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【取材ノート:藤枝】大きな苦境からの3連勝。須藤MYFCが見据える理想への階段

2024年5月10日(金)
今季は開幕から11試合でわずか4得点と藤枝らしい攻撃力が影を潜め、2勝2分7敗の19位と非常に苦しんでいた。11節で最下位(当時)の徳島に0-1で敗れた後、須藤大輔監督は「何かを変えなければいけない」と語った。そこから水戸戦と群馬戦は2試合連続で逆転勝ちして、直近の栃木戦は今季2度目の完封勝ちで3連勝。順位も一気に14位まで上がった。
この3試合で、いったい何が変わったのだろうか。

一言でいえば「やりたいプレーよりも、やるべきプレーをする」という意識の部分だと須藤監督は言う。

チームとして掲げている「超攻撃的エンターテイメントサッカー」は、圧倒的にボールを支配し、ほぼ相手陣内で戦い、相手を疲弊させながら得点を重ねていくというゲーム運びが理想となる。ただ現段階では、その理想通りにいかない試合がまだまだ多い。言い方を変えれば「やりたいプレー」ばかりやっていても、結果が出ないことのほうが多い。

それが今季11節までの状況だった。相手に守りを固められてスペースがなくても、技術や精度でこじ開けてゴールを奪っていくのが理想だが、そこにこだわってもゴールは奪えず、11試合中8試合で無得点。逆に、狭いところに無理に突っ込んでボールを失い、カウンターからピンチになるというシーンのほうが目立った。

「相手のディフェンス力も年々上がっていて相当コンパクトだし、フィジカル的にも強い選手がいる。そこに割って入っていくのは……もちろんそれでも崩したいですけど、かなり難しい。そうじゃなくてギャップやスペースが生じたときに、そこを見逃さずに突いていくことが大事だし、そのギャップやスペースを自分たちで作り出すことが大事」と須藤監督は水戸戦の前に語った。

具体的には、ボールが出てこなかったとしても裏へのランニングを繰り返して相手DFラインを押し下げる。自分のポジションを逸脱して大胆に動くことで、相手を引っぱりギャップを作っていく。そうした犠牲心を持った動きを選手たちに求めていった。それも「やるべきプレー」の一環であり、以前からやり続けてきたことでもある。その意味では、自分たちの技術やクオリティにこだわって、犠牲心の面が疎かになっていたという反省もあった。

そのうえで「ボールが来なくても自分が走って味方にスペースを作るというところは、つねに意識してやっています」という献身的な動きを続けて練習試合でも結果を出した平尾拳士朗を、水戸戦で今季初出場させた。他の選手たちもその意を汲んで、水戸の守備に揺さぶりをかける動きを続け、前半にミスから先制されたが、味方のために走り続ける姿勢は揺るがなかった。

そして後半は、ケガから復帰したばかりのアンデルソンが神がかり的な決定力を発揮して2度の勝ち越しゴールを決め、今季初の逆転勝ち。6試合ぶりの勝利をつかむうえでは、新たなヒーローの登場も欠かせなかった。


次の群馬戦は、最下位に沈む群馬が割りきって守備を固めてきたため、ボールを支配しながら攻めきれない展開が続いた。だが、水戸戦と同様に全員で動いて相手を揺さぶり続けたことで「ジャブが効いてきたという感じで後半は相手(の動き)がガクッと落ちて、ヤムくん(矢村健)ところも空いてきてました」(大曽根広汰)という実感は得ていた。

それが結果にも実を結ぶ。52分にロングスローから先制された後、それまで12試合無得点と非常に苦しんでいたエース、矢村健が、58分ついに待望の今季初ゴールを叩き出した。これでチーム全体が勢いづき、残り時間が数秒となった90+8分、アンデルソンとの「ツインシュート」として話題になった矢村の大逆転ゴールが生まれた。


続く栃木戦は、相手が前戦にツインタワーを並べてロングボールを増やし、自分たちのペースをつかめない時間が多かったが、守備の面で「やりたいプレーよりやるべきプレー」ができていた。
すなわち、自分たちの持ち味であるハイプレスに行きたい気持ちを抑えながら、ミドルゾーンでコンパクトなブロックを作り、DF陣が空中戦でよく踏ん張って跳ね返し、MF陣もセカンドボールをよく回収して、辛抱強い戦いを続けた。そして76分に西矢健人が自身の移籍後初ゴールとなる直接FKを決め、その1点を危なげなく守り切った。


3試合とも日替わりヒーローが登場したことも非常に大きかったが、やはりチーム全体で理想と現実に折り合いをつけながら戦えるようになったことは大きい。

「圧倒的に…とか、僕の言い方が悪かった面もあると思います。もちろん今後も理想を求めますけど、それが先行しすぎてもいけない。圧倒したいから、耐える時間もあるよとか、うまくいかない時間もあるから、そこではリスクを減らさないといけないよというマインドを選手もわかってくれてきたことが、我慢強く、勝負強くやれている一つの要因かなと思います」(須藤監督)

もちろん「圧倒的」と言える理想を目指し続けていくという須藤監督の信念が変わることはない。ただ、発展途上のチームが、理想に近づいていく過程でどういう段階を踏んでいくのかという選択には、さまざまな考え方がある。今季の序盤戦では、その面で少し曖昧なところが出て、苦しい時期を経験した。

だが、だからこそ大きな学びがあり、地に足の着いた方向性も定まった。もちろん、それだけで急にチームが強くなるわけではないが、理想に至る階段は、今までよりもクリアに見えているはずだ。

Reported by 前島芳雄