「おいおい、差ぁつけようとすんなよなー」。15日から始まっている名古屋グランパスの沖縄一次キャンプの練習後には、早くも恒例行事が生まれようとしている。今季、総勢13名の新加入選手を迎え入れたチームだが、山岸祐也と山中亮輔のふたりは同じ千葉県出身で「俺はあいつを小学校の頃から知ってますからね」(山岸)という旧知の仲。さらに既存メンバーには和泉竜司がおり、和泉と山岸は全日本高校選抜でともにプレーしたことのある、これまた旧知の間柄なのである。彼らの共通点は1993年生まれのサッカー選手ということで、名古屋にはもうひとり、GKの杉本大地が93年生まれである。
彼らがとにかく仲が良い。チーム始動前から食事に行く様子がSNSで紹介され、実際にトレーニングを見ていても本当によくコミュニケーションを取っている。冒頭の台詞はそういった彼らのカンパニー感を表す最もわかりやすいやり取りで、声の主は山中だ。ここまで数日のトレーニングを見ていると、終わった瞬間にまず山岸が何も言わずにピッチの大外をクールダウンのために走り出すのだが、山中と和泉は一緒に走りたいと思っているのに山岸が先に走り始めてしまうのである。そこで必ず聞かれるのが、「差ぁつけようとすんなよなー」だ。山岸はおそらく誘っている。彼らが笑顔で追いかけてくるように。だって嬉しそうな顔で並走を迎え入れるから。
もちろん彼らは同い年の集まりとして和気あいあいとしているだけではない。GKの杉本大地は5人体制となった名古屋のGKチームの中では若い三井大輝やピサノアレクサンドレ幸冬堀尾の良き兄貴分としても頼もしく、GKスキルに研究熱心な実力者でもある。フィールドの3人はと言えば17日に行われた今季最初の紅白戦で揃って同じチームに入り、山中は元同僚のキャスパー ユンカーにさっそくアシストを決め、山岸も和泉も攻撃陣の核として違いを見せつけた。今年31歳となる彼らは年齢的にはベテランとも呼ばれるが、蓄積された経験をしっかり表現できる肉体条件が揃った、“脂の乗りきった”時期とも言える。少なくとも練習を見ている限り、彼らのプレーには充実感しか感じない。
かと言って彼らは自分たち93年組を特別な集団とは口にしない。山岸に聞いても「僕、どこに移籍してもけっこう同じ年多いんですよ」と言い、「話しやすいのはありがたいです」とコメントするに留まる。山中も同様だ。「僕は基本的にみんなとコミュニケーション取れるようにしてるし、その方がチームもうまく回る」。ステレオタイプに“絆”とか“特別な存在”というものではなく、気の置けない友人たちなだけ、というのが感じるところ。それだけに何やら青春を感じてしまう微笑ましいやり取りが、彼らの今季を支えてくれるような気もしてくる。
とりとめのない報告になってしまったが、これだけ覚えていてもられば十分だ。2024年の名古屋グランパスには旬のベテランたちが4人もいる。タイトル獲得を目標に掲げるチームにとって、その存在は必ずや大きなものに、そして頼りがいのある世代となってくれるに違いない。
Reported by 今井雄一朗