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【取材ノート:藤枝】苦境を脱しつつある藤枝を支える2年目の三銃士。北村海チディ、山原康太郎、平尾拳士朗の成長がもたらす好循環

2024年5月24日(金)
リーグ序盤戦では深刻な得点力不足に陥り、第11節終了時点で19位に落ちた藤枝。だが、12節・水戸戦からJ2では初の4連勝を成し遂げてV字回復。前節・山口戦には敗れたが、13位まで持ち直し、トップハーフも射程圏内に入っている。

その4連勝の立役者として、水戸戦でケガから復帰していきなり2得点したアンデルソンや、次の群馬戦で2得点した矢村健など日替わりヒーローが登場したのは大きい。ただ、その他にも復調に大きな役割を果たしたグループが存在する。

北村海チディ、山原康太郎、平尾拳士朗という加入2年目、2000年生まれの3人だ。



ウィークポイントを補うことでストロングポイントが輝きを増して


開幕当初は、3人ともなかなか出場機会を得ることができなかった。とくに山原と平尾はベンチに入ることもできていなかった。そこからGKの北村が9節からポジションを奪い、ボランチの平尾は12節で今季初出場(初先発)してからいきなり4連勝とラッキーボーイに。山原も、3バックの中央として先発し始めた13節・群馬戦から3試合でわずか1失点と守備を引き締めた。
 
チームとして苦境を乗り越えるために戦い方を少しマイナーチェンジした中で、3人ともそれを忠実に具現化して4連勝に大きな役割を果たした。リーグ序盤は苦しい立場にあった彼らが、なぜこれほど躍進できたのか。須藤大輔監督は、その過程について次のように語る。

「(今季序盤は)パフォーマンスが足りない面は正直ありました。良いときもあったけど継続しなかった。たとえば(平尾)拳士朗だったら、怖さがないとか、潰されちゃうとか。それが今はもう全くない。自分のウィークポイントをしっかり補ってきて、ストロングポイントで勝負できている。それは3人とも同じ。ウィークを埋めたことで、ストロングがすごく輝き始めていると思います。悔しい気持ちがあった中でも腐ることなく、自分にベクトル向けて足りないものを補ってきて、チャンスが巡ってきたときに良いパフォーマンスを出した。耐えて耐えて“人間力”で勝ち取ったものかなと思います」

北村は、課題だったビルドアップの面が改善され、身体能力の高さを生かしたシュートストップはもちろん、GKから一発で相手DFラインを裏返せるキック力が、相手のプレスを無効化して攻撃につなげる意味で大きな役割を果たしている。
 
平尾は、インテンシティが強化されたことで持ち前のテクニックがより生きるようになり、ボールが出てこなくても相手を引っぱってスペースを作る献身的な動きの量と質でも貢献。ボランチとして守備での予測力も試合ごとに向上している。
 
山原は、隙を見せない守備の安定感やビルドアップの面が向上し、元来の持ち味である空中戦や対人の強さを存分に発揮。自信を増したことで守備の統率でも進化を見せ、前節・山口戦ではCKから高い打点のヘディングで今季初ゴールを決めた。


試合に出られなかった時期について、北村はこう振り返る。
「自分は今年に入ってずっと調子が良かったんですけど、それでも出られないのには理由が絶対あるので、それが何なのか考えて、もっと良い選択肢を持てるんじゃないかと、練習の映像を何回も見返したりしていました。そういう中で自分の引き出しが増えていくので、今はサッカーがめっちゃ楽しいです」
 
須藤監督が言うように自分自身にベクトルを向け、自分が成長する過程を楽しんできた。他の2人も同様だったことだろう。

試合に出続けている中で、伸ばせている面も自分で整理できている。
「個のバトルでは去年以上に強くなれていると思いますし、強さが持ち味のFWにも勝てる自信がついています。僕はビルドアップが長所という選手ではないですけど、全然通用しないとは思わないですし、少しずつ自信もついて、かなり手応えを感じています。あとは90分間アラートに守り続けるという部分をもっと徹底していきたいです」(山原)

「去年はボールを奪った後は安全にというのが第一だったんすけど、今年は自分で持ち運ぶシーンを増やせていると思います。ボールを失わないというところは自分の特徴だと思うので、そこはやり続けながら、今後はより得点に繋がるパスやシュートを成功させられるようにしていきたいです」(平尾)


1年目から“根”をはってきた成果が


2年目の選手としてはもう1人、MF小関陽星がいる。彼は今季まだ1試合、12分間の出場に留まり、他の3人以上の悔しさを味わっているが、前向きに取り組み続ける姿勢は変わらない。練習後もいちばん最後まで残って自主練に励む姿をよく見かける。
「陽星は、アスリート能力の面で不利なところがあるので、その差を完全に埋めるのは難しいかもしれない。だったら、それを覆すぐらい、左足の精度とかテクニックといった自分の武器を磨かないといけない。そこに向けてひたむきにやれていますが、考える力というのも、もっと必要だと彼には言っています」(須藤監督)
 
今後小関が出番を増やしてきたら、その壁をクリアしてきた選手として注目したい。

サッカー選手に限らず、スポーツ選手の世界では、地道に積み上げてきたさまざまな要素がある一定のレベルを超えると、急に結果が出始めるという現象がよく起こる。
「(2年目組の3人は)まさにそれじゃないですかね。1年目からしっかりと根を張ってきたということですよね」(須藤監督)
 
彼らの成長がチーム内の競争をよりハイレベルにして、「次はオレが」と悔しさを内に秘める選手たちの“根”をより強固にしていく。と同時に、チームに“運気”ももたらしている。成長していくチームに見られる好循環が、今の藤枝にはっきりと見てとることができる。

Reported by 前島芳雄