もっと“使い倒して”いい選手である。今季は前半戦だけで二度の負傷離脱があり、あまり酷使したくない気持ちも湧きつつ、しかしこの万能型FWはその実力の半分も引き出せていない印象がやはり強い。6月のルヴァンカップ柏戦で移籍後初得点を挙げたが、リーグでは10試合でいまだ無得点。決定機がないわけではなく、ゴールに肉薄した場面も多いが、アンラッキーも含めて歓喜の時は訪れていない。その意味でも、山岸祐也はもっともっと使って、活かして、使い倒していいと思う。
今季二度目の3連敗を喫したC大阪戦でも、惜しい場面はあった。しかも開始早々に。左の中山克広の仕掛けから永井謙佑、椎橋慧也とつながり、椎橋のクロスに飛び込んだ森島司の向こうで山岸がトラップ。DFを外してシュートを打った。ボールを収めてからシュートまでの所作は改めて見返すと「流れるような」という表現がぴったりの巧みなプレーで、GKキム ジンヒョンの好セーブに阻まれたが間違いなく“1点もの”のシュートだった。とにかく記憶力と言語化に長ける山岸はこの場面を悔しそうに振り返る。まるで敗戦の責任が自分にあるかのように。
「前半の最初、初っ端に自分がシュート1本打ちましたけど、あれを決めていれば1-0だった。タラレバですけど、ほんとに個人的には悔しいシーンでした。コースはあのニアが限界かなっていう感じだったんですけど。ただ、あのシーンは狙ってたんです。この前、健太さんとクロスの場面でチームとして、自分がどこに入っていくかというのを。あの場面はチームとしてそれを合わせてくれていたし、モリシが前に入って、自分が後ろに入ったシーンだったんですけど、一応あれも狙い通りというか。ああいうシーンを増やしていきたいなって思っていたのが試合の1発目で出て、いい感じではありました。その後も謙佑くんが抜け出す場面は何本かありましたし、その中で失点してしまったので、ちょっともったいなかったなと。前の試合も失点がなければ0-0だったし、良い時って0-0で長い時間進んでいるうちに自分たちの流れが来たり、セットプレーで1本取ったり、そういう風になると思うんです。このゲームが難しくなっちゃったのはこれが要因だと思うので、先制点は自分含め、常に狙っていかなきゃいけない」
リーグ戦ではついに勝利を挙げることができなかった6月は、チームの挙動が鈍い1ヵ月でもあった。得点できていないわけではないが、それが勝利に結びつかない。山岸の言うように得点できなくてもイーブンの状況を続けていくことで流れをつかめることがあるが、そこで守りきれない。C大阪戦もその文脈上にある試合で、不完全燃焼あるいは低トルクの試合展開は指揮官をして「自滅」という言葉を使わせた。続出する負傷者というエクスキューズはあるものの、それは周囲が言うべきことで、現場はそれでも“ベストメンバー”を組んでできうる限りの高パフォーマンスを目指すもの。山岸はこのところのチームの低調ぶりに対し、まさしくピッチの肌感覚を表現する。
「前の試合もそうだったんですけど、自分がボールを触る回数が圧倒的に少なすぎるというのは、個人的には反省しなきゃいけないところで。それは自分がどういう風に動くかというのももちろん、味方にこういう風にしてもらうというのもそう。ピッチの中でチームとしてもっともっとまとまって、切り替える時には全員で切り替えることだったり、DFラインがつなぐんだったら、ボランチ、シャドー、ワイド、全員が顔を出してポジショニング取って、取られてもすぐ切り替える。今はそこで少し、後ろはつなごうとしてるけど怖がりながらで、ボールを取られることがあると次はついバックパスして、だから結局前に蹴るけど、セカンドボールを拾おうとしないから、自分の周りには人がいなくて。空中戦で競り勝ったとしても相手ボールになってしまう。良い時にはそこで相手ボールになっても切り替えて、またそこから守備に行けるけど、その切り替えもちょっと強度が落ちていたりする。自分含め、もっともっとやっていかなきゃいけないなっていうのは思います。失点の時間帯も悪くて、失点の直後から流れがどんどん相手にいってしまったということもある。もったいない失点が最近増えてきているんで、今日の失点も防げたと思うし、自分が決めるべきところもそうで、もっともっとアグレッシブにやっていかなきゃいけない。チームとしてひとつになって、というところがある。そこはコミュニケーションとって、チームとして合わせていかなきゃいけない」
C大阪戦は強い風が影響する難しい環境でもあった。相手はそれを上手く使い、名古屋は敵にしてしまった側面もある試合だった。だが山岸はそれよりも、と言う。それよりも前の部分にある問題や課題を解消せずして、環境や何かの影響を口にはできないと言わんばかりの口調だった。
「風がというよりチーム状況ですね。良い時ってその風でラッキーなゴールが入ったり、セカンドボールが自分たちの方に来たりもあると思うんです。でも今は自分たちが勝てていなくて、ボールを受けるのも怖がって隠れちゃうというか、ポジションをいつもより取れなかったり、セカンドボールにも迫力がいつもよりなかったりしている。プレッシャーもあと半歩行けなかったり、それは自分含めですけど、そういうところで相手を乗せてしまったシーンは何回もあった。そこを跳ね返していけるようなパワーを使っていかなきゃいけないなとは思います。こういう勝てていない状況だからこそ、このチームを変えてやろうっていう強い気持ちを持って、気持ちだけじゃダメですけど、みんな勝ちたいっていう気持ちは持っているし、その中でどういう風にパワーを出していくかっていうところがすごく大事になってくる。ガムシャラにやるのももちろん大事ですし、自分が前から追ってチームを活性化させることも考えていかなきゃいけない。今の勝てないチームを変えていくために、ポジティブな影響力を与えていければなって。個人としても、チームがこういう風にしていったらいいって発信したり、示していかなきゃいけないと思っている」
山岸の言葉の端々には、とにかく“怖がらないことだ”というメッセージが見え隠れしていた。彼を目がけたロングボールは名古屋のストロングのひとつで、ただ競り勝つだけでなく、トラップやフリックなど次につながるプレーに変える能力がそこにはある。驚くのは山岸はそういった競り合いの際、「わざと負けて、味方の前に落として、そこで背後に自分が走ったりっていうのもする」ということ。山岸の空中戦には勝っても負けても、次が計算されているのである。だが、今は「そのセカンドボールが拾えない。良い時には絶対拾えている」という状況だ。つまり、山岸は味方を、チームをとことん使おうとしている。だったら、チームも山岸を使いまくればいい。背番号11は何度も「コミュニケーション」ということを口にした。ようやく終わった連戦の日々から1週間のインターバルが空き、向かうはホームで負けている首位・町田の居城である。天空の城とも呼ばれる敵地のピッチで、“制空権”を握るのは山岸だ。苦境脱出の糸口は、このハイクオリティのストライカーを活かし切れるかどうかにもかかっている。