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【取材ノート:名古屋】名古屋グランパス四季折々:森島司の感情表現は、チームの調子のバロメーター

2024年3月22日(金)


“強攻策”が、攻撃の中心人物に火を点けたのかもしれない。前節の柏戦でようやく今季初勝利を挙げた名古屋グランパスは前3節から戦い方をシンプルに収斂したことでその流れを作り出したが、ダイナミックな攻撃を成立させた要因のひとつに1トップ2シャドーが上手く機能したことがあった。相手の高いラインの背後を執拗に突いた1トップの永井謙佑と、強靭なポストプレーで前線に枯渇していた起点を生み出した山岸祐也、そしてこのふたりを献身的にサポートし、攻撃に厚みをつけることに腐心していた森島司。想定していたツートップが負傷がらみでなかなか揃わなかったことで踏み切った“Bプラン”はものの見事に成功を収め、チームは敵地ながら2-0の完勝スコアを手にしている。


無得点での開幕3連敗という状況からすれば劇的でもあった試合を振り返り、「勝つために最低限はできていたんじゃないかなと思いますけど」と森島は言う。2節の町田戦、そしてこの柏戦ではともに90分間のプレーで11kmを超える走行距離をマークしたが、その質は明らかに違っていた。前者は後方でのゲームメイクの補助と動き直しで増えたところが強く、後者は放り込みにも近い展開のボールに追いつき、キープし、前述のような前線の連係の中でのサポートの動きで運動量が使われた印象だ。よく走り、よく守り、身体を張って相手と闘った。「そういうコンディションはまあまあ、悪くはないかと思います」と素っ気ないのは、彼の中では当たり前の部分だからだろう。その意味での強度が高かった柏との試合についても、淡々と前を向く。

「後ろから一生懸命回してあのラインまで行くのもすごく大事ですけど、ゴールキックとか、DFラインから何十メートルも飛ばして起点作って、という方が簡単だし、リスクもないので。あの試合は結果的に、それがすごく良かったと思います。どっちもできるのがいいですけどね。まずはベースとなる、本当にゴール前を守るところだったり、全員で運動量を増やすというのはここまででできたと思うので。そこからの個人個人の部分、ボールを回すところとかはチームとして提示してくれている。そこはここからやっていかないといけないのはわかっているので、試合を重ねながらどんどん良くなっていけばいいかなと、勝ちながらね」



勝ちながら、というのは良い言葉だった。自信に満ち溢れている。どうにかしなきゃともがいていた前3試合とはチームの雰囲気がガラッと変わっているのは彼らの表情を見ても一目瞭然だ。気を抜いているわけではないが、悲壮感のような空気は流れていない。チームがポジティブな状況にあればとりわけアタッカーの気持ちも高まり、前線のユニットに好感触の森島からも前向きの台詞がこぼれだす。

「ポストプレーヤーとか、そういうタイプのFWはけっこう、今までのサッカー人生の中で常にいたので。広島でも。そこのやりやすさは感じるし、やっぱり起点が作れるし、何メートルも簡単にライン上げられるので。それはすごく助かるなと思いますし、トラップした後には囲まれると思うので、そこは簡単にプレーさせてあげたいなと。自分もシャドーなのでゴール前には絶対入っていかないといけないし、逆に3人で崩す場面とかも必要だと思う。そこはもっと上げていきたいし、本当にみんなが合わせられる選手なので。やっていくにつれ、そこはどんどん良くなっていくのかなと思います」



ところで森島といえば、試合時の感情表現が豊かなことも今季は新たな発見だった。負けた時の悔しさ、勝利の喜び、とにかくストレートな感情が彼の表情に直に表れてくる。思えばシーズン前、「今年は練習中の笑顔が多い」と言ったらものすごく恥ずかしそうにしていた。人見知りも手伝って、夏の移籍からの約半年はなかなかメンタル的にも難しかった様子。こうした人間味も彼という選手の魅力の一端だと今は思える。ただ、本人はあまりそれを良いとは思っていないようで…。

「感情は自然に出てるっすね。出したいとは思わないですけど(苦笑)。別に出したいと思わないとかも考えていないです。見られるのは嫌ですね。試合とかも見直さないんで、基本的に。だからそう言われてもわからないんです。自分の試合も、Jリーグの試合も見ないので」

自覚はしているが、確認はしない。どんな表情や態度、仕草に表れているかも森島にはわからない。これまでは苦しい表情が多かったが、ここからは笑顔や勇ましい顔が多く見られるといいなと思う。森島の感情表現は、つまりはそのままチームの状況、好不調、結果を表すものになるからだ。我々は、森島司の良い顔をもっと見たい。

Reported by 今井雄一朗