「何だろうな、ほんとに何もできなかったなって思ってます」
表情は変えずに、声色は自らを責めるように。町田戦を終えた山中亮輔はきっぱりと語った。昇格組が相手の0-1の敗戦は名古屋にとっては22年ぶりの開幕連敗という屈辱感もあり、チームはいまだシーズン無得点という厳しい状況にも彼の責任感は募る。ウイングバックというポジションはサイドの攻守どちらも100%に求められる難しいポジションだが、こと名古屋においては攻撃の部分にその役割が大きくもあるからだ。とりわけ山中には代名詞でもある左キックでのアシスト、チャンスメイクへの期待も大きく、2戦連続無得点はなおのこと重たい数字。何をすべきだった、何が打開策だったのかを考えれば考えるほど、自責の念は強まってもいく。
「やっぱり3バックには後ろが重くなっちゃうところがあるんですよ、どうしても。もう少しポジションチェンジしながら、たとえば俺と(和泉)竜司が入れ替わりながらというのはいろいろ試してはいたんです。そうやっていくことで相手のサイドハーフやサイドバックの選手に、『どっちにつけばいいの?』みたいな、そういうクエスチョンが生まれないと、どこかでフリーにはなっていかない。そこの動きの部分は狙っていたんですけど、なかなかうまくいかなかった印象ですね。前に良い形でボールが入ってなかったので、追い越す動きというのもなかなかできなかったですし、ビルドアップもほんと拙いっていうか…。なかなか良い形で前に運べないので難しさを感じてますし、その中でも個人で打開しないといけないと思っているけど、それもできなかった。ほんとに力不足を感じてます」
何とか起点になろうともがいた結果でもあった。「右利きか左利きかというところで、相手から遠い場所にスクリーンしながらボールを持てる利点を生かしながら運んでいくことは練習からトライはしていたんですけど、でも良い形で前には運べなかった」と孤立しがちなサイドでのプレーの苦悩も語る。わかりやすく武器のひとつである彼には当然相手のマークも警戒心は最大級。「一本もクロスが上げられなかった」という反省点はクロスの部分だけに留まらず、「だからそれをおとりに使う」という部分にまで思考は拡大し、「サイドバックとセンターバックの間に誰かがランニングして、そこで一発背後まで行けていれば」とより深いところにまで至っていた。それができなかった自分たちの失敗、それをさせなかった相手の奮闘の両面がある中で、山中は次のためにと試合を振り返る。
「やっぱり外枠を上手く使えればよかったなとは思っていて。相手は4-4-2だったので、こっちにウイングバックがいるメリットはそこで時間を作れる部分だと思うんです。そこは引き続き、このシステムでやる上ではやらないといけない部分だし、そこで優位性を持たないとこのシステムをやる意味がない。ボールを持った時の背後なのか、縦流しで背後に行くのか、それをオトリに使いながらクサビを打って3人目で前向きサポートなのか。良い形で3人目の前向きの選手を作らないとなかなか厳しいなとは思う。どうしても後ろが重たくなる分、少ない人数で打開しないといけないところもあるんですけど、そこは技術の部分として、やらないといけないかなと思います」
そしてまた「ほんと、全然何もできなかったなって思います」と息を吐き出す。上手くいっていない時にはすべてが悪く見えるもので、そこに自分が大きくかかわっていることも自覚できている。しかしひとりでチームを好転させられるほどサッカーは甘くない。全員が問題意識を持ち、勝ちたいという執念を持たねば何かが変わることはない。差し当たって名古屋の課題は得点で、1点奪えばこの状況にクサビが入るのは間違いのないところ。そのための強力な処方箋はなく、何かを変える必要もない。山中は「決定機が明らかに少ないっていうか、良い形でチャンスになったなっていう場面もないし、その数を増やさないと」と言い、「全部が全部ワンチャンスで入るわけじゃないし、そんなに甘くない」と自分も含めて戒める。やり続ける中で自分たちの最大化を図っていくこと。やれること、やるべきことは結局のところ、そういうことになっていく。
だからこそ山中の「ワンチャンス」に期待したくはなってくる。町田戦の後半に見せたFKからのミドルシュート。GKが弾くことを優先したその独特の軌道とパワーに彼は「あれは持ち味なんで」と事もなげだった。「キャッチはできないボールだったと思うんで、そのこぼれ球は狙えればよかったなと思いますけど」とは仲間たちへの“次”のリクエストだったか。次節はアウェイで手堅い展開も選択肢には入る。そこで光るのは一芸をもった選手たちというのはままあること。プレシーズンでは何度も歓喜の場面を演出してきた背番号66の左足が、今度こそ炸裂することを願っている。
Reported by 今井雄一朗