38分の1であることに間違いはない。ただ、開幕戦には他の節とは違った独特な緊張感がある。明治安田J1リーグ第1節の札幌戦でベスト電器スタジアムのピッチに立った重見柾斗もまたそれを強く感じた一人だった。
それが一つのミスに表れる。17分、中盤でボールを受けたボランチの重見は右にいた井上聖也へ横パス。それを相手のスパチョークにカットされ、ショートカウンターを喰らいかけた。
「本当にあの横パスというのは、中盤の選手として絶対にやってはいけないミス」
激しいポジション争いの中で今春福岡大学を卒業するルーキーが勝ち取った開幕スタメンの座。昨シーズンは特別指定選手としてJ1のリーグ戦で5試合プレーし、強烈なインパクトを残したこともあって、“新人”ということをあまり感じさせないが、この試合がプロデビュー戦。飄々とした姿を見せながらも心の内ではこれまでとは違う硬さがあった。それでも慌てることなく、すぐに気持ちを立て直せるところが只者ではない証だ。
「他の選手が声を掛けてくれたり、自分のマネジメントを上手くしてくれて切り替えてその後プレーできました」
85分にピッチを離れるまでミスを恐れずにチャレンジし続けた。ライン間の狭いスペースでボールを受け、創造性豊かなパスでボールを散らし、機を見てドリブルで運ぶ。相手陣の深い位置にも自ら侵入し、ゴールを狙う攻撃だけでなく、守備でもしっかりと魅せる。相手の可変でワンボランチになる選手とシャドーで降りてくる選手の監視というこの試合で与えられた基本的なタスクをしっかりとこなし、ボール奪取能力の高さも示した。見るものを魅了する「ボックストゥボックス」の中盤のプレイヤーについてダブルボランチを組んだ前寛之はこう話す。
「キャンプから良い準備ができたと思いますし、コンビネーションのところは去年から引き続き二人で話し合う中で高めてこれた部分はあると思うので良かったと思います。彼自身は開幕戦という難しいシチュエーションでしたけど、上手く試合に入ることもできていましたし、良いプレーも多く出てたんじゃないかと思います」
それでも、重見本人は自身の出来を「(100点満点中)50点」と評する。「横や後ろへの選択が少し多かったと思うので、もう少し楔だったり、スルーパス、背後(へのパス)、自分でドリブルで運ぶ。そういう前への選択を増やしていきたいと思います。ドリブルで剥がすシーンというのは2回か3回あって、でも持ちすぎて、運び過ぎて相手に喰われるというシーンが何回かあったので、そこで外してから、人を使ってまた自分が出ていくというところと、自分が行くところという選択の部分で、もう少し良い判断をしていかないといけないと思います。前半はプレスのスイッチの掛けどころというのが非常にはっきりしていたんですけれど、後半はファーストディフェンスが誰が行くのかというのも定まっていなかったし、そこが決まらないと連動するという守備ができないので、まずは自分たち中盤、ボランチから声を掛けてどこで行くのか、どこでスイッチを掛けるのかというのをもっと明確にして前線の人たちに伝えていければ、後ろやサイドの選手というのは分かりやすく連動できると思うので、そういうゲームを俯瞰して見るというか、そういう目というのも養っていかないといけない」。攻守両面で口にした自身の改善点。目指す理想が高いからこそ出てくる課題に向き合うための言葉の数々だ。長谷部茂利監督は厳しくも温かい目で見ている。
「もう少しできる、ボールを取るところ、ボールを出すところ、この2つがもう少しできます。できるけれども、今日のところで言うと、試合中にも伝えたんですけれども、決定的な仕事の前の仕事なのか、そのものなのか、それができるかできないかというのは大きいぞと。多分、彼ができてたら今日は勝っていた。引き分けてしまったのは私の責任だけれども、勝ちに持っていく選手になれるから、そういう観点から言えば、今日は少し足りなかったねという、そういう評価です」
もっとできると思うからこそ、躊躇なく高いレベルをオーダーする長谷部監督。その意味を重見も理解している。勝てなかった悔しさ、思い描くプレーが表現できなかった悔しさ。それを自分の中できちんと糧にし、乗り越えていってくれる期待感が背番号30にはある。
「去年は大学生という立場に守られている部分が少しはあったと思うんですけれど、今年からはそういうのはないですから、自分の力で良い未来を切り開いていきたいなと思っています。期待に応えられるように、自分自身、毎日の練習から成長していきたいです。自分自身にも期待していますし、本当にできると思っているので、日々成長してきたいなと思います」
昨年、大学とJ1でのプレーが評価され、重見自身初めて日の丸を背負った。U-22日本代表としてアジア大会を戦う中で、今年行われるパリ五輪出場は具体的な目標へと変化。その為に今は福岡で力をつけることに集中している。「こういうリーグ戦のところからアピールして、うちのチームからオリンピックに出ていってくれたら嬉しいし、でもそういうところを最終的に目指しているわけではなく、もっともっと上を目指していると思うので、今日は良い1試合目になったと思います」(前)。周囲の大きな期待を背に重見はプロサッカー選手として確かな一歩を踏み出した。
Reported by 武丸善章