今季は夏に渡邉りょうがC大阪に、久保藤次郎が名古屋に、昨年末には内山圭が鳥栖に、藤枝から3人がJ1の舞台へと羽ばたいていった。アマチュアやJ3からスタートした無名選手が藤枝で大きく成長し、力強くのし上がっていく。それはチームとしても同様で、降格候補としてスタートしたJ2初挑戦の今季、藤枝旋風を巻き起こし、J3の2位で初昇格したチームとしては初めて残留に成功した(12位)。
そうしたサクセスストーリーがたくさん見られるのも、発掘力や育成力に定評のあるこのチームならではの楽しみと言える。
その意味では、今季また1人“成り上がり”が楽しみな選手が加わった。8月にJ3のFC大阪から期限付き移籍してきたボランチ・西矢健人だ。
神戸市出身でヴィッセル神戸U-15、大阪桐蔭高、明治大と名門でプレーしてきた西矢だが、大卒でのプロ入りは叶わなかった。それでも夢をあきらめず、2022年に当時JFLだったFC大阪に加入。すぐに主力として活躍してチームのJ3昇格に貢献し、今季は移籍する20節までフル出場してチームの躍進(当時7位)に大きな役割を果たした。とはいえ今季も当初はアマチュア契約で、移籍直前まで協賛企業でアルバイトをしていた。
そこから藤枝に来て初挑戦したJ2では、登録直後から交代出場し、4試合目(34節・熊本戦)で初先発。そこで9試合ぶりの勝利に貢献し、最終節まで10試合連続で先発して定位置を確保。先発した試合では4勝3分3敗と、残留争いからの脱出にも大きく寄与した。
チームとしては、中盤の守備で大きな役割を担っていた主将の杉田真彦と河上将平が負傷で長期離脱となり、彼らに代わるボールの“狩り取り役”として獲得した選手だったが、その期待にも見事に応えて見せた。
そんな西矢のプレーで筆者が最初に強い印象を受けたのは“予測力”の高さだった。ボールを奪いに行く際やセカンドボールの回収時に見せるスタートの早さは、明らかに目を惹くものがあった。そこは西矢本人も意識して磨いている部分だと言う。
「自分はそんなに身体能力に優れている選手じゃないというのは自分でもわかっているので、相手より一歩早く動くというのが大事ですし、相手がどこを狙うだろうなという予測を研ぎ澄ませておくのは、一番意識しているところです。逆にそのアラートさがないと自分は生き残っていけないと思うし、足が急に速くなることはないけど、そういう部分はもっともっと伸ばしていけると思うんですよね。だから練習からいろいろトライ&エラーを繰り返して、自分の中で精査して、鉛筆の芯みたいに尖らせていきたいです」(西矢)
大学時代までは「セットプレーも含めて左足のキックとか展開力のほうが持ち味だったと思います」と本人も振り返るが、FC大阪が守備を大事にするチーム(西矢の在籍時はJ3最少失点)だったこともあり、加入してから1年半で守備能力を大きく伸ばしてきた。機動力や運動量、ポジショニング等にも磨きをかけ、1試合平均インターセプト数はJ2リーグ5位(0.4回)。藤枝ではむしろ守備面のほうが高く評価されている。
ただ、今季のJ2では得点0、アシスト1で、「元々得意ではなかった部分で評価されているのは、正直複雑なところもあります。もっと攻撃面で持ち味を出して、得点にも絡んでいきたいです」と本人は言う。左利きで質の高い長短のキックは元々持っているので、そこも今後の伸びしろと言えるだろう。
もうひとつ彼が伸びると感じる理由のひとつに、その考え方やメンタリティがある。先の発言にもあったように、自分自身を冷静に分析して足りないところを見極め、それを補っていくために前向きなチャレンジを続ける頭脳もある。また、勝つために何をするべきかという部分も、つねに冷徹に考えている。
「どんなに良いサッカーをしていても、プロだから勝点3が取れないと評価されないし、本当に細かい部分でも隙を見せないというのを徹底していかないと、J2の相手はそこを逃してくれないと思います。レベルが上がるほど本当に細かいギリギリのところの勝負になると思うので、今どういう時間帯だとか、チームがフワッとしてるなとか思ったら、どんどん声をかけるようにしています」
須藤大輔監督も「(西矢は)危ないところを感じとる力がある」と高く評価している。そして相手が年上だからとか加入早々だからというのは一切気にせず、プレー中はガンガン周囲に声をかけている。DFの小笠原佳祐も「最初からあんなにしゃべれる選手はなかなかいない」と舌を巻いた。
「物怖じする」という言葉は彼の辞書にはなく、「プロ向きの性格」という言葉がよく似合う選手だ。
その西矢が、期限付き移籍から完全移籍に移行して、来季も藤枝でプレーすることが12月4日に発表された。
杉田がケガから復帰すればポジション争いはより厳しくなるだろうが、それで成長が滞る選手ではない。たとえ先発を外れる期間があったとしても「今こそ自分を鍛えるチャンス」と捉えて、自力で這い上がってくるだろう。
藤枝には今のうちから青田買いで注目してほしい選手が多いが、その中でもイチ押しの1人だと筆者は感じている。
Reported by 前島芳雄
そうしたサクセスストーリーがたくさん見られるのも、発掘力や育成力に定評のあるこのチームならではの楽しみと言える。
その意味では、今季また1人“成り上がり”が楽しみな選手が加わった。8月にJ3のFC大阪から期限付き移籍してきたボランチ・西矢健人だ。
神戸市出身でヴィッセル神戸U-15、大阪桐蔭高、明治大と名門でプレーしてきた西矢だが、大卒でのプロ入りは叶わなかった。それでも夢をあきらめず、2022年に当時JFLだったFC大阪に加入。すぐに主力として活躍してチームのJ3昇格に貢献し、今季は移籍する20節までフル出場してチームの躍進(当時7位)に大きな役割を果たした。とはいえ今季も当初はアマチュア契約で、移籍直前まで協賛企業でアルバイトをしていた。
そこから藤枝に来て初挑戦したJ2では、登録直後から交代出場し、4試合目(34節・熊本戦)で初先発。そこで9試合ぶりの勝利に貢献し、最終節まで10試合連続で先発して定位置を確保。先発した試合では4勝3分3敗と、残留争いからの脱出にも大きく寄与した。
チームとしては、中盤の守備で大きな役割を担っていた主将の杉田真彦と河上将平が負傷で長期離脱となり、彼らに代わるボールの“狩り取り役”として獲得した選手だったが、その期待にも見事に応えて見せた。
そんな西矢のプレーで筆者が最初に強い印象を受けたのは“予測力”の高さだった。ボールを奪いに行く際やセカンドボールの回収時に見せるスタートの早さは、明らかに目を惹くものがあった。そこは西矢本人も意識して磨いている部分だと言う。
「自分はそんなに身体能力に優れている選手じゃないというのは自分でもわかっているので、相手より一歩早く動くというのが大事ですし、相手がどこを狙うだろうなという予測を研ぎ澄ませておくのは、一番意識しているところです。逆にそのアラートさがないと自分は生き残っていけないと思うし、足が急に速くなることはないけど、そういう部分はもっともっと伸ばしていけると思うんですよね。だから練習からいろいろトライ&エラーを繰り返して、自分の中で精査して、鉛筆の芯みたいに尖らせていきたいです」(西矢)
大学時代までは「セットプレーも含めて左足のキックとか展開力のほうが持ち味だったと思います」と本人も振り返るが、FC大阪が守備を大事にするチーム(西矢の在籍時はJ3最少失点)だったこともあり、加入してから1年半で守備能力を大きく伸ばしてきた。機動力や運動量、ポジショニング等にも磨きをかけ、1試合平均インターセプト数はJ2リーグ5位(0.4回)。藤枝ではむしろ守備面のほうが高く評価されている。
ただ、今季のJ2では得点0、アシスト1で、「元々得意ではなかった部分で評価されているのは、正直複雑なところもあります。もっと攻撃面で持ち味を出して、得点にも絡んでいきたいです」と本人は言う。左利きで質の高い長短のキックは元々持っているので、そこも今後の伸びしろと言えるだろう。
もうひとつ彼が伸びると感じる理由のひとつに、その考え方やメンタリティがある。先の発言にもあったように、自分自身を冷静に分析して足りないところを見極め、それを補っていくために前向きなチャレンジを続ける頭脳もある。また、勝つために何をするべきかという部分も、つねに冷徹に考えている。
「どんなに良いサッカーをしていても、プロだから勝点3が取れないと評価されないし、本当に細かい部分でも隙を見せないというのを徹底していかないと、J2の相手はそこを逃してくれないと思います。レベルが上がるほど本当に細かいギリギリのところの勝負になると思うので、今どういう時間帯だとか、チームがフワッとしてるなとか思ったら、どんどん声をかけるようにしています」
須藤大輔監督も「(西矢は)危ないところを感じとる力がある」と高く評価している。そして相手が年上だからとか加入早々だからというのは一切気にせず、プレー中はガンガン周囲に声をかけている。DFの小笠原佳祐も「最初からあんなにしゃべれる選手はなかなかいない」と舌を巻いた。
「物怖じする」という言葉は彼の辞書にはなく、「プロ向きの性格」という言葉がよく似合う選手だ。
その西矢が、期限付き移籍から完全移籍に移行して、来季も藤枝でプレーすることが12月4日に発表された。
杉田がケガから復帰すればポジション争いはより厳しくなるだろうが、それで成長が滞る選手ではない。たとえ先発を外れる期間があったとしても「今こそ自分を鍛えるチャンス」と捉えて、自力で這い上がってくるだろう。
藤枝には今のうちから青田買いで注目してほしい選手が多いが、その中でもイチ押しの1人だと筆者は感じている。
Reported by 前島芳雄