プレーを言語化するずば抜けた能力がゆえに、いつも取材で話を聞くのが楽しくて仕方がない。試合に負けたあとも冷静に振り返りつつ、次こそ勝つにはどうすべきか話が発展するので、言葉はどんどん熱を帯びていく。ピッチの内外で仲間に向けてポジティブに意見できるし、J1、J2での経験も豊富。今シーズン、三門雄大がFC今治のキャプテンに就任したことは大いにうなずけるところだ。
しかし本人には最初、「自分でいいのだろうか?」という思いがあったという。
「鹿児島キャンプ中に個人面談があって、服部(年宏)監督からキャプテンはどうかと話があったんです。それで、果たして自分でいいのか、正直な気持ちをすべてさらけ出しました。おととしの夏、大宮アルディージャからFC今治に加入したとき、ピッチに立ち続けて自分のパフォーマンスを出すことが一番チームのためになると思ってここまでやってきましたから」
言葉ではなく、背中で引っ張る。そのスタンスに徹することができたのは、FC今治がJFLからJ3参入に至る戦いを含め、長年リーダーシップを発揮してきた楠美圭史の存在があったからだ。
「今治に来てみたら、キャプテンである圭史がしっかりチームをまとめてくれていたので、本当に助かりました。僕は僕で、自分が大好きなサッカーに専念できた。あと、どれだけ現役でいられるか分かりませんからね。毎日を最大限、充実させたくて今治に来た。そういうこともハットさん(服部監督)には話しました」
大宮時代にキャプテンを務め、その責任と重圧の大きさがどれほどのものか、十分に知っている。だからこそ、今の自分はプレーで示す方がチームのためになるのではないか――。そんな37歳のボランチの心を、指揮官の言葉が動かした。
「ハットさんには『重く考えすぎだよ』と言われました。それからハットさん自身のジュビロ磐田、東京ヴェルディ、ガイナーレ鳥取、FC岐阜と、プレーしたすべてのチームでキャプテンや副キャプテンを務めてきた話も聞かせていただいて。『年齢を重ねてくると、“もう俺じゃなくていいかな”という気持ちにもなってくる。だけどキャプテンというのは、そういう星の下に生まれてきたようなところがあるから。それにキャプテンという立場でしか言えないこともある』。そんなふうに経験も踏まえて伝えてもらったんです。まだ1カ月も一緒にサッカーをしていない段階でそう言ってもらえたわけですからね。うれしかったですよ。
本当にあと何年サッカーできるか分からない中で、僕も後悔はしたくない。2024シーズン、大宮が降格してきたり、しっかり補強したチームがあったり、厳しい戦いになると思います。だけど今治の優勝と昇格のためにすべてをかけて、来年このチームがJ2で戦えるようにしたい。それが自分の役割なんだと、ハットさんと話をしながら気持ちが固まっていきました」
言葉が、やはり熱い。そしてその背中を押した存在が、もう1人。
「奥さんにも相談しました。プロサッカー選手を長くやってきた僕の苦しそうな姿も、逆に楽しそうな姿も全部見ていますから。そうしたら、『何だかんだ言って、結局はキャプテンをやるんだから。頑張れ!』と言ってくれて」
プレーで、言葉で、FC今治を引っ張る。新キャプテンの覚悟は決まった。
Reported by 大中祐二