面白くなってきた、と感じた。4日に地元クラブチームとの練習試合を行なった名古屋グランパスは45分3本の試合時間を大きく半分に分け、メンバーを入れ替えて様々な調整とテストを実施。その2本目のメンバーで3バックの一角を担ったのが高卒新人の行徳瑛で、プレーの端々に成長の跡を見せつけた。その試合後、各ハーフで1点ずつを奪って勝利したその内容について、「やっぱりもっとチャレンジしながら、3点目、4点目っていうところを狙いながらやってた方が良かったなって」と何とも意欲的な台詞が飛び出したのである。
苦労続きのルーキーイヤーだった。名門・静岡学園高からそのポテンシャルを高く評価され加入するも、沖縄でのキャンプでは折り返し時点で負傷。プロのDFとしてのパワー、スピード、間合いなどに「楽しいです」と笑顔を見せていた矢先の離脱はまだ軽傷で済んだが、名古屋に戻って2月に行われた練習試合で鎖骨骨折の重傷を負った。意気揚々と臨んだプロ1年目の前半は治療とリハビリ、補強運動に費やし、若手の多くを起用したルヴァンカップや天皇杯にも間に合わなかった。後半戦幕開けの時点では三冠の可能性を残していたチームは過密日程も続き、練習試合も満足に行えないまま季節は秋へ。ただでさえ実戦経験が不足しがちな若手にとって、煮え切らない毎日だったことは想像に難くない。
だが、めげなかった。ケガのリハビリと並行して筋力トレーニングにも励み、明らかに細身だった体格は徐々にではあるが厚みを増してきた。補強の成果には手応えもあるらしく、話を降ると嬉しそうに笑う。「体重は1キロぐらい増えただけなんですけど、デカくなってきたのは感じます」。競り合う時点で不利な状況になっていたシーズン前半とは打って変わって、身体を当ててもスピード勝負をしても、対応できる回数が増えてきている。永井謙佑を追いかけ、マテウスと対峙し、ユンカーと駆け引きをすれば、そりゃあ良い経験ができるに決まっている。先輩の藤井陽也はジョーと闘い、シュヴィルツォクとやり合ってきた。良いFWがいるチームの若手DFは、そういった意味では幸せな環境にいるとも言える。
そして蓄えた実力を試す場として迎えた4日のトレーニングマッチで、件の発言である。ここはもう少し補足が必要なので、まずは行徳本人の言葉を聞いてほしい。
「今日はボールを奪った後にしっかりつなぐところ、前につけるところ、急がずにしっかり後ろで組み立てるところの使い分けはそれなりにはできてはいたと思います。でも、チームが得点を取ってから、全体的に一旦ステイしようっていうような空気が出てきて。そこはやっぱりトレーニングマッチですし、得点を取ってからはボールを持つ時間を長くして、勝つというのが良いってわけでもないにで。やっぱりもっとチャレンジしながら、3点目、4点目っていうところを狙いながらやってた方が良かったなっていうのは、自分の中では思います」
昨今のチーム事情を思えばなかなか勝利がつかみきれない中で、得点後のゲーム運びというのは課題のひとつにもなっていた。入れ替え後のいわゆるBチームにあってもその意識、あるいはスタッフから提示されたテーマとしてもあったのかもしれないが、行徳は前に行くべきだったと言うのである。若さゆえの無鉄砲で言っているのではない。前述のチーム状況に対して、長谷川健太監督はじめチームにはそれでも「追加点を狙いに行く」という大前提があり、新人の、しかもセンターバックにまでその哲学が徹底されているということでもある。
興味深いのは行徳の心持で、「自分だけがそこで行くわけにもいかないですしね」と返すと、「でもそれを自分から発信したり、プレーで示すっていうのもひとつだと思います。チーム全体で揃えてやっていかないといけないことだと思うんで、自分的には最後までそうやりたかった」と言うのだ。仲の良い中島大嘉とまでは言わないが、それでも行徳が自己主張の強いタイプとはこれまでは思う場面は少なかった。だが、考えてみれば名門静学のキャプテンを務め、父親も岐阜などで監督を務めた元プロサッカー選手である。サッカーに対する、自分に対する自負が弱いわけがなく、こうして我が出てきたのはそれだけの力が備わってきた証拠だと思った。プロで生き残っていくための覚悟と同時に。
「アピールができたまではいかないです、やっぱり。練習試合の最後に1本、クロスも上げられてますから。J1ではその1本が命取りになるような場面がありますし、そういった1本、1本にこだわって、試合を通してやっていかないと。空中戦も、DFラインはシンプルにそこで負けたら一発でピンチになるポジションです。1本でも多く勝つってところは意識しながらやっています。試合に絡むためには信用が、センターバックは絶対に信用が必要なポジションなので、そういったところはこういう日頃の1本からこだわってやっていきたいです」
何とも気持ちのいい、貪欲で気骨ある発言だった。今季の残る3試合にチャンスがあるかはわからないが、その瞬間に自分を表現する準備は怠らない。「いつチャンスが来ても、そういう場面が来ても、そういったプレーが出せるような取り組みをしていきたい」。19歳は真っ黒に日焼けした顔をにっこりと崩し、日々のトレーニングへとまたその身を投じていった。彼もまた名古屋の未来の一部であり、早くそのパフォーマンスが見たい逸材のひとりだ。
Reported by 今井雄一朗