オールドルーキーと言ったら怒られるだろうか。現在29歳、10月に30歳を迎えるハ チャンレが6月のワールドカップ二次予選で初めて韓国代表に選ばれ、9日間の代表活動に帯同し、クラブへと戻ってきた。11日に韓国での中国戦があり、その日のうちに帰国し翌日の天皇杯ではメンバー入りするという強行軍ではあったが、自ら志願してのことだけに気合のほどがうかがえた。初のA代表活動はシンガポール戦、中国戦ともに試合出場なしという結果に終わったが、名古屋のDFリーダーはその経験も真摯に受け止め、自分の糧とする気概に満ちている。
「今回、韓国代表に行って選手たちと一緒にプレーしてみて、自分にも十分な競争力があり、もっといける、やれるという風に思いました。昔からの夢だった一方で、正直に言えば年齢を重ねていく中ではちょっと自分の頭の中からは消えていた、忘れてしまっていたような、韓国代表というのはそういう夢でもあったんです。ただ、これでもう一回、自分の目標として、ひとつのゴールとして韓国代表にまた入るんだと決めることができました。これからクラブチームで、帰ってきてからこのグランパスで良いパフォーマンスを出していけば、次も、その次も呼ばれる可能性があると思えたので、まずは名古屋でしっかり練習することから始めたいと思います」
韓国代表の中でも“競争力”があると感じられたのは良いことだった反面、差や違いを感じたこともまた確かだったとチャンレは言う。Kリーグでも屈指のセンターバックとして評価され、初の海外でのプレーとなった日本でのキャリアも着実に積み上げてきている。名古屋ではまだまだ成長の余地ありと多くの要求を長谷川健太監督から受け、それに応えてきたからこその今回の代表選出である。上下関係に厳しいとされがちな韓国の文化の中で、チャンレはそうしたものをあまり好まず、年下の選手とも友達のように接している姿をよく見かける。「そういうのは好きではないので」と優しく微笑む一方で、試合では身体を張ったブロックなどで闘将の佇まいを見せるギャップも彼の魅力のひとつ。その彼がA代表で感じたことは、今後の名古屋でのパフォーマンス向上にもつながっていきそうで期待もふくらむ。
「まずサッカーのテンポは向こうの方が全然速かったですし、自分が足りないところにしてもパスや守備のところにも改善していかなきゃいけない部分があると感じました。名古屋とはチームの雰囲気も全然違いましたし、クラブのリーグ戦と韓国代表の試合はスタジアムでの雰囲気もまったく違いましたね。そういった部分で感じた自分の足りないところは、ここからも修正していきたいと思います。今回は代表には行きましたけど、向こうでA代表の試合には出られなかったので、そこでの悔しさというのも当然感じています。ただ代表チームで練習をやる中で、得たこともたくさんあります。だからこそ、もっと所属チームで良いパフォーマンス、結果を見せないといけないと思いましたし、国際試合で活躍するにはそれがないと厳しいということを感じたので、チームでの練習や試合をもっと頑張りたいと思います」
謙虚な彼らしい新たな目標設定である。苦境の際には自分が夢であったプロサッカー選手になれたこと、そこにつぎ込んできた努力やその舞台にいるありがたみを噛みしめ、次への気力を生み出していくという。せっかくこの場に居られているのだから、という感謝の気持ちがチャンレのパワーの源であり、それは試合に出られなくとも手に取り、袖を通した韓国代表ユニフォームの感触からも得られているという。
「試合には出られなかったのですが、あのユニフォームを着られたということだけでもすごく、感じるものはありました。自分の小さい頃からの夢であった韓国代表のユニフォームだったので、それだけですごく誇りを感じましたね。だからこうして所属クラブに帰ってきて、もう一回自分のパフォーマンスを上げて、トライしたい。今はまず、今まで自分がこのピッチでプレーできているということにすごく感謝したいですね。そこに改めて幸せを感じているので、もう一度そういう気持ちを込めて。名古屋ではたくさんのサポーターたちが応援に来てくれますから、良いパフォーマンスを出して、もちろん結果を出さないと一緒に喜べないから、ちゃんと結果も出す。そして試合が終わって、一緒に喜べるように最善を尽くします」
今季は浦和戦で出場停止の際、パブリックビューイングイベントに出演したことがあった。会場までの移動中、300名近いサポーターが集っていると聞き、「暑い中でしかも休日にも関わらず来てくれている。全員にドリンクをごちそうしたい」と自腹で来場者全員に振る舞ったエピソードがある。何事も感謝を欠かさぬ熱い漢なのだ。29歳での韓国代表初選出は夢の再燃というだけでなく、そう思える状況への感謝が彼のプレーに厚みを加える。ハ チャンレのプレーは今でも十分に迫力に満ちているが、今後はさらなる熱を帯びていきそうだ。
Reported by 今井雄一朗