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【取材ノート:福岡】1トップ佐藤凌我が導き出した「地上戦」という名の新たな福岡の武器

2024年7月16日(火)


「間違いなく今日の敗因というか、責任は自分にあると思います。一番前(トップ)に入るからにはチャンス2本決め切らないと勝ってはいけない」

佐藤凌我は悔しさを滲ませながらそう言葉を発した。

明治安田J1リーグ第23節・広島戦の41分に1つ目のチャンスは訪れた。右サイドから紺野和也が持ち味の巧みなドリブルで狭いスペースを抜け出す。相手を一人、そしてまた一人と交わしゴールに向かった。「最後まで自分で行こうかなと思っていたんですけど、相手も多く(人数を掛けて)来ていたので、ちょっとマイナスが空いているのが見えて、(佐藤)凌我が見えていたというわけではないですけど、なんとなく味方があそこにいるなというふうに見えていたので、そこに上手く流し込めた」。佐藤へ送ったマイナスのラストパス。27番の狙い澄ましたシュートは、GK大迫敬介(広島)のビックセーブに阻まれた。

2つ目のチャンスは55分、紺野が絶妙なタイミングで上げたシンプルなクロス。佐藤は上手く頭で合わせたが、ゴール左へわずかに外れた。「前半はなかなかなかった(クロスの)形ですけど、紺ちゃん(紺野)からはいつも『ああいうボールを入れるよ』と言われていますし、ハーフタイムにも話している部分はあったので、(クロスへの)入り方とか本当にジャストのボールでしたけれど、あそこも(決め切れなかったのは)自分の力不足かなと思います」。その5分後に広島のストライカー、大橋祐紀に決勝点を決められただけに色濃く出た「決定力」の差。だからこそ、佐藤は敗戦の責任を一身に背負った。

でも、佐藤には下を向いてほしくない。ゴールを決めることがストライカーというポジションでプレーする選手の何よりにも代えがたい評価になることは間違いないが、決定機以外のシーンで彼はチームの為に遺憾なく力を発揮してくれたこともまた事実だからだ。この日起用されたポジションはこれまで多くプレーしたシャドーではなく、トップ。非保持の局面では、効果的なタイミングとポジショニングからプレスのスイッチを入れ、2度追い、3度追いも厭わずに相手のパスコースを制限。保持の局面では、時に相手の背後のスペースへと飛び出し、時にライン間に降りてスムーズなビルドアップをサポート。チームの「潤滑油」として攻守に献身的な働きを見せた。

長谷部茂利監督も「まず攻撃のところで惜しいシーンがありましたね。ああいう場面。また守備のところで、あのポジションの役割を果たすことでチームを牽引していた。攻守にわたって今日のようなプレーを、期待していたのは得点のところですけれども、そこにはちょっと足りなかったなと思いますが、十分に仕事をした」と高く評価する。

ここまでリーグ戦で多くトップのポジションで起用されていたのはウェリントン。フィジカルの強さと高さという彼の特長を活かすべく「空中戦」を多く用いていたが、この日、佐藤が示したトップとしての働きはこれからチームとして「地上戦」でも十分戦えることを証明するものになった。シャドーの紺野は佐藤がトップに入ることによっての効果を次のように話す。

「凌我が先頭に入ることでプレスのスイッチも掛かりますし、その分、凌我が(ボールを)取れなくても(パス)コースを限定してくれるので後ろの選手が取れるというのは(この試合で)何回もありましたし、攻撃の面でもやっぱり凌我が良さを出して動き回ってポゼッションのところの組み立てに加わってくれたので、本当に守備だけでなくて攻撃も良い面がたくさんあったと思います。地上の下のボールでもあれだけできるよというのは今日見せられたので、監督としても一つ戦術(の選択肢)が増えたのかなと思います」

チームに新たな武器をもたらした佐藤。サマーブレイク前、最後となる次節は古巣の東京ヴェルディ戦だ。「チームは公式戦3連敗ですし、中断(期間)前に勝ちで終わるか、負けで終わるかで大きく違うと思うので、自信を持って次(の試合)勝ちにいきたいと思います」。広島の地で味わったストライカーとしての悔しさをホームで思い切りぶつけてほしい。


Reported by 武丸善章