ポジションは3CBの中央。守備の要である奈良竜樹は仲間のミスをカバーできなかったことを悔やんだ。それは、明治安田J1リーグ第12節・川崎フロンターレ戦の75分、井上聖也のパスミスを拾い、力強いドリブルでゴールに向かってくる山田新に対した場面。
「僕自身もやっぱりあのシーンはもっと良い対応ができたのかなと。映像を見て振り返らないといけないですけど、あのミスが決定的だったとは思わないし、あとまだ(守る)チャンスがあったというか、守れたと思う」
終盤に失った大事な先制点。だが、焦ることはなかった。ベスト電器スタジアムに集うホームのサポーターの大声援を受け、心は熱く、頭は冷静にチーム全員がプレーし続けて奪った85分の紺野和也の同点ゴール。その背景について奈良はこう分析する。
「やっぱり(川崎Fは)ボールを持つのが上手だし、自分たちも早く攻撃したいから焦れてプレスが散漫になったり、(相手に)2点目行かれるのかなというところを上手くコンパクトにしながら落ち着いてボールを持てたというところ。前、前だけじゃなくてしっかりと幅を使いながら自分たちのシステムのメリットの部分だったり、相手(のシステム)との嚙み合わせの部分。そこを上手く突けたと思う」
これでリーグ戦7試合負けなし。ここまで昨シーズン、リーグ戦でホーム・アウェイともに敗れた相手(横浜FM、広島、川崎F)全てに勝点を獲得する一方で引き分けの数はリーグ最多タイの7。今の福岡には、負けない強さと勝ち切れないもどかしさの両方が存在するが、キャプテンの奈良はそんな状況を前向きに捉えている。
試合を追うたびに勝点とともに積み上がるチームとしての新たな力。川崎F戦で奈良がピッチ上で強く感じたものがある。前節から中2日。先発8人を入れ替え、チームとしての総合力が問われる試合で、ダブルボランチには共に22歳の松岡大起と重見柾斗、2シャドーには共に23歳の北島祐二と鶴野怜樹がスタメンに名を連ね、若手にチャンスが巡ってきた。
「若い選手がこのチャンスを逃すまいと。今まで試合にあまり絡んでいなかった選手もいた中で、そういう選手の気概みたいなのも感じた。去年よりもチャンスを掴みたい、個人としてももっともっと上に行きたい。そんなようなハングリー精神みたいなものがこのチームにとって去年とは違うところ。去年はもうちょっと成熟してチームとして大人というか、もうちょっと良い意味でも悪い意味でも落ち着いていたところがあったかもしれないですけど、相手に食らいついていくところとか最後まで走るというところ。そこがうちの生命線というかベースなので、技術的な部分もそうだけど、そういうバトルの部分で走る、戻る、出ていく。そういうところのハードワークの部分は今日後ろでゲームをやっていてエネルギーは感じたし、だからこそ、勝利につなげたかったなという思いはありました。今まで勝てなかった相手に引き分けられた。そこで終わりたくないし、勝ち切れるようになるとやっぱり自分たちももう一つ上のステージにいけるのかなと思います」
そんな想いが試合終了後すぐに周りの選手一人ひとりに声を掛ける行動につながったと言う。
「若い選手が多いチームだからこそ、良くも悪くも波がありがちだと思うので、そこは常に上昇、上昇で行けるように、メンタル的な部分も含めて切り替えていくというところ。そういう意味合いを込めて行動しました。そういうのがみんなに伝わればなと思います」
熱いプレーと想いの伝わる言葉で多くの人の心を揺さぶり、チームの力を引き上げようと一切の妥協なく、強い意志を持って行動する姿はまさに福岡の「道標」。成長過程にあるチームにとって背番号3の存在は頼もしい限りだ。
Reported by 武丸善章