今季の藤枝には、最年長ながら大当たりの新加入選手がいる。東京ヴェルディから移籍したMF梶川諒太だ。
藤枝は技術だけでなくインテンシティや走力も求められるサッカーを追求して若返りを進めてきただけに、34歳の選手を新たに獲得することは異例だった。しかも梶川は、昨年4月に右膝前十字靭帯を損傷して長期離脱していた選手。年齢とケガを懸念する声はチーム内にもあったが、須藤大輔監督と2016年に長崎で一緒にプレーした養父雄仁コーチに迷いはなかった。
「相当走れるというのは養父からも聞いてたし、年齢は全然気にしなかったですね。量に加えてテクニックも非常にあって、うちのサッカーにすごく合っている。サッカーIQも本当に高いし、人間性も素晴らしい。ヴェルディとの契約が満了になったと聞いて、すぐに(獲得に)動き出しました」(須藤監督)
「パスを出して動く、出して動くというところはレベルが違うなと思いますし、試合中はそのサポートに本当に助けられてますね。安心してボールを預けられるのも大きいです」と久富良輔は言う。だからこそ欠かせない選手として6節まで全試合に先発している。
そして4節の岡山戦からは、杉田真彦の復帰もあって1列前のシャドーにポジションを上げ、さらに本領を発揮してきた。守備では先頭に立って前からのプレスを牽引し、攻撃では絶妙な立ち位置をとり続けて藤枝らしいパス回しを演出しつつ、精度の高いラストパスも供給する。岡山には0-1で敗れたものの、サッカーのクオリティやチャンスの数では明らかに首位のチームを上回っていた。
そこで自信を得た藤枝は、連戦となった山形戦で待望の今季初得点&初勝利を挙げ、熊本戦ではホーム初勝利と連勝をつかんだ。GKの内山圭も「カジくん(梶川)が前に上がったことはすごく大きくて、前で動いて制限をかけてくれるので、後ろはすごく狙いを絞りやすくなっています」と証言する。
J1では毎節各選手の走行距離が公式に測定されているが、13kmを超える選手は希だ。計測方法の違いによる多少の差はあるかもしれないが、よく走る藤枝の選手の中でも毎節のようにトップを記録しており、梶川の走行距離が尋常でないことは間違いない。
15kmに達したのは本人にとっても初めてで、それは藤枝のスタイルとの相性の良さにも起因することを本人も認める。
「ボールを持つのはそんな簡単じゃないし、とにかく顔を出し続けないとボールは回らないので、自分はそこの潤滑油というか、ここにいてほしいとか、戻ってほしいというところに動き続けるのが持ち味だと思っています。そういう意味では、このチームのやり方が、すごく自分にフィットしやすいのかなと感じています」(梶川)
須藤監督も「オフ・ザ・ボールのところでも止まることなく先手先手を読んで動いているから距離が出るんだと思います。彼自身も走らされてる感覚はなくて、楽しみながらやっているからこそでしょうね。あれだけ走ってもプレーの精度が落ちないというのもすごいですよ」と解説する。
「僕はプロ1年目がヴェルディで、周りが本当に怖かったんですよ。1つのコントロールとかパスで甘いプレーがあれば、すごく怒られる。でも、それでも食らいついていったことで僕は強くなれたと思いますし、1つ1つのプレーに対する厳しさも培えたと思います。藤枝は若い選手も多いですし、ここしか経験していない選手も多いので、ここでの強度が自分の基準になりますよね。僕はそれをもう1つ2つ上げなきゃいけないと感じるシーンがたくさんあるので、言うべきところではしっかり言っていこうと思っています」(梶川)
その一方で、リラックスした場面では年下の選手から「ジジイ!」などとイジられながら率先して場をなごませている。
「サッカー選手としても、人としても、本当に見習うべきところがたくさんある人ですし、日々それを感じさせてもらっています」(久富)と33歳の選手でも言うだけに、同様に感じている選手は多いはずだ。プレーの面でも、プロとしての考え方、生き方という面でも、梶川がチームに与えている影響には大きな価値がある。
だからこそ須藤監督は、J1昇格への想いをより強くしている。
「彼はヴェルディでは一緒にJ1へ行けなかった。でも、J1のピッチに立つのにふさわしい人間だと思うので、うちの選手としてJ1に連れていってあげたいです」
選手としてもう一花咲かせたい梶川本人にとっても、成長過程のクラブにとっても、本当に幸せな移籍となったことは間違いない。その幸せを、J1昇格という形でより大きく実らせるために、今後も彼は惜しみなく動き続け、味方を助け続けるはずだ。
Reported by 前島芳雄
藤枝は技術だけでなくインテンシティや走力も求められるサッカーを追求して若返りを進めてきただけに、34歳の選手を新たに獲得することは異例だった。しかも梶川は、昨年4月に右膝前十字靭帯を損傷して長期離脱していた選手。年齢とケガを懸念する声はチーム内にもあったが、須藤大輔監督と2016年に長崎で一緒にプレーした養父雄仁コーチに迷いはなかった。
「相当走れるというのは養父からも聞いてたし、年齢は全然気にしなかったですね。量に加えてテクニックも非常にあって、うちのサッカーにすごく合っている。サッカーIQも本当に高いし、人間性も素晴らしい。ヴェルディとの契約が満了になったと聞いて、すぐに(獲得に)動き出しました」(須藤監督)
かゆいところに手が届く働き
その期待通り梶川は藤枝の尖った戦術をすぐに理解し、本人が「かゆいところに手が届くというか、みんなが苦しんでるところに常に顔を出し続ける」と言う特徴を存分に発揮して、チームを円滑に動かし始めた。そして開幕戦からボランチとして先発出場をつかみ、昨年からチームにいた選手かと錯覚させるようなプレーを披露。味方から苦しまぎれのパスを出されて相手に囲まれても、何とか失うことなく次につなぐプレーも「それが僕の役割なので」とさらりとこなし、周囲を助けている。「パスを出して動く、出して動くというところはレベルが違うなと思いますし、試合中はそのサポートに本当に助けられてますね。安心してボールを預けられるのも大きいです」と久富良輔は言う。だからこそ欠かせない選手として6節まで全試合に先発している。
そして4節の岡山戦からは、杉田真彦の復帰もあって1列前のシャドーにポジションを上げ、さらに本領を発揮してきた。守備では先頭に立って前からのプレスを牽引し、攻撃では絶妙な立ち位置をとり続けて藤枝らしいパス回しを演出しつつ、精度の高いラストパスも供給する。岡山には0-1で敗れたものの、サッカーのクオリティやチャンスの数では明らかに首位のチームを上回っていた。
そこで自信を得た藤枝は、連戦となった山形戦で待望の今季初得点&初勝利を挙げ、熊本戦ではホーム初勝利と連勝をつかんだ。GKの内山圭も「カジくん(梶川)が前に上がったことはすごく大きくて、前で動いて制限をかけてくれるので、後ろはすごく狙いを絞りやすくなっています」と証言する。
3連戦で驚くべき走行距離を
それに加えて驚異的なのが、彼の運動量だ。チームが独自に計測している走行距離では、岡山戦で14.1km走り、中3日で迎えた山形戦では、なんと15kmを記録。そこから中3日の熊本戦ではさすがに疲労の色も見え隠れしたが、それでも87分に交代するまで約13kmを走ったという。J1では毎節各選手の走行距離が公式に測定されているが、13kmを超える選手は希だ。計測方法の違いによる多少の差はあるかもしれないが、よく走る藤枝の選手の中でも毎節のようにトップを記録しており、梶川の走行距離が尋常でないことは間違いない。
15kmに達したのは本人にとっても初めてで、それは藤枝のスタイルとの相性の良さにも起因することを本人も認める。
「ボールを持つのはそんな簡単じゃないし、とにかく顔を出し続けないとボールは回らないので、自分はそこの潤滑油というか、ここにいてほしいとか、戻ってほしいというところに動き続けるのが持ち味だと思っています。そういう意味では、このチームのやり方が、すごく自分にフィットしやすいのかなと感じています」(梶川)
須藤監督も「オフ・ザ・ボールのところでも止まることなく先手先手を読んで動いているから距離が出るんだと思います。彼自身も走らされてる感覚はなくて、楽しみながらやっているからこそでしょうね。あれだけ走ってもプレーの精度が落ちないというのもすごいですよ」と解説する。
イジられ役も、引き締め役も
見た目も年齢よりかなり若く見えるが、プレーも30代にはとても見えない。ただ、経験値という面では最年長らしさを存分に発揮している。周囲に指示を出しながらチームの狙いを体現し、試合の流れも読んで的確なプレーを選択する。練習でもチームの空気が少しでも緩んでいれば、普段の雰囲気とは正反対の厳しい声を出し、周囲を引き締めている。「僕はプロ1年目がヴェルディで、周りが本当に怖かったんですよ。1つのコントロールとかパスで甘いプレーがあれば、すごく怒られる。でも、それでも食らいついていったことで僕は強くなれたと思いますし、1つ1つのプレーに対する厳しさも培えたと思います。藤枝は若い選手も多いですし、ここしか経験していない選手も多いので、ここでの強度が自分の基準になりますよね。僕はそれをもう1つ2つ上げなきゃいけないと感じるシーンがたくさんあるので、言うべきところではしっかり言っていこうと思っています」(梶川)
その一方で、リラックスした場面では年下の選手から「ジジイ!」などとイジられながら率先して場をなごませている。
「サッカー選手としても、人としても、本当に見習うべきところがたくさんある人ですし、日々それを感じさせてもらっています」(久富)と33歳の選手でも言うだけに、同様に感じている選手は多いはずだ。プレーの面でも、プロとしての考え方、生き方という面でも、梶川がチームに与えている影響には大きな価値がある。
だからこそ須藤監督は、J1昇格への想いをより強くしている。
「彼はヴェルディでは一緒にJ1へ行けなかった。でも、J1のピッチに立つのにふさわしい人間だと思うので、うちの選手としてJ1に連れていってあげたいです」
選手としてもう一花咲かせたい梶川本人にとっても、成長過程のクラブにとっても、本当に幸せな移籍となったことは間違いない。その幸せを、J1昇格という形でより大きく実らせるために、今後も彼は惜しみなく動き続け、味方を助け続けるはずだ。
Reported by 前島芳雄