包み隠すことなく、藤春廣輝は吐露する。
「こういうことが有り得る世界。でもやっぱり淋しいですね」
16日、FW白井陽斗の札幌移籍が発表された。G大阪でプロデビューし、岡山を経て昨年琉球に加入した白井は、今季の明治安田J3リーグ開幕節の奈良戦で早速ゴールを奪うとその後量産体制。ボール奪取を企てる相手の鋭いプレスも一瞬のスピードでかいくぐれば、再三DFラインの背後のスペースへ潜り込んでゴールへの活路を見出し、リーグ前半戦だけで10ゴールをあげた彼は名実ともにエースストライカーとなった。飛ぶ鳥を落とす勢いでチームを上昇気流に乗せたそのまばゆい光は沖縄から札幌の地へと移り、シーズン半ばでの移籍に悩みに悩んだ末の決意となったが、「琉球を代表して頑張ってこいよ!」という仲間の声を支えに、再び閃光を放つための挑戦心を胸に旅立っていった。
その白井にとって心強い兄貴だったのが藤春だった。今年G大阪から加入し、初めて沖縄での生活を送ることになった藤春に対し白井は親身にサポート。「琉球でプレーする上で陽斗の存在がデカかったのは間違いないし、すぐにチームに馴染めたのも彼のおかげ」(藤春)と、その援護があったからこそ後にチームの相乗効果を生みだす。すぐに選手とコミュニケーションを育み、ガンバで培った経験と実績、勝者のメンタリティを存分に注入し強力なカンフル剤となった藤春。今やチームで唯一、リーグ戦全試合フルタイム出場を果たすほど欠かせない選手となり、チームのポテンシャルを引き上げる存在として影響力は多大である。
そして白井に対しては「プレーについては愛のムチじゃないけど、結構厳しく言っていたと思います」と、藤春は特別なスピリットを植え付けていたという。それは藤春が白井の力を認めていたからであり、もっと力を出しきれるはずだと感じたがゆえ、胸に刺さる言葉をかけてきた。
「(PKを外した第9節・)北九州戦(●0-2)のあとのトレーニングのときも結構落ち込んでて。それで優しい言葉をかけるのが当たり前なのかもしれないけど、自分は逆に厳しく言うことで陽斗の心に火をつけたいというか、それで這い上がってきたときにまた強くなってくれそうな期待感がありました」
その直後の第10節・長野戦(◯4-3)。藤春の期待通り、この試合で白井は2ゴールを上げリバウンドメンタリティを発揮させた。「今日決めなかったらありえないと思っていたので。気持ちです。これから取れるだけ取ります」と語った白井の復活に、藤春の言葉が関わっていたことは至極当然である。
「琉球でプレーしている白井陽斗はストライカーの自覚を持ってプレーしていた。その姿は素直にすごいなと思いますし、だからこそ思わず厳しいこと言ってしまったかなと思うところもあります。今ももっとできるんちゃうかなって思う部分もあるし。もうちょっと一緒にやりたかったけれど、頑張ってほしいですね」
チームは離れたが、藤春と白井を紡ぐ強固な絆は今もつながっている。互いが存在を意識しあい、活躍する姿が糧になる。良いプレーを示し合うことが琉球、札幌の抱く目標達成への力となるだろう。
Reported by 仲本兼進