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【取材ノート:藤枝】静岡ダービー初出場へ。不屈の雑草魂・杉田真彦を後押しするもの

2024年6月6日(木)
「自分を見せつけるチャンスだと思っているので、楽しみでしょうがないです」

そう語るのは、今節出場すれば清水戦は初めてとなる藤枝MYFCのキャプテン 杉田真彦。静岡市内で生まれ育った彼は、当時清水エスパルスがもっとも身近なプロチームであり、アイスタ(IAIスタジアム日本平)での試合には特別な想いがある。

「小さい頃に初めてプロの試合を見に行ったのがアイスタだったんですよ。あの頃はエダさん(枝村匠馬コーチ)もいて、藤本淳吾さんが投げたサインボールを運良くキャッチできたんですよ! そういうすごい選手たちがたくさんの観客の前で試合をしている光景を見て、こういう舞台でやりたいという憧れを強く持ったんですよね。今はそのスタジアムで自分がやれるチャンスがあって、公式戦でエスパルスと本気で勝負できるというのは本当に嬉しいことです」

直前で負傷離脱した昨季の悔しさを乗り越えて

ここまで杉田は、けっしてエリート街道を歩んできたわけではない。県内では中堅どころの静岡西高から順天堂大に進み、卒業時にはプロではなくJFLのソニー仙台FCに加入(2018年)。そこで結果を出して、2020年に当時J3の藤枝に移籍したが、1年目はなかなか出番を増やすことはできなかった。だが2年目はボランチやトップ下として全試合に出場し、7月に須藤大輔監督が就任してからは、超攻撃的な戦術の中で持ち味をさらに発揮。圧倒的な機動力や運動量でハイプレスでも攻撃時でもスイッチ役となり、翌2022年にはキャプテンを任されて、クラブ初のJ2昇格を牽引した。

そうして自分自身も大きくステップアップしてきたからこそ、ようやくアイスタに立てる立場になった昨年は「いちばん出たい試合」と言い続けていた。だが、清水戦の1試合前(5/7山形戦)で右膝前十字靭帯・内側側副靭帯断裂(全治6~8ヶ月)という重傷を負い、夢を叶えることはできなかった。言葉には出さないが、我が身をかきむしられるような無念さがあったはずだ。

今節はプレシーズンから練習に合流し、万全のコンディションとは言えなかったが開幕戦に途中出場して9カ月半ぶりに実戦復帰。3節からは先発出場が続いていたが、9節・仙台戦(4/7)で左足首を傷めて離脱。そこをかばうことで膝にもまた痛みが出て、想定以上に時間がかかってしまった。
 
だが、前節・甲府戦の62分から9試合ぶりに復帰して、決勝点につながるPKを獲得。翌日の練習試合(vs静岡産業大)にも出場し、得意のミドルシュートを含む2ゴールを決めた。


「前十字(靱帯損傷)から復帰したときは、まだ動きがもう一つというところがあったんですが、今は一昨年とか去年ケガする前の動きがやっと戻ってきたかなという感覚があります。動き続けてもハアハアせずに何回もプレスをかけられたり、上下動できたりしていて、球際も思い切り行けるようになりました」と杉田本人も手応えを口にする。
 
今年はなんとか清水戦に間に合わせることができた。

「めっちゃ楽しそうにサッカーしてる人がいる」

今週の練習でも、人一倍目の色を変えて一つ一つの細かいプレーや動きまで手を抜くことなく全力を注いでいる。もちろん出場すれば誰よりもエネルギッシュに動き続けて、チームを引っぱっていくはずだ。
 
むしろ入れ込みすぎて空回りしてしまうことが心配なぐらいだが、そこは本人も承知していて、「試合を楽しみたいです。わざとニコニコしながらやりたい(笑)」と言う。甲府戦後には、そう考えるきっかけとなったサポーターとのエピソードを明かしてくれた。

「最近の公開練習でサポーターの人と話したときに、その人が初めてMYFCの試合を観に行ったときに『めっちゃ楽しそうにサッカーしてる人がいるなあ』と思って、僕のことを好きになったと言ってくれたんですよ。たしかにその頃はすごくノリノリで、めっちゃサッカーを楽しんでいたなと。おかげで、そういうのも大事だなと思って、またスイッチを入れ直すことができました。今日の試合も久しぶりに出られて、めっちゃ楽しかったです」(杉田)

誰よりも強度の高い動きを繰り返しているが、サッカーを楽しむ気持ちも忘れない。簡単には倒れない、つぶされない足腰の強さがあり、献身性も抜群だが、止める・蹴るをはじめとする基本技術も確かなものを備えている。だから、不用意にボールを失うことも少ない。
 
人一倍責任感の強いキャプテンだが、いじられ役も進んで買って出る明るいキャラクターも魅力。挫折や苦難を重ねながら這い上がってきたからこそ、折れない心、あきらめない気持ち、尽きない向上心が備わり、サッカーに対する情熱では負けない自信がある。

清水の北川航也や西澤健太は1歳下だが、小学校の頃にトレセン等でよく一緒にプレーしていたという。エリート街道を進んでJ1からデビューした彼らとは、ここまでの道のりは大きく異なるが、ようやく同じ舞台で競い合えるようになった。小中が同じ学校だった西澤は負傷中だが、出場すれば北川とマッチアップする場面も出てくるだろう。それも杉田にとって気持ちが上がる要素のひとつだ。

これほど強い想いを抱えた男が、首位の清水に挑戦する戦いに出場したら、熱いプレーを見せないはずはない。多少力が入りすぎる場面もあるかもしれないが、観る者の心を揺さぶる闘志や気迫を見せつけることは間違いない。そして最後に彼が歓喜の涙を流すような結果に終われば、藤枝サポーターにとっても後々まで語り継がれる試合となるだろう。

Reported by 前島芳雄