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【取材ノート:神戸】「逆サイドを捨てている」から垣間見られた吉田監督の勝負師の顔

2024年4月25日(木)
戦術ボードとにらめっこする吉田孝行監督。

「戦術のことはあまり言えない」。吉田孝行監督が癖のように話すフレーズの一つだ。ヴィッセル神戸担当の記者たちがあの手この手で聞き出そうとしても、監督はなかなか口を割らない。ゆえ、選手たちのコメントなどを参考に“なんとなく”でしか戦術を理解できない。どのクラブも似たり寄ったりかもしれないし、そもそも戦術とはそういう曖昧さを残したものかもしれない。それを前提に、今回は吉田采配のキモとも言えるハイプレスについて少し考えてみたい。

きっかけは4月23日の公開練習後に行われた監督の囲み取材。日刊スポーツの記者さんと吉田監督とのやりとりの中で、気になるコメントがあった。質問は大卒ルーキー山内翔の評価について。吉田監督は「思ったよりやれているし、日々成長も見られる」と前置きした上で、こう続けた。

「(本来はボランチだが、左ウイングで起用した山内について)慣れないポジションだと思いますけど、どのポジションで出ていたとしても寄せのところは自分の中で足りていない。(前節の湘南ベルマーレ戦では)ベンチ前でも言われていましたし、さっき本人にも言いました。それ以外は自分のキャラを出してくれていると思います」

吉田監督の言う「寄せ」とは、相手ボールホルダーに対して詰め寄る速さや強度などを指している。前線からプレッシングを仕掛けるチームにとって「寄せ」は重要な要素である。確かに前節の湘南戦では山内の寄せが甘い場面も見られた。とはいえ、90分間の試合を通してそういう場面が見られることはあるだろう。だが、吉田監督の次の言葉にハッとさせられた。

「寄せの強度で我々は逆サイドを捨てているわけだから。そこの強度が無いときつい。寄せの強度はカケル(山内)だけじゃなくて選手全員に求めていること」

センターバックの山川哲史ら最終ラインの選手たちは「前線の選手がパスコースを限定してくれるから守りやすい」といった表現をする。これはワンサイドに追い込み、できるだけ前でボールを奪ったり、縦に長いボールを蹴らせてボールを回収したりする守り方の一つで、昔からあるオーソドックスなものだ。ヴィッセル神戸もそれを高い次元で遂行しているものだと認識していたが、実際はそんな曖昧なものではないのだろう。なぜならリスクを背負って「逆サイドを捨てている」わけだから。

吉田監督は昨季から自分の中にある明確な「基準」を満たさなければリーグ戦では使わないという方針をとっている。ただ、その基準の中身についてはあまり明かされてこなかったが、少なくとも「寄せ」に関しては逆サイドを捨てられるくらいの速さや強度が求められ、それを90分間持続しなければいけないことは“なんとなく”理解できた。改めてピッチに立てる選手のすごさを感じたと同時に、吉田監督の勝負師の顔も垣間見られた。

Reported by 白井邦彦