しても「クロスが入ってきて外したときがあったので、試合や映像を見てクロスへの入り方とか、どこに打てば入るかというのを分析していました」と、自ら研究してきた成果を証明した。
「もっともっと目に見える結果を」
1月に加入してからここまで芹生が大きく成長してきたことは、須藤監督も認める。「(合流当初とは)全然違いますよ。良いものを持っていることはわかっていましたが、ボールを失うところとか、量の部分、守備のところとか、しっかり取り組んできて確実に上がっていると思います。それで結果もついてきて、もっともっと羽ばたけるような時期に入っているのかなと。ただ、これで天狗になってはいけないし、今の練習を見てもしっかりやれているのは良いことだと思います。持っているものはすごいと思うので、代表にも入ってほしいですね」(須藤監督)
着実に成長を続けていることは間違いないが、まだ高卒1年目だからゆっくり成長していけばいいという感覚は、彼自身には一切ない。
「近い歳の人たちでもっともっと試合に出て、結果を出している選手もいますし、世代別の代表もあるので、まずそこがライバル。その選手たちよりどう結果を残していくかというのを今の課題にしています。だから数字、目に見える結果というのは全然足りてないと感じています」(芹生)
オリンピックでいえば、パリの次のロサンゼルス五輪(2028年)世代。その頃にはJ1というより海外でプレーしていることを目指す大器。つねに高い基準を自分に求める貪欲さと良い意味の図太さもあり、単なるビッグマウスではなく有言実行になる可能性も大いに秘めている。
原石の発掘・育成に定評のある藤枝MYFCに、また1人楽しみな成長株が表われたことは、サポーターにとっても大きな喜びとなるだろう。今から青田買いして、成長過程を追いかけていくことを強くお勧めしたい18歳だ。
Reported by 前島芳雄