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【取材ノート:名古屋】名古屋グランパス四季折々:ミリ単位のこだわりが支えた久々の勝利。名古屋の勝因に常にランゲラックあり

2024年7月16日(火)


ランゲラックがそのピンチをしのいでオーバーリアクションを見せた時、既視感が脳裏をよぎったのは自分だけではないだろう。相手も同じ柏で、後半のアディショナルタイム終盤の最後の山場という点でも場面は酷似している。柏のキャストはフィニッシャーが立田悠悟から片山瑛一と木下康介に代わっていたが、いずれもマテウス サヴィオのクロスから生まれたプレーで、名古屋の守護神が文字通りの神がかったセーブで同点ゴールを許さなかったところまで瓜二つ。その既視感を本人に伝えると、ランゲラックは大きく息をつきながら相手のチャンスメーカーを称えるのだった。

「同じような場面だな、とは自分も思いました(笑)。本当にマテウス サヴィオという選手はアンビリーバブル。あんなにアメージングな選手はいないですよね(苦笑)。常に危険な選手なので、こちらとしても一瞬たりとも隙を与えられない。だからあの場面の1分前にだって味方の選手に『サヴィオを閉じろ!』『ボールに寄せろ』『何もさせるな』とコーチングしていたけど、それでもチャンスは作られてしまいました。最後の場面も含めて最終的には守ることができたのよかったけど、改めて、彼は素晴らしい選手だなと思いましたね」



前半の早い時間帯に失点し、後半早々に逆転して勝ちきったこの試合、ランゲラックは“いつも通り”にチームを救うセーブを見せ、勝利に貢献していた。前述の最終盤のビッグセーブだけでなく、50分には味方のパスミスから生まれたピンチを左手の指先でしのいでいる。リアルタイムではシュートが外れたようにしか見えないこの場面は、プレーの爆発力や瞬発力も感じる一方で、これが彼にとっては“安定感”でもあると感じさせてくれもする。常に自分のパフォーマンスを維持し、試合で起きたことに対してのトレーニングを積み重ねてきた。たとえば2018年の来日当初は相手の足元に飛び込むようなフロントダイブを多用していたが、VARのある昨今では「PKになるリスクが高くなった」と大きな身体と長い手足を利したブロッキングに切り替えている。日々の研鑽はその精度を高め続け、今では彼の思考をミリメートル単位の世界にしているというから驚きだ。

「あの瞬間、ああいった場面というのは試合の中では必ず訪れるもので、そこで何ができるかというのが、ゴールキーパーの腕の見せ所というか、やりがいを感じるところでもあります。ゴール前ではキーパーの指やつま先がほんの少し触れただけで得点になったり、ならなかったりする。ゴールキーパーのプレーはミリ単位であって、1ミリメートルの世界で我々は生きているんです。そういった意味ではあのセーブによってチームが救われたことは、キーパーとして非常に嬉しかった。ただ、今日の勝利は自分以外にも、ピッチに立った選手全員が本当にハードワークをして、チームの勝利のために全力を尽くしたからこそです。だからこの勝点3を得ることができたし、勝点3以上に、再び自分たちを信じることができるようになったという価値がある。今日の勝利で得た自信が、チームにとっては何よりも大事だと思います」

連敗を4で止めた名古屋はポルトガルからの復帰初戦で同点ゴールを決めた相馬勇紀や、待望の移籍後リーグ戦初ゴールを決めた山岸祐也らの活躍が大きかったが、ランゲラックの活躍なくして勝点3はありえなかった。ミリ単位のこだわりが呼んだ得点と同価値のプレーをランゲラックは喜び、安堵の表情も見せている。それはあるいは彼が今季のキャプテンであることと無関係ではないかと思ったが、“最後の砦”と呼ばれるポジションの選手にとって、それはある意味で日常であり、過分なストレスにはなっていなかったというから安心もした。常に失点と隣り合わせ、つまり敗因に一番近いところでプレーしているゴールキーパーたちにとって、プレッシャーとは特別なものではないのである。



「そうだね、確かにキャプテンとしての責任というものはあるのかもしれないけど、その前に自分は11人の選手の中の1人で、ゴールキーパーとしてプレーすることしかできない。キャプテンとしての責任と、キーパーとしての責任は十分に感じています。だからまずはゴールキーパーとしてできることを全部やる、ということが自分のやるべきことだと思っていました。キャプテンとしての大きなプレッシャーを余計に感じたかといえば、そうでもなかったですし、自分がするべきことをするだけでした。たとえば素晴らしいシュートがトップコーナー、ゴールの角に来ればもうそれは取れないですし、だからこそ自分ができることをしっかりやっていく、と考えながら常にやってきました。それは自分にしかコントロールできないことだからです。チームの中でどう振る舞うか、フィールドの中でどう振る舞うか。“キャプテンだから”というプレッシャーを感じることなく、自分のプレーを続けてきたからこそ、今日のようなパフォーマンスや結果になったと思っています。まだシーズンは多くの試合がありますし、これからさらに上に行くためにも、自分がやらなければいけないことは今後もこれを続けていくことです。それができれば、チームを助けていくことができると思います」

今季の開幕前、長谷川健太監督はランゲラックの主将就任について「キャプテンらしい選手を選ぼうということで」と語っていた。キャプテン像は十人十色で、これまでにもいろいろなタイプのキャプテンを見てきたが、ランゲラックほど存在感でその務めを果たす男もそういない。「ミッチなら止めてくれる」と仲間の誰もが信じられるクオリティを、常に期待通りに表現してくれる守護神。ミリメートルのこだわりが支えるそのパフォーマンスと、不動のメンタリティはこれからも、名古屋を最後尾から鼓舞し続ける。


Reported by 今井雄一朗